いよいよ26日に最終回を迎える大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)。青天を衝くかのように高い志を持って未来を切り開いてきた“日本資本主義の父”渋沢栄一(吉沢亮)の物語がついに幕を閉じる。史実に基づきながら、人間ドラマを巧みに織り込み、見るものの心を大いに動かす人間味あふれる栄一を描き出した脚本家・大森美香氏に、物語を書き終えた心境や本作に込めた思いなど聞いた。

  • 『青天を衝け』渋沢栄一役の吉沢亮(右)、渋沢喜作役の高良健吾

大森氏は「書いている途中でコロナ禍になり、本当に放送されるんだろうかとかいろんなことが心配になりながら書いていましたが、最終回まで書き終えることができ、撮影も無事に終わって、すごくホッとしました」と安堵。「書いている途中から視聴者の声も聞こえてきて、それにもすごく励まされました」と感謝した。

コロナ禍で撮影現場に行くことはできなかったという。「実際に役者さんたちがどう動くのか見ながら書けたらいいなと思っていたのができなくなってしまい、現場との一体感がなかなか感じられない中で書いていく心細さはありました」と吐露するも、「撮影した映像が届くようになってからはすごくワクワクしながら書きました」と笑顔を見せた。

新一万円札の顔としても注目される渋沢栄一は、約500の企業を育て約600の社会公共事業に関わった“日本資本主義の父”で、晩年は民間外交にも力を注ぎ、ノーベル平和賞の候補に2度選ばれている。本作でももちろん実業家として活躍した姿を描いているが、それ以上に、幼少期から青年期を重点的に掘り下げた。

脚本を手掛けた大森美香氏

大森氏はその理由を「渋沢栄一さんを書こうと思ったときに、どうしてこういう人生になったのかわかりにくい人だと思いました。もともとお百姓さんをしていたのが、なんで尊王攘夷の志士になったのか、なんでそこから一橋家に入ったのか、パリから帰ったらなんで新政府のほうに行ったのか、そして実業家になったのか、メンタルがよくわからなかった。その気持ちの経緯が理解できないと栄一さんの魅力がわからないと思ったんです」と説明。

続けて、「根っこにあるのは両親の教え、そして、子供の頃から自分も畑に出て働いて、お父さんにくっついて商売も見ていて自分でもやっていたという部分がきっちり描かれないと、なんでこういう人生になったのかわからないなと。お母さんの大きな愛情と、お父さんから教えてもらう“人生はこういうものなんだ”という素養も大事で、そこがないと渋沢栄一さんという人を皆さんにわかってもらえないと思いました」と語った。

栄一の物語と並行して徳川慶喜(草なぎ剛)の物語も描くことで、違った視点から当時を知ることができた。大森氏は「どんな時代に栄一さんが育っていたのかという背景を、慶喜さんの世界で描かせてもらいましたが、その背景が描かれないと、栄一さんの思いや行動を伝えられないと思ったので、こういう構成にしました」と解説する。

大森氏は「偉人伝ではなく人間ドラマとして描きたい」と考えていたという。その狙い通り、栄一の生い立ちをしっかりと描くことで、応援したいと思うような愛される人物に。「いろいろなものを読んだ印象だと、栄一さんももちろんえらいですが、お父さんとお母さんがえらい。さらに奥さんもえらくて、だから栄一さんはのびのびと才能を伸ばすことができたのだと思い至ったので、視聴者の方も一緒に育てていくという思いで見ていただけたらと思っていました」と語る。