マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、中国恒大集団のデフォルトについて解説していただきます。


12月9日、大手格付け会社のフィッチは、中国の大手不動産開発コングロマリット、恒大集団(英名エバーグランデ。以下、中国恒大)をデフォルト(債務不履行)と認定しました。6日に支払い猶予期限が到来した米ドル建てオフショア債の利払いの履行が確認できなかったためで、「一部デフォルト(RD)」としました。フィッチは同時に、7日に償還ができなかった佳兆業集団(カイサ)についても「一部デフォルト」と認定しました。

「一部デフォルト」は特定の債券の利払いや償還を停止した場合に適用されます。利払いや償還が不可能であることが判明したり、支払いを拒否したりした場合の「デフォルト」と区別されています。同様にS&P社は「選択的デフォルト(SD)」と定義していますが、ムーディーズは両者を一律に「デフォルト」としているようです。

クロスデフォルト条項

中国恒大がデフォルトと認定されたことで、全ての債務がデフォルト扱いとなるクロスデフォルト条項が発動される可能性が高そうです。その場合、中国恒大は全ての債権者と協議して債務のリストラクチャリング(再編)を行う必要があるようです。

秩序だった債務リストラ

中国恒大が本拠を置く広東省の金融当局はすでに「リスク管理委員会」に人材を派遣しており、デフォルト認定を契機に債務リストラが加速する可能性もあります。当局の監視の下で秩序だった債務リストラが進むならば、中国恒大は事業を継続することも可能ですし、仮に清算されたとしても、金融市場への影響は限定的となりそうです。

無秩序な破たん

一方で、中国当局は、中国恒大の金融商品に投資した中国国内の個人投資家に対して優先的に資金を返済するように指示しているとの指摘もあります。その場合に債権の大幅な減免を求められるだろう国外投資家が債務リストラの協議で合意しない可能性も出てきそうです。

債権者からの同意が得られなければ、中国恒大が無秩序に破たんするような事態もありえます。その場合、中国恒大の取引先の連鎖破たん、不動産市況の一段の下落、融資する金融機関の不良債権の増大、同業他社や信用力の低い企業への貸し渋り(クレジットクランチ)など、コンテイジョン(危機の伝播)が起こる可能性もあります。

コンテイジョンは回避されるか

中国当局はこれまで経済全体の債務増大を抑制する政策をとってきたこともあって、モラルハザードを回避するためにも中国恒大を救済する意思はないようです。PBOC(中国人民銀行=中央銀行)は、中国恒大の問題は「(当局の介入ではなく)市場メカニズムを通じて解決される」としています。その一方で、PBOCは上述したコンテイジョンの封じ込めには自信をみせているようです。

金融市場は中国恒大のデフォルトをほぼ織り込んでおり、今のところ冷静に対応しているようです。ただし、リーマンショックを例に挙げるまでもなく、金融市場は複雑につながっているので、想定外の事態に発展しないか、注意は怠れないでしょう。