羽生玉の死命を制した角打ちと飛車回り

渡辺明王将への挑戦権を争う第71期ALSOK杯王将戦(主催、毎日新聞社・スポーツニッポン新聞社)の挑戦者決定リーグ、11月9日に▲羽生善治九段(3勝1敗)―△藤井聡太三冠(3勝0敗)戦が行われました。結果は106手で藤井三冠が勝利し、リーグでただ一人の無敗を守りました。

■羽生九段が矢倉を志向

本局は先手番の羽生九段が矢倉を目指したのに対し、藤井三冠は急戦策を取ります。藤井三冠が後手番の矢倉を指すのは8月6日に行われた竜王戦決勝トーナメントの対八代弥七段戦以来となります。序盤の早い段階で角交換はありましたが、本格的な戦いとなるとまだ先は長そうな展開でした。

先に局面を動かしたのは羽生九段でした。持ち駒の角を自陣の端に打ち付けて、遠くから藤井陣をにらみます。対して藤井三冠はその角に遠く狙われた飛車を中央に転換し、均衡を保ちます。ジリジリした局面が続き、それでも駒が集中している中央から戦いが起こるのかとみられていましたが、藤井三冠の手は意外なところに伸びました。自玉に近い2筋の歩を動かして、戦いを起こしたのです。対して羽生九段も隣の1筋の歩を突いて、ここから本格的な戦いが始まりました。

そして羽生九段は自陣の角を敵陣の金と刺し違えて、その金で後手の玉頭を押さえに掛かります。同時に銀取りにもなっているので、先手が一本取ったかに見えましたが、藤井三冠も技巧を凝らして、まだ互角の局面が続きます。

■攻防手連発で藤井三冠が抜け出す

迎えた最終盤で藤井三冠が中央に放った角が好手でした。自玉の頭を押さえている攻め駒の金に働きかけると同時に、先手玉の受けの要駒も狙っている一石二鳥の手です。以下、羽生九段は藤井三冠の玉頭に迫りますが、お互いの玉の危険度を見切った8筋への飛車回りが決め手となりました。後手玉の逃げ道を開けただけでなく、先手玉へ狙いをつけた詰めろになっています。形を作った羽生九段に対し、藤井三冠は先手玉を即詰みに打ち取りました。これで王将リーグ4連勝です。「残り2戦。あまり挑戦のことは意識せずに次の対局に臨めればと思います」と語りました。

一方で敗れた羽生九段ですが、まだ挑戦の目がなくなったわけではありません。自身が残る1局を勝って、藤井三冠が連敗すればプレーオフの可能性はあります。「次も全力を尽くしたいと思います」と、次戦に向けて切り替えていました。

相崎修司(将棋情報局)

ジリジリとした戦いを制し、藤井三冠は挑戦に向けて視界良好(提供:日本将棋連盟)
ジリジリとした戦いを制し、藤井三冠は挑戦に向けて視界良好(提供:日本将棋連盟)