「研究通りに進んだことで藤井三冠の強さを感じた」と深浦九段

第71回NHK杯将棋トーナメント(主催:日本放送協会)の▲深浦康市九段―△藤井聡太三冠戦が10月31日に放映されました。結果は95手で深浦九段が勝利し、ベスト16に進出しました。

本局は深浦九段の先手番で相雁木に。早指しのTV棋戦ということもありますが、序盤における深浦九段のハイペースは尋常ではありません。間違いなく研究範囲の進行であることをうかがわせるものです。放映後に話をうかがったところ「▲8八玉・△2二玉の形から仕掛けるのが一つのテーマ」ということでした。

中盤、深浦九段は守備駒の銀を自ら▲5六銀とぶつけます。△同銀と取らせたことで3四の地点にスキを作り、その瞬間に一気に攻めかかろうという大胆な手です。深浦九段は「守備駒の銀をぶつけて空間を作り、そこに桂を打つのが面白い順だなと思ったのが、研究の出発点です」と教えてくれました。ただその局面が実際に現れる確率はそれほど高くないとも思っていたそうで「思い描いた局面が盤上で具現化したのが将棋の面白さだと思いますし、それが実現したことは藤井さんの強さがあってこそです」と言います。

深浦九段によると、中盤で▲3四桂と両取りに打った局面あたりまでは研究の範囲だったそうです。NHK杯戦では対局と同時進行でAIによる期待勝率が画面に表示されていますが、ここでは互角~先手ややよしくらいの数値だったでしょうか。
この数手後に▲2三飛成という、飛車金交換を辞さない大技が先手から出ます。「これを許す順を選んできたのがやや意外でしたね」と深浦九段は振り返りました。この大技が炸裂してからは先手に形勢が傾きました。

最終盤で▲7二銀と飛車取りに打ったあたりで「数手後の寄せ形が見えましたね」と言います。その寄せ形とは▲6七金左と、上部脱出を図る後手玉を押さえる、まさにトドメの一着です。▲6七金左は、先手玉を守る金が離れてしまうので、形はつい▲6七金直と指したくなるのですが、これは△6九飛と打たれると一気におかしくなります。画面の期待勝率もここでは99%対1%になっていましたが、一手でも間違えると奈落の底に落ちるのが将棋の怖さでもあります。

最後の罠も回避した深浦九段が以下数手で藤井三冠を投了に追い込みました。これで両者の対戦成績は深浦九段の3勝1敗となりました。現時点で藤井三冠に2勝以上勝ち越しているのは深浦九段だけです。

改めて本局について深浦九段に聞きました。「藤井さんに限らず、時の第一人者との対局が決まれば、研究の段階から気合が入ります」。本局の序中盤については「実戦例がないのでぶつけてみました。対局中の雰囲気からしても、おそらく藤井さんの研究範囲外だったと思うのですが、それにも関わらず正確に指してきたのが藤井さんの強さだと改めて感じました」と。

深浦九段には「地球代表」の異名があります。対してその強さから「将棋星人」とまで呼ばれている藤井三冠。本局では地球代表が将棋星人の侵略から守り切りました。深浦九段が弟子の佐々木大地五段とともにツイートしている「深浦一門」のアカウントには終局直後からお祝いのコメントが集まりました。「ツイッターで『地球代表』がトレンド入りしていることに驚いています」と最後に深浦九段は語りました。

相崎修司(将棋情報局)

2021年11月1日12時56分、訂正:文中において以下符号が誤っており、以下のように訂正させていただきました。ご迷惑をお掛けした読者の皆様、ならびに関係各位に深くお詫び申し上げます。 ▲6七金右 (誤)→▲6七金左 (正)

2期前の第69回大会で優勝している深浦九段
2期前の第69回大会で優勝している深浦九段