「お願いいたします」は、気が付かないうちに誤った使い方をしやすい敬語です。また「お願い致します」と表記されることもあり、どちらが正しいのか悩む方も多いでしょう。
本記事では、「お願いいたします」の意味や成り立ち解説しながら、正しい使い方や例文を紹介します。また、「お願い致します」とどちらの表記が正しいのかや、言い換え表現などについても解説します。
「お願いいたします」は間違った敬語?
「お願いいたします」は、相手に何かを依頼する時によく使う表現で、「お願い」と「いたします」の組み合わせで成り立っています。「お願い」とは、依頼や希望、要望などを幅広く表現する言葉です。「お」は謙譲の接頭語で、「御」と書くこともあります。「いたします」とは「する」の謙譲語「いたす」に丁寧の助動詞「ます」が付いた、丁寧な表現です。
二重敬語なので本来は誤り
通常、謙譲語と謙譲語、尊敬語と尊敬語など同じ種類の敬語が重ねて使うことは「二重敬語」であり誤りとされます。
「お願いいたします」も謙譲語が2回使われており、厳密には二重敬語です。しかし、一般的に広く使われているため使っても問題ありません。
「お願い致します」とどちらが正しい表記?
動詞の「いたします」は漢字で書くと「致します」です。しかし、「お願いいたします」の「いたします」は補助動詞なので漢字で書くのは間違っています。
補助動詞とは動詞が本来の意味と独立性を失い、付属的に意味を添えたり敬意を表したりするために用いられるもので、漢字は使われません。「お願いいたします」の「いたします」も「お願いする」ことに添えられた補助動詞であることから、漢字で書かずに平仮名で書きましょう。
「宜しく」も間違い
「お願いいたします」はよく「よろしくお願いいたします」といった表現で使われますが、「いたします」と「致します」と同様に、「よろしく」と「宜しく」ではどちらを使うのが正しいのでしょうか。
結論を言うと、ひらがなの「よろしく」が正しい表記になります。
実は「宜しく」は常用漢字表に含まれていないのです。「宜しく」は慣例的に使われる場合もありますが、ひらがなの「よろしく」を使うのが無難でしょう。
「お願いいたします」の使い方と例文
ここからは、「お願いいたします」の使い方やビジネスで使える例文を紹介していきます。
目上の人に使える?
「お願いいたします」は敬語にあたるので、目上の人や取引先に対して使うことができます。
「報告書を提出いたしました。ご確認よろしくお願いいたします。」や「来週の打ち合わせも、どうぞよろしくお願いいたします。」といった使い方が可能です。
より丁寧な印象にできる表現もありますが、このまま使っても特に問題ありません。
「どうぞ」「何卒」は合わせて使うべき?
「お願いいたします」と組み合わせてよく使われる副詞に、「どうぞ」や「何卒」などがあります。
「どうぞ」とは、丁寧に頼む時や、心から願う気持ちを伝えたい時に使われる言葉です。「何卒」は、相手に対して強く願う気持ちを表したい時に使われます。
「どうぞ」「何卒」ともに、いつも使っていると定型文のように思われてしまい、丁寧さが伝わりにくくなる表現です。使うのはここぞという時だけに留めておくのがいいでしょう。
ビジネスで使える「お願いいたします」の例文
「お願いいたします」は、挨拶として使う場合と、何らかの依頼をする時に使う場合とがあります。依頼する場合には「大変恐縮ではございますが」「お忙しいところ申し訳ございませんが」などクッション言葉を入れて使うとスムーズです。
・本日はどうぞよろしくお願いいたします
・今後ともよろしくお願いいたします
・お忙しいところ申し訳ありませんが、見積書をお送りいただけますようよろしくお願いいたします
・大変恐縮ではございますが、○月×日までにお返事いただけますようお願いいたします
「お願いいたします」の言い換え表現
「お願いいたします」と同じような状況で使われる表現に、「お願いします」や「お願い申し上げます」といった類似・言い換え表現などがあります。いずれも「お願いする」の敬語表現で意味は共通していますが、使うべき相手や状況が異なる点には注意しましょう。
「お願いします」
「お願いします」は「お願いする」に尊敬の補助動詞「します」が付いた表現であり、敬語表現のひとつです。敬語として間違ってはいないものの、やや命令口調のように思われやすい表現でもあり、目上の人には「お願いいたします」を使うのが望ましいでしょう。
「お願いします」の類語表現としては「お頼みします」「切望いたします」などがありますので、あわせて活用してください。
・ミーティングは明日の11時ですのでよろしくお願いします
・期日までに提出いただけますよう、よろしくお願いします
「お願い申し上げます」
「お願いいたします」と「お願い申し上げます」には、本来は大きな意味の違いはありません。「いたします」「申し上げます」ともに一般的な謙譲語表現であり、目上の人にも使える表現です。
ただし、「申し上げます」の方が日常会話での使用頻度が低いことから、より丁寧かつフォーマルに聞こえますので、そういった場面では「お願い申し上げます」を使いましょう。逆に日常的に接する上司に「お願い申し上げます」を使うと堅苦しく聞こえますので、「お願いします」や「お願いいたします」がおすすめです。
・来週までにご入金いただけますようお願い申し上げます
・どうかご容赦いただけますようお願い申し上げます
「お願いしたく存じます」
「お願いしたく存じます」は、謙譲の接頭語「お」と「思う」の謙譲語「存じる」を用いた「お願いしたいと思っています」の敬語表現になります。「存じます」は口語ではあまり使わないため、「お願いしたく存じます」はメール等の書き言葉で使う表現です。
・お忙しいところ恐れ入りますが、ご確認のほどお願いしたく存じます
・お手数をおかけし恐縮ではございますが、ご記名をお願いしたく存じます
「お願いできますでしょうか」
「お願いできますでしょうか」は「お願いできますか」の丁寧な表現です。相手に対応可能かどうか尋ねる時によく使われます。
「お願いできますでしょうか」は「ます」「でしょうか」と丁寧語が2種類含まれた二重敬語ですが、一般的によく使われている表現です。ただし、できれば「お願いできますか」と正しい敬語に言い換える方がいいでしょう。
・決済をお願いできますでしょうか
・納期の延長をお願いできますでしょうか
「お願いいたします」の英語表現
ビジネスで英語を使う機会があるなら、「お願いいたします」の英語表現も覚えておきましょう。ここでは、「お願いいたします」という意味を含む代表的なフレーズを紹介します。
「今後もよろしくお願いいたします」
・We are looking forward to working with you. (今後ともよろしくお願いいたします)
・I'm looking forward to our future business dealings in the days ahead. (今後ともよろしくお願いいたしま※丁寧な表現)
・Thanks for putting up with us. (今後ともよろしくお願いします※ややカジュアルな表現)
ビジネスで「今後もよろしくお願いいたします」と伝えたい場合は、「これからも仕事を一緒にするのを楽しみにしています」というニュアンスの表現を使います。直訳する表現はありませんので、上記の例文を参考に、シチュエーションに合わせて使い分けてください。
依頼をする場合の「お願いいたします」
・Could you find out that is going on? (どうなっているのか調べていただけますようお願いいたします)
・Could you show me how to use the machine? (その機械の使い方を教えていただけますようお願いいたします)
相手に何かをお願いしたり依頼したりする場合よく使われる表現が、「Could you~」や「Would you~」などです。「~していただけませんか」「~していただけますか」などの意味がありますので、丁寧にお願いする場合に使えます。
ビジネスメールで締めくくる場合の「よろしくお願いいたします」
・Best regards. (何卒よろしくお願いいたします)
・Thanks in advance. (引き続きよろしくお願いいたします)
・Thank you for your continuous support. (今後ともよろしくお願いします)
・I'm looking forward to hearing from you. (ご連絡よろしくお願いいたします)
・I'm looking forward to working together with you soon. (また近いうちにお仕事できることを楽しみにしています※今後ともよろしくお願いしますと同義)
メールの最後に「今後ともよろしくお願いします」と添えたい場合には、定型句である「Best regards」のほか、さまざまな表現があります。上記の例文を参考に、自分の状況に合う表現を活用してください。
「お願いいたします」を適切に使おう
相手に何かを依頼する場合に使う「お願いいたします」は、依頼や希望、要望を表現するフレーズです。「お願いいたします」は、謙譲語と丁寧語が組み合わせられた二重敬語であり、敬語の成り立ちとしては誤りです。しかし一般的に使われている表現であり、使っても問題ありません。
「お願いします」「お願い申し上げます」など、同じ意味を持つ表現も多いですが、敬意の程度など違いを理解すると、うまく使い分けられます。
この記事の内容を参考に「お願いいたします」の用法をマスターして、ビジネスシーンで正しい敬語を使いこなしましょう。