■6位:役者トライアングルと夏の風情を楽しむファンタジー『凪のお暇』(TBS系)

黒木華

黒木華

人生のリセット、空気を読みすぎる日常生活、タイプの異なる2人の男性との恋、散りばめられた夏の風情……さまざまな要素を詰め込みながら、さわやかな印象を持たせたのはスタッフの力。ヘビーなシーンの合間に、風車、風鈴、流しそうめんなどの爽快感やノスタルジーを抱かせる映像をインサートするバランス感覚が光った。

主人公の大島凪を演じた黒木華、恋人・我聞慎二を演じた高橋一生、隣人・安良城ゴンを演じた中村倫也。演じる3人の技量がイーブンだからこそ、魅力的な三角関係を描くことができたし、「慎二とゴンのどちらが好きか?」というラブストーリーの楽しさを感じさせることにつながった。

慎二もゴンも恋人としては「大いに問題アリ」にも関わらず女性の支持を集めたのは、単に「カッコいいから」「母性本能をくすぐるから」ではなく、ドラマが二人の再生物語も描いていたからだろう。やはりこの作品は“三人の役者によるトリプル主演”と言ったほうがしっくりくる。

とはいえ、忙しい日々から抜け出して穏やかな場所へ引っ越し、イケメン2人から愛され、新たな隣人や友人との楽しい日々……いずれも現代人にとっては現実離れしたファンタジーであり、ネット上には「もし私も凪のように今の生活をリセットしたら」と思いを馳せる女性が続出していた。視聴者にこんな夢を見せるのもドラマの役割と言えるだろう。

難点を挙げるとしたら、女性視聴者に寄り添いすぎて男性の支持をあまり得られなかったことくらいか。相変わらず刑事、医療、法廷などの季節感に欠けた作品ばかり量産される中、ここまで夏のムードを感じさせただけで価値は高い。

■5位:「30分×2話」「ホームドラマ回帰」の挑戦に勝った『俺の話は長い』(日テレ系)

小池栄子

小池栄子

各局のスタッフが安全策に走りがちな中、「30分×2話」「絶滅気味のホームドラマ回帰」という挑戦的なコンセプトだけでも、諸手を挙げて称えたい。

「誰が俺のアイスを食べたか?」のような小さなテーマで1話を成立させてしまうのは、金子茂樹が手がける会話劇の妙であり、生田斗真、小池栄子、安田顕、清原果耶、原田美枝子の巧さ。つまり、プロデューサーのプランにキャストとスタッフが見事にハマった作品だったのだろう。

彼らの悩みは、「やりたいことが見つからない」「仕事と子育ての両立がうまくいかない」「妻と娘との距離感がつかめない」「想いを寄せる同級生と親友がつき合いはじめた」「息子をつい甘やかしてしまう」という誰もが胸に抱えるものだけに重さはない。だから悩みが改善されたとしても、ドラマティックな展開にはならないし、重くない悩みだからこそ「1話30分で十分」という見方もできる。

重さがないのは主人公の満(生田斗真)のキャラクターも同じ。屁理屈をこねまくるニートなのになぜか憎めないし、むしろ笑って見ていられたのは、「屁理屈をこねても、心に秘めた悩みは打ち明けない」「憎らしいけど、ちょっとだけいいことを言う」という重さがないからではないか。視聴者にとっては気軽に見られる、いかにも現代的な主人公だった。

金子茂樹は、『プロポーズ大作戦』(フジ系)で山下智久、『世界一難しい恋』(日テレ系)で大野智、『もみ消して冬~わが家の問題なかったことに~』(日テレ系)で山田涼介、そして当作の生田斗真と、「冴えないが愛らしい主人公」の役でジャニーズを輝かせるスペシャリスト。今後も日テレ系のドラマを中心に重用されていくだろう。

■4位:穏やかなワントーンで2つの物語が楽しめる良作『監察医 朝顔』(フジ系)

上野樹里

上野樹里

法医学というテレビ朝日的かつ見慣れたテーマながら、そのプロデュースはアグレッシブかつ繊細。原作漫画では、主人公の母親は阪神大震災で亡くなったのだが、思い切りよく東日本大震災に変更し、現地での取材を重ねながら真っ向から描いた。原作の変更を受け入れず、「重い」「つらい」作風を嫌う視聴者が増える中、批判を恐れずに挑み、支持を勝ち取ったのだから、見事というほかないだろう。

正直なところ、死者をめぐるミステリーは拍子抜けするほどシンプル。ひとつの物語を丁寧に描くというスタンスで、二転三転することはなく、正味35~40分で終わらせていた。

残りの20~25分を担っていたのがホームドラマ。主人公・万木朝顔(上野樹里)、父・万木平(時任三郎)、母・万木里子(石田ひかり)、恋人で夫となる桑原真也(風間俊介)の地味ながら愛情あふれる家族の物語を押し出して、ジワジワと視聴者を引き込んでいったのだ。

通常の連ドラは、ミステリー8~9割に対してホームドラマ1~2割という割合がほとんどだが、『監察医 朝顔』はミステリー6~7割に対してホームドラマ3~4割。どちらつかずになりそうなものだが、ミステリー、ホームドラマともに、過剰な悪役、事故、伏線などに頼らずに穏やかなワントーンにまとめ、「1つの作品で2つの物語を楽しめる」というバリューにつなげた。

このアグレッシブかつ繊細な作品を手がけたのは、若き金城綾香プロデューサー。このところ各局ともに女性プロデューサーの台頭が目立つが、男性プロデューサーよりも思い切りがよく、サービス精神も旺盛という傾向がある。2020年代のドラマ業界は女性プロデューサーたちが引っ張っていくのかもしれない。