12月29日深夜放送の『グランメゾン東京』(TBS系)を最後に、2109年の連ドラがすべて終了。
視聴率、評判ともに、飛び抜けたヒット作こそなかったが、節目となる100作目の朝ドラ『なつぞら』(NHK)、異例の2クールミステリー『あなたの番です』(日本テレビ系)、13年ぶり続編の『まだ結婚できない男』(カンテレ・フジテレビ系)などの話題作は多く、ネット上には一年中、記事やコメントが飛び交っていた。
ここでは「朝ドラから夜ドラ、深夜ドラマまで、全国ネットの連ドラを全て視聴しているドラマ解説者の木村隆志が、一年を振り返るべく「業界のしがらみや視聴率は一切無視」して、独断で2019年の連ドラTOP10を選んでいく。
■10位:「ボロ」に込めた愛情と哀愁ただよう物語『日本ボロ宿紀行』(テレビ東京系)
2017年の『さぼリーマン甘太朗』、2018年の『忘却のサチコ』に続いて、2019年の10位はテレビ東京の深夜ドラマ『日本ボロ宿紀行』を選ばせてもらった。
「ボロ宿」なんて決めつけると、このご時世クレームが殺到しそうだが、そんな気配はゼロ。悪口を言っているムードはどこにもなく、むしろ「日本はまだまだ廃れてる」ことを喜び、愛情たっぷりの目線で日本各地の宿を紹介していた。
原作はそれらのボロ宿を紹介しているだけだが、ドラマには哀愁ただよう物語が添えられていた。篠宮春子(深川麻衣)は急死した父の芸能事務所を継いだが、所属タレントたちに逃げられ、残ったのは中年の一発屋歌手・桜庭龍二(高橋和也)だけ。二人は大量に売れ残ったCDを売るべく地方営業に出るが、貧乏ゆえに泊まれるのはボロ宿ばかり。
かつては繁盛していたであろうボロ宿と、過去の栄光を捨てられない一発屋歌手がオーバーラップし、どちらもイジリたくなりつつも応援せずにはいられない気持ちにさせられた。もちろん、父の好きだったボロ宿を好み、力不足ながら明るく龍二の尻を叩く春子の魅力も忘れてはいけない。春子を演じた深川は、『まんぷく』(NHK)、『まだ結婚できない男』にも出演して飛躍の一年になった。
当作を手がけた吉見健士プロデューサーにとっては、「孤独のグルメ」「昼のセント酒」に続く大衆文化3作目。2020年代を目前にして取り壊される建物が多い中、ボロ宿のよさに着目した慧眼と詫び寂びある映像美はさすがで、今年放送されたどの作品よりもエッジが立っていた。
■9位:動画レシピサイトの便利さと、ゲイの日常風景『きのう何食べた?』(テレ東系)
続く9位もテレビ東京の『きのう何食べた?』。しかも十八番の「飯テロ」路線であり、さらに昨年から連ドラのトレンドとなっているLGBTをモチーフにした作品だった。
飯テロと言っても中心となっていたのは、食べることではなく調理シーン。真上から撮るカメラワークは動画レシピサイトを彷彿させるわかりやすさで、ネット上には「再現してみた」という投稿があふれていた。
当作は初回からツイッターの世界トレンド1位を獲得するなど熱狂的な支持を集めていたが、食事以上に視聴者の心をつかんでいたのは、筧史朗(西島秀俊)と矢吹賢二(内野聖陽)のほほえましいやり取り。「見ているだけで癒される」「あんなカップルになりたい」という声が飛び交っていたように、性的嗜好を乗り越えて理想のパートナーシップを見た視聴者が多かったようだ。
今年に放送された『俺のスカート、どこ行った?』(日テレ系)、『家政婦のミタゾノ』(テレ朝日系)のように、生徒や家族の問題を解決する救世主としてゲイを登場させる作品がまだまだ多いが、当作は特別視することなく、さらに憧れの対象にまで昇華させていた。もちろん西島と内野の力によるところは大きいが、原作・よしながふみ、脚本・安達奈緒子のつむぎ出すナチュラルな人間描写がそうさせていたのは間違いない。
山本耕史と磯村勇斗の演じたゲイカップルも好評だったが、田中美佐子と梶芽衣子の健在ぶりを見て喜んだ中高年視聴者も多かっただろう。
■8位:徹底した女性目線とクリエイティブ・ファースト『だから私は推しました』(NHK)
『世界の中心で、愛をさけぶ』『白夜行』『JIN-仁-』『とんび』『天皇の料理番』『義母と娘のブルース』(TBS系)、『ごちそうさん』『おんな城主 直虎』(NHK)……21世紀に入って以降、最も安定したペースで良作を連発している森下佳子が「深夜帯でオリジナルを書く」と聞いたときは驚いた。
ただ放送枠が『よるドラ』と知って納得。同枠は事実上、今年新設された枠であるにも関わらず、『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』『腐女子、うっかりゲイに告る。』と野心作を連発していたからだ。
当作が描いているのは、地下アイドルの世界を舞台にした女性の生き方。アラサーOLと地下アイドルという接点のない2人が絆を育んでいく様子は静かな感動があり、「女性が女性を推す」ことで徹底した女性目線が貫かれていた。
とりわけ目を引いたのは、主演・桜井ユキが見せた感情の幅。人生の過渡期を迎えたアラサー女性が「他人の目や“いいね”の呪縛から逃れ、失恋を乗り越えるために、ダメアイドルを応援することで元気を取り戻していく」「悪質なファンから推しアイドルを守り、事件に巻き込まれてしまう」という難解な感情を丁寧に消化していた。
現代性と社会風刺、地下アイドル・サニーサイドアップのディテール、意表を突くサスペンス、実力重視のキャスティングなど、NHKらしいクリエイティブ・ファーストの姿勢に感心させられっぱなし。今夏はプライムタイムの連ドラがすべて原作アリだったため、「オリジナルの素晴らしさを再認識させた」という功績も添えておきたい。
■7位:ラグビーブームの導火線となった2019年の代表作『ノーサイド・ゲーム』(TBS系)
放送前は「また『日曜劇場』は池井戸潤原作ドラマなのか」という声が多かったのも無理はない。2013年の『半沢直樹』からほぼ年1作ペースで放送されてきただけに、厳しい目を向ける人がいたのは事実だ。しかし、回を追うごとにそんな声は消え、「池井戸潤作品の中で一番いい」と言われるほど熱狂的なファンを増やしていった。
正義の弱小アストロズvs悪の最強サイクロンズ、正義のGM・君嶋隼人(大泉洋)vs悪の常務・滝川桂一郎(上川隆也)という勧善懲悪の図式はこれまでと変わらない。しかし、野球やサッカーのように稼げない社会人ラグビーをモチーフにしただけあって、その世界観はより純粋、まっすぐ、ひたむき、武骨。逆境が訪れてもまっすぐ前だけを見て、仲間とともに前へ進んでいく姿が視聴者の心をつかんだ。
視聴者はまるでスタンドから彼らの試合を見ているようにアストロズの選手たちを応援していたし、見事に勝利を収めた最終話は2019年ナンバーワンの大団円だったのではないか。
イケメンよりプレースキルを優先させたことで生まれたラグビーシーンの迫力は、スポーツドラマの枠を越えていたし、松たか子を起用して女性目線を入れ、「女性視聴者を置き去りにしない」という判断も効いていた。
もう1つ特筆すべきは、日本テレビとNHKが放送した『ラグビーワールドカップ2019』のアシストとなっていたこと。『ノーサイド・ゲーム』の最終話はワールドカップ開幕のわずか5日前であり、敵に塩を送るような最高のお膳立てとなっていた。
事実上の主役・浜畑譲を演じた廣瀬俊朗、米津玄師の主題歌「馬と鹿」も含め、当作が与えた影響は多岐にわたり、その意味では今年の代表作と言っていいかもしれない。もし『ラグビーワールドカップ2019』の放送中、あるいは放送後に『ノーサイド・ゲーム』が放送されていたら、視聴率20%は軽く超えたのではないか。