移動手段として、あるいは運転という楽しみを追求するための相棒として、人間の生活に不可欠な存在となっているクルマだが、電動化の進展により、その用途はさらなる広がりを見せるかもしれない。三菱自動車は巨大電池としてのクルマの可能性を探っている。

  • 「アウトランダーPHEV」の給電体験会

    都内で行われた「アウトランダーPHEV」の給電体験会

気候変動で重要性を増す電動車

環境問題が叫ばれる中、世界の自動車メーカーがこぞってクルマの電動化に舵を切る昨今。大きなバッテリーを積み、モーターで走行する電動車は、走行中にCO2を排出しないという意味で環境にやさしい乗り物なのだが、見方を変えれば、タイヤの付いた巨大電池として捉えることもできる。実際、災害時には、緊急電源としての役割も見込まれる。

ここで疑問なのは、電動車が緊急電源として、どれだけ役に立つのかということ。日本に限った話ではないが、近年は自然災害の頻度が増加し、規模は大型化している。特に2019年は多くの大型台風が日本に上陸。千葉県で長期間にわたる停電が発生したことは記憶に新しい。そうした時、電動車があれば、被災地の状況にも変化が生まれるのだろうか。そんな視点を持ちながら、三菱自動車が開催した「アウトランダーPHEV」の給電体験会に参加してきた。

  • 三菱自動車「アウトランダーPHEV」
  • 三菱自動車「アウトランダーPHEV」
  • 給電体験会には2台の「アウトランダーPHEV」が登場

ほぼ全ての家電が使用可能!?

三菱自動車の「アウトランダーPHEV」は、「パジェロ」や先代「アウトランダー」などのSUVとしての技術を核とし、「ランサーエボリューション」の4WD技術と「i-MiEV」のピュアEV(電気自動車)技術が融合したクルマだ。

  • 「アウトランダーPHEV」の内部

    前後に高出力モーター(フロント60kW、リア70kW)を搭載するツインモーター4WDの「アウトランダーPHEV」。高効率で静粛性に優れる2.4リッターエンジンは、主に発電と高速走行時の動力として使用する

車両中央に搭載する13.8kWhのバッテリーは、一般家庭で消費する1日分の電力(約10kWh)をまかなえる大容量タイプ。この電力を使うことにより、モーターのみで約65キロを走行できる。バッテリーは外部充電が可能で、充電時間は普通充電で約4.5時間(AC200V15A/満充電)、急速充電では約25分(80%)となっている。

そんな「アウトランダーPHEV」だが、三菱自動車・車種第二グループ 村田裕希主任によると、給電機能は2つあるそうだ。1つは「1500WのAC電源」で、これは100Vから使用できる。

操作性は至ってシンプル。インパネにある“AC1500W”のスイッチを押すだけでOKだ。あとはフロアコンソールボックス背面とラゲッジルームの2カ所に用意されたアース付コンセントにつなげば、すぐに電化製品を使うことができる。

  • 「アウトランダーPHEV」の“AC1500W”スイッチ

    インパネの“AC1500W”スイッチ。走行中も使用可能とのこと

  • 「アウトランダーPHEV」のアース付きコンセント
  • 「アウトランダーPHEV」のアース付きコンセント
  • フロアコンソールボックス背面(左)とラゲッジルームのアース付きコンセント

では、緊急時にどんな家電が使えるのかといえば、「1,500Wなので、ほとんどの家電は使用できる」(村田氏)そう。具体的には、携帯電話(10〜30W)なら50〜150台、液晶テレビ(300〜500W)なら3〜5台、電子レンジ(1,000〜1,400W)なら1台に給電可能で、1,500W以内であれば、これらを組み合わせて同時に複数を稼働できるとのことだった。

実際、2018年の北海道胆振東部地震では、3日間の停電を「アウトランダーPHEV」で乗り切ったケースも報告されている。そのケースでは停電直後、バッテリー、ガソリンともに残量80%ほどのアウトランダーPHEVから自宅への給電を開始。エリアが停電中であっても、必要に応じて水洗トイレ(1,300W)や炊飯器(1,200W)、洗濯機(380W)やIHヒーター(1,400W)が使用可能だったので、最低限のライフラインを維持したまま通電を待つことができたそうだ。

  • 「アウトランダーPHEV」の給電体験会

    3日後の通電時には、さすがにバッテリー残量はゼロになっていたが、ガソリンはまだ60%ほど残っていたという

今回の体験会で三菱自動車は、アウトランダーPHEV2台を使って、実際にテレビ、炊飯器、ケトル、ドライヤーを稼働してみせた。

  • 「アウトランダーPHEV」給電体験会で使用された家電

    「アウトランダーPHEV」給電体験会で使用された家電

  • 「アウトランダーPHEV」からの給電された炊飯器で炊きあがった混ぜご飯

    「アウトランダーPHEV」からの給電された炊飯器で炊きあがった混ぜご飯

台風被害の千葉県に「アウトランダーPHEV」が出動!

アウトランダーPHEVのもう1つの給電機能は「V2H機器接続」だ。これは、クルマに蓄えた電気をV2H(vehicle to home)機器を介して家に送電する機能のこと。満充電かつガソリン満タンであれば、一般家庭電力量の最大約10日分(1日あたりの使用電力量を約10kWhとして算出)を出力できるそうだ。近年、増加傾向にある自然災害で、自分が被災者になってしまうケースを想像すると、このクルマ、急場をしのぐ電源として非常に心強い。

三菱自動車 国内ネットワーク開発部の金子律子氏は、今年9月に上陸した台風15号で特に甚大な被害を受けた千葉県で、三菱自動車が行ったアウトランダーPHEVを用いた活動について説明した。

金子氏によれば、三菱自動車は台風15号による停電対応として、6台のアウトランダーPHEVを用意。千葉県内3カ所の老人ホームと南房総市の保健福祉部に貸し出したり、東京電力からの依頼で館山市に携帯充電エリアを設置したりするなどの支援を行った。

最初に訪れた特別養護老人ホーム「鋸南苑」では、アウトランダーPHEVの電力で家電を稼働させていったが、冷蔵庫の明かりが灯った時には、職員から拍手が起こるほど喜ばれたそう。「台風の停電で職員の皆さんも非常に疲れている中で、明かりがあるという安心感は大きい」と改めて実感したという。

一方で、こうした状況下でどのくらいの電気を使えるかについては正確なデータがなく、一株の不安があったと明かした金子氏。実際のところは、家電を稼働させていくうちにバッテリー残量はみるみる減っていったものの、ガソリンは2日経っても減りが少なかった。アウトランダーPHEVはガソリンがあれば発電できるので、「ガソリンさえあれば、クルマはまだまだ大丈夫」と思うと心強かったそうだ。

  • 三菱自動車の金子氏

    電源車が到着するまでの初動対応、いわばつなぎ役として「アウトランダーPHEV」が果たせる役割は大きく、そこが重要になると説いた金子氏

動く巨大電池としてのクルマの一面は理解できたわけだが、そもそも、なぜ三菱自動車は今回のような催しを企画したのだろうか。三菱自動車の広報担当者に聞いてみると、「電動車は普段の移動手段としてだけではなく、万一の時の安心にもつながる乗り物であることを広く知ってもらいたい」とのことだった。

アウトランダーPHEVはSUVであることから、災害で荒れた悪路でもなんなく走行できる。その上、バッテリーの充電がなくなっても、ガソリンで発電すれば、その電力を家電や家そのものに分け与えることが可能なので、災害時に頼れるクルマといえそうだ。

昨今の気候変動により、いつ自分が被災者になるかわからない現状を考えれば、リスクに備える意味でもクルマの電動化の流れは歓迎すべきなのかもしれない。