トヨタ自動車が電気自動車(EV)の普及に本腰を入れ始めた。今後6年で100万台近くを販売するという意欲的な数値目標を掲げ、どの市場にどんなクルマを投入するのかについても、その方向性を明らかにしたのだ。トヨタが表明したEV普及策をつぶさにみていくと、EVを取り巻く世の中の状況やクリアすべき課題についても明確になってくる。

  • トヨタ「グローバルEV」のクレイモデル

    説明会でトヨタが展示した「グローバルEV」のクレイモデル

数値目標達成には相当な努力が必要

トヨタは2019年6月7日、『~トヨタのチャレンジ~EVの普及を目指して』と題した報道向けの説明会を行った。「なぜ、この時期にこうした記者会見を開いたのか」と記者から質問を受けた寺師茂樹副社長は、「トヨタはこれまで、『ハイブリッドカーで築いてきた電動化技術を持っているので、電気自動車(EV)は作れるといってきたが、まだ1台もクルマがないではないか』といわれ続けているので、具体的な説明会を開いた」と答えた。

  • トヨタの寺師副社長

    トヨタの寺師副社長

具体的な説明会の内容は、日本とその他の地域(中国、米国、欧州)に分けたEV導入計画であり、また、そのために世界上位3位までのリチウムイオンバッテリーメーカーと提携することも改めて明らかにした。その上で、EVのみならず燃料電池車(FCV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、ハイブリッド車(HV)の販売台数計画を、当初の2030年目標から5年、前倒しにすると発表した。

電動車両の普及に向けたロードマップでは、2025年にEVとFCVで100万台以上、HVとPHVで450万台以上という販売目標を示した。ここでは、「EVとFCVで100万台以上」という数値に的を絞って規模を考察してみたい。

  • トヨタEV普及説明会のスライド

    トヨタは2030年に電動車両550万台を販売するとしていたが、目標達成は5年程度、前倒しになりそうだ

まず、水素ステーションの整備が進んでいない現状を考えると、水素を充填して走るFCVの販売台数が数年で飛躍的に伸びるとは考えづらい。では、EVはどうかというと、トヨタに先行し、2010年に初代「リーフ」を発売した日産自動車は、約10年をかけて世界累計40万台を販売している。トヨタは今後6年で、リーフの累計販売台数の2.5倍にあたる100万台規模のEVを販売するというのだから、この数値目標は、かなり頑張らなければ達成の難しいものだということが見えてくる。

EVづくりにも重要な「仲間づくり」

この目標を達成するため、トヨタでは「仲間づくり」に余念がない。大手リチウムイオンバッテリーメーカー数社のほか、部品メーカー、商社、自治体、そして、提携関係にあるダイハツ工業、スバル、スズキなどの自動車メーカーと協力し、大量にEVを作り、販売する組織づくりを行っているのだ。大量生産を実現することにより、EVの原価を下げ、収益を確実に見込みながら拡販に努める。フォルクスワーゲンら世界最大規模の自動車メーカーを相手に競争を繰り広げるトヨタらしい壮大な戦略だ。

EVづくりでトヨタは、他社と共通の部品を利用する「モジュール設計」の部分と、商品ごとに各社が特徴づけを行う部分とを明確に分け、仕向け市場やターゲットとする顧客層に合わせた開発を行う手法を構築している。プラットフォームに限らず、モーターやリチウムイオンバッテリーなどもモジュールによる開発を行う。これをトヨタは「e-TNGA」と名付ける。「TNGA」とは、近年のトヨタのクルマづくりを特徴づける「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー」のこと。そのEV版がe-TNGAだ。

  • トヨタEV普及説明会のスライド

    「固定部位」と「変動部位」を決めてEVを開発する「e-TNGA」

トヨタが市場投入を予定するEVについての具体像も分かってきた。次ページ以降で仕向け地ごとに見ていきたい。