近年、仮想通貨の普及は世界中で進んでいます。仮想通貨を発行することで資金を調達する「ICO(Initial Coin Offering)」と呼ばれる方法なども登場し、仮想通貨に関連するビジネスもさまざまな形で急速に増えています。しかし、仮想通貨に関する法規制は完全に整っているとは言い難い状況であり、今後の動向からも目が離せない分野だと言えるでしょう。

そこで本稿では「仮想通貨に関する法規制の今後」について、仮想通貨やブロックチェーン法務に精通しているグローウィル国際法律事務所の中野秀俊弁護士にお話を伺いました。

  • 中野秀俊

    中野秀俊 グローウィル国際法律事務所 代表弁護士、みらいチャレンジ 代表取締役。仮想通貨関連企業・IT企業からの法律相談などに数多く対応。企業経営の課題を解決するコンサルティングファーム・みらいチャレンジ株式会社を創業し、法律面だけでなく、資金調達、採用、人事制度構築、広告PR、海外進出支援、IPOなど、多方面での活動により「スタートアップやベンチャー企業の課題解決」を目指して尽力している。スタートアップベンチャー企業向けの「KOMON5000」では、弁護士のサブスクリプション化を実現し、定額で継続的に相談できる新たなサービスを打ち出した


仮想通貨に関する日本の法律はまだまだ曖昧

――中野弁護士が仮想通貨の存在を知ったのはいつごろだったんですか?

初めて知ったのは、2012,3年頃です。仕事として仮想通貨に関わるようになったのは2015年頃からで、特にご相談が多かったのは2017年から2018年の前半ですね。ブログを書いているので、その記事を見てお問い合わせをいただいたり、ご紹介いただいたりすることも多いです。

――どんな相談内容が多いのでしょうか?

企業様からのご相談が多いですね。「日本のライセンスを取りたい」「ICOを始めたい」「ブロックチェーンを使ったサービスを始めたい」という内容が多いです。企業様だけでなく、個人の方からもご相談いただいています。

――日本では2017年4月に改正資金決済法が施行され、いわゆる取引所については仮想通貨交換業者として金融庁への登録が必要になりましたが、ICOについての規制はないですよね? ICOを全面禁止している国もありますが。

日本ではICOに関する法律はなく、解釈で規制しているのが現状です。2017年10月27日に、「ICOについて ~利用者及び事業者に対する注意喚起~」という文書が金融庁から出されています。解釈で規制するのは限界がありますから、今年の1~6月の通常国会で仮想通貨やICOに関する法律が成立するのではないかと言われていますね。2019年は、日本の法律的な観点では仮想通貨にとって重要な年になると思います。

「発行するトークンが法律上の仮想通貨に該当するか?」という問題はあるのですが、今後はICOを行う企業にも仮想通貨交換業者の登録が義務付けられるかもしれません。

あまり知られていないかもしれませんが、法律上の仮想通貨には「1号仮想通貨」と「2号仮想通貨」という分類があります。

■1号仮想通貨
物品を購入、もしくは借り受け、またはサービスの提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

■2号仮想通貨
不特定の者を相手方としてビットコインなどの仮想通貨と相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

1号・2号ともに、「不特定の者に対して」というのがポイントですね。この「不特定の者」というのは、金融庁ガイドラインでは以下のような要素を考慮するとされています。

・発行者と店舗等との間の契約等により、代価の弁済のために仮想通貨を使用可能な店舗等が限定されていないか

・発行者による制限なく、本邦通貨または外国通貨との交換を行うことができるか

法律上の定義は曖昧なのですが、「トークンは仮想通貨である」という解釈で規制されているのが現状です。早ければ、今年の国会でそのあたりが明確になっていくと思います。

――法律が曖昧ということですが、それに対して仮想通貨の関連企業やICOを行う企業が訴訟を起こすことはないんでしょうか?

刑事罰になったケースはないです。裁判になると法律の解釈論になるのですが、無罪になるとある意味お墨付きを与えることになりますから、解釈による規制でプレッシャーをかけているような状況ですね。

「発行者がいる場合は仮想通貨ではない」という解釈も出ているのですが、2017年に施行された改正資金決済法は、ビットコインなどのメジャーな仮想通貨を想定して定義されています。ICOは想定していなかったのでしょう。しかし、ICOによる被害者が出ている。政府としては、被害の拡大を止めたい。にも関わらずICOに関する法律がない。だから、解釈による規制で止めている。というのが現状です。

――政府としてもなかなか悩ましいのでしょうね。既存の法律では規制できないのでしょうか。

ファンドの場合は、金商法(金融商品取引法)の範囲になります。第二種金融商品取引業の登録が必要になりますね。しかし、投資家から仮想通貨を集めて事業を行い、投資家へ分配することについてはグレーです。仮想通貨については金商法に書かれていません。書かれていないからOKなのかNGなのか、これも解釈になってしまいます。抜け穴をなくすためにも、既存の法律で仮想通貨を規制するより新たに法律を作るほうが良いというのが政府の考えなのだと思います。

過去には例えば、セナー(SENER)事件という出来事がありました。仮想通貨で出資を募り、配当を出すと謳っていた投資グループ「セナー」を運営していた日本人が逮捕された事件です。全国で5,800人以上が仮想通貨や現金で投資を行い、約83億円が回収不能になっているとされています。

この事件で立件されたのは、現金で出資されていた部分のみでした。仮想通貨での出資は法律で明記されていないので、立件しても裁判で無罪になる可能性があります。そのため、確実に法律に違反している現金での出資のみでの立件となった、というわけです。もし全てが仮想通貨での出資であれば、立件できなかったのではないかとも言われています。