日本列島が記録的な寒波に襲われる中、2018年最初の連ドラがスタート。寒ければ在宅率が上がるものだが、そう簡単にいかないのが連ドラの難しいところ。視聴率の面では、序盤から大きく明暗が分かれている。

初回の視聴率では、『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日系)が15.7%、『99.9-刑事専門弁護士-SEASON II』(TBS系)が15.1%、『もみ消して冬~わが家の問題なかったことに~』(日本テレビ系)が13.3%、『アンナチュラル』(TBS系)が12.7%を記録。しかし、その他の作品は、軒並み1桁視聴率の厳しい船出となった(ビデオリサーチ調べ、関東地区 以下同)。

しかし、録画視聴やネット視聴の多い現状、視聴率はデータの1つにすぎず、そもそもドラマの面白さは別問題。冬ドラマで本当に質が高くて、今後期待できるのはどの作品なのか? 今期もドラマ解説者の木村隆志が、俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、2018年冬ドラマの傾向とおすすめ作品を挙げていく。

冬ドラマの主な傾向は、[1]主演俳優の若返りとルックス回帰 [2]壮絶な過去やトラウマを持つ主人公 [3]高視聴率は一話完結に集中 の3つ。

  • 冬ドラマ

    左から芳根京子、広瀬すず、吉岡里帆

傾向[1]主演俳優の若返りとルックス回帰

今冬は、「若返りとルックス」優先のキャスティングが目立つ。

プライム帯(19~23時)の作品だけでも、『anone』(日本テレビ系)の広瀬すず(19)、『海月姫』(フジテレビ系)の芳根京子(20)、『女子的生活』(NHK)の志尊淳(22)、『トドメの接吻』(日本テレビ系)の山崎賢人(23)『もみ消して冬』の山田涼介(24)、『きみが心に棲みついた』(TBS系)の吉岡里帆(25)と“アンダー25歳”がズラリそろった。

その他も亀梨和也(31)、石原さとみ(31)など全般的に若く、“オーバー40歳”は木村拓哉(45)と名取裕子(60)だけ。「昨年の秋ドラマは主演俳優の平均年齢が44.5歳で、20代がいなかった」「昨年全体を見ても20代の主演俳優は2割程度だった」ことを踏まえると、相当な若返りと言えるだろう。

また、若いだけではなく、ルックスも重視。上記に挙げた顔ぶれ以外でも、深田恭子(35)、松本潤(34)、滝沢秀明(35)、市原隼人(30)が主演を務めるなど、美男美女を中心に据えている。

主演俳優の若返りとルックス重視は、「テレビよりスマホ」の若年層対策にはなるが、リアルタイム視聴が望みにくい世代だけに視聴率は苦戦必至。若手俳優やルックスが武器の俳優が中高年層の共感を得ようとするのは難しいだけに、「いかに応援したいと思わせるか」が鍵を握っている。

これは裏を返せば、「視聴率の苦戦は覚悟の上で、若年層の視聴者を獲得しよう」という前向きな姿勢の表れかもしれない。一昨年秋、『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)が大ヒットしたのも若年層を釘づけにしたからであり、当時主演の新垣結衣は28歳だった。若返りとルックス優先のキャスティングは決して間違っていないのだ。

  • 冬ドラマ

    『アンナチュラル』(左から松重豊、井浦新、石原さとみ、窪田正孝、市川実日子)

傾向[2]壮絶な過去やトラウマを持つ主人公

制作サイドは、そんな若い美男美女の俳優たちに試練を与えている。今期はとにかく壮絶な過去やトラウマを抱える主人公が多いのだ。

『アンナチュラル』の三澄ミコト(石原さとみ)は、家族が一家心中する中、唯一の生き残ってしまった。『anone』の辻沢ハリカ(広瀬すず)は、親に捨てられて施設で育ち、虐待を受けていた。『きみが心に棲みついた』の小川今日子(吉岡里帆)は、母親から愛されず、星名漣(向井理)から傷つけられ続けた。『FINAL CUT』(フジテレビ系)の中村慶介(亀梨和也)は、母親がマスコミに追い詰められて自殺。『99.9』の深山大翔(松本潤)は、父親が殺人の罪を負い、獄中死。『BG』の島崎章(木村拓哉)は、過去の失敗で挫折し、職を辞したほか離婚。『トドメの接吻』の堂島旺太郎(山崎賢人)は、12年前の海上事故で、自分だけ助かり、父と弟が行方不明に。

これらの壮絶な過去やトラウマは、主人公の人格や職業を理由づける格好のネタであり、作品のイントロ部分に当たるものでもある。ただ、便利だからこそ安易に使うと視聴者は醒めてしまうし、単に暗いだけの話になってしまうリスクが高い。実際、『99.9』と『アンナチュラル』が高視聴率を獲得しているのは、重いムードを引きずらず、カラッとした世界観だからかもしれない。

また、『海月姫』や『もみ消して冬』の明るさや、くだらなさは、「視聴者にとって今冬の光になっている」とも言えるだろう。

  • 冬ドラマ

    『BG』(左から菜々緒、斎藤工、上川隆也、江口洋介、石田ゆり子、間宮祥太朗)

傾向[3]高視聴率は一話完結に集中

前述したように、1月スタートの冬ドラマで初回放送が2桁視聴率を記録したのは、『BG』の15.7%、『99.9』の15.1%、『もみ消して冬』の13.3%、『アンナチュラル』の12.7%のみだった。4作の共通点は、「一話完結の事件・問題解決ドラマ」であること。

さらに、昨秋スタートで現在も放送中の『相棒』『科捜研の女』(ともにテレビ朝日系)も、「一話完結の事件・問題解決ドラマ」であり、2桁視聴率を記録している。

一方、1桁視聴率に終わったその他の作品は、『特命刑事カクホの女』(テレビ東京系)を除くすべての作品が「一話完結でもなく、事件・問題解決でもないドラマ」だった。

つまり、視聴率では、「一話完結の事件・問題解決ドラマが圧勝」ということになる。しかし、当然ながら視聴者の見方は必ずしも視聴率とは一致しない。ネット上には、『海月姫』『anone』『隣の家族は青く見える』(フジテレビ系)、『女子的生活』(NHK)などを絶賛する声は少なくないし、反面「刑事モノは飽きた」「事件や問題ばかり見たくない」という声も見られる。

テレビ局としてはCM収入を得るために、視聴率を追わなければいけないのは仕方ないが、すでにプライム帯の「一話完結の事件・問題解決ドラマ」が占める割合は5割を超えている。視聴率ばかりを追うテレビ局の姿勢に辟易している人が年々増えていることも含め、これ以上「一話完結の事件・問題解決ドラマ」を増やすと、自らの首を絞めることになりかねない。


これらの傾向を踏まえた今クールのおすすめは、『海月姫』。原作漫画と実写版映画、どちらとも異なる連ドラ、しかも月9らしい間口の広い作品に仕上がっている。王道のラブストーリーをベースに、笑いと遊び心を散りばめた演出で、若年層から中高年層まで幅広い年代に対応。「漫画の実写化」や「映画版の後発」は、常に“やりすぎ”“そのまんま”と紙一重の難しい仕事だが、脚本・演出とも月9仕様にアジャストさせている。

その他のおすすめは、放送前の想像を超えるドラマティックな展開の『リピート~運命を変える10か月~』(日本テレビ系、読売テレビ)、坂元裕二らしいジャンルレスなプロットと名ゼリフが見物の『anone』、登場人物たちの生きた会話が魅力的な『アンナチュラル』、テレビ東京らしいお祭り企画の『オー・マイ・ジャンプ!~少年ジャンプが地球を救う~』(テレビ東京系)も挙げておきたい。また、26日で放送終了したので対象外にしたが、トランスジェンダーをフラットに描いた『女子的生活』も素晴らしい作品だった。

「視聴率や先入観だけで判断して見ない」というのはもったいないだけに、TVerや各局のオンデマンドなどで、チェックしてみてはいかがだろうか。

■おすすめ5作
No.1 海月姫(フジテレビ系 月曜21時)
No.2 リピート(日本テレビ系 木曜23時59分)
No.3 anone(日本テレビ系 水曜22時)
No.4 アンナチュラル(TBS系 金曜22時)
No.5 オー・マイ・ジャンプ!(テレビ東京系 金曜24時12分)

■著者プロフィール
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技 84』など。