九州の酒と言えば、芋焼酎をイメージする人が多いだろう。そうしたイメージを全国に植え付けた芋焼酎が、霧島酒造(宮崎県都城(みやこのじょう)市)の「黒霧島」である。実際に酒屋はもちろん、スーパーやコンビニなどにも黒霧島が全国的に鎮座しているくらいだ。そこで今回、2003年には焼酎メーカー8位だった霧島酒造が、2012年に1位に大躍進した秘密に迫った。

霧島酒造3大ラインナップ「白霧島」「黒霧島」「赤霧島」

12年連続増収を押し上げた2つの素材

2015年の販売実績データによると、霧島酒造は前年比110.1%増、650億7,234万円を計上して4年連続焼酎メーカー売上高ではトップとなり、12年連続の増収を続けているという。その主力は黒霧島であるが、紫芋が原料の「赤霧島」や、平成宮崎酵母を用いた「白霧島」、この3つが同社の三大焼酎となっている。

では実際、どんなところに霧島酒造のこだわりがつまっているのか。まずは、芋焼酎に欠かせない素材として成分のほとんどを担っている水に関してだ。昭和30年(1955)の二代目の社長の頃、シラス層や火山灰層よりさらに下の地下水脈から組み上げることに成功。鉄分をほとんど含まず、適度なミネラルを含んだ「霧島裂罅水(れっかすい)」による焼酎造りが可能になった。

「霧島ファクトリーガーデン」内には、無料で水を汲み取れる「霧島裂罅水(れっかすい)の泉」がある

実際、口に含むとまるみのある味がする水で、都城市にある霧島酒造の発信基地「霧島ファクトリーガーデン」内でいつでも飲むことができ、裂罅水の泉は水をくみにきた地元の人でいつもにぎわっている。この霧島ファクトリーガーデンへは、JR日豊本線「都城駅」から車で約10分となる。

もうひとつのメイン原料であるサツマイモにもこだわりがある。黒霧島に関しては、私たちが普段口にするサツマイモとは全く見た目も異なる大きい品種の「黄金千貫(こがねせんがん)」を使用。でんぷん質が豊富なこの品種は、芋焼酎造りに最適な品種のひとつ。鮮度を保つために、近隣の生産農家との関係を密にし、近くから特においしいサツマイモを入手しているという。

ていねいに選り分ける工程はやはり人の目が一番。病気がないか、傷がないかなどを確認しながらていねいに箱に収めてく

なお、霧島ファクトリーガーデンは志比田工場の施設内にあり、施設内では黒霧島と白霧島の製造工程を工場見学として一般にも公開している。1日2回、30分程度で行われる工場見学では、新鮮な芋の選別、芋蒸し、二次仕込み、蒸留などの工程を見ることができる。参加は無料だが事前予約が必要となるので、気になる人はホームページのチェックを。

新鮮な芋を新鮮な内に工場へ! 広大な工場が同じ都城市内に4カ所あり、年間51万石を生産している

工場見学では黒霧島と白霧島の製造工程を見ることができる

こうしてできた芋焼酎を貯蔵、熟成した後、仕込みごとに変わる酒質を一定の品質に仕上げる。原料の良さを引き出し、「あまみ」「うまみ」「まるみ」を絶妙に仕上がるまでブレンドしていく。つまり、ブレンダーの舌が、最終的に黒霧島というブランドを作り上げていくわけである。

右から、霧島酒造ブレンダーで酒質管理部ブレンダ―課の上瀧正智課長と外村舞さん

黒霧島の生みの親は新入社員とも距離が近い存在

今回、霧島酒造の売り上げを飛躍的に伸ばした黒霧島の生みの親である江夏拓三専務に、開発秘話をうかがった。江夏専務によると、開発以前に造っていた焼酎「霧島(白麹)」も評判を得ていたが、創業者の江夏吉助氏が当時黒麹を使用していたため、「原点回帰の黒麹芋焼酎を! 」という想いから開発に着手。芋らしさを出しつつ、酸味を下げ重みのある味を目指したという。

江夏拓三専務の発想で黒霧島が誕生した

「新商品の名前を何にしようかと随分悩みましたが、カーナビがトンネルに入った時、画面が白から黒に変わるのを見て『これだ! 』と思いました」と江夏専務。当時は食品に黒いラベルなどタブーな時代だったらしく、周囲の猛反対を受けたようだが、江夏専務は信念を曲げず、黒いラベルの「黒霧島」を発売。それが現在の大ヒットにつながり、一躍霧島酒造を日本一に押し上げた。

手についた炭のような黒いものが黒麹。黒霧島を生み出している大事な菌だ

地方の巨大企業というと、"ファミリー企業""ワンマン社長"等のイメージもあるかもしれないが、霧島酒造のトップは全く違う。伝統を重んじながらも常に新しいことに挑戦し、そのためには若い人の話もしっかり聞く、という強いバイタリティーが感じられた。

企画室を例にすると、社員は20代前半の人がほとんどで、2~3年で違う部署へ異動していく。正直、「そんな若い人たちが年齢の離れた社長や専務と話が合うのだろうか」、と不思議でしょうがなかったが、どの若い社員からも"おじさん"を毛嫌いするどころか、尊敬を含んでいながらも親族のような親しみを込めたまなざしなのだ。

「焼酎がおいしいと思うのはおいしい料理があってこそ」、と熱く語る江夏専務(右手前)

江夏専務は社員を下の名前で呼び、生まれ故郷や家族構成など全てを把握し、まるでわが子のように親しみを持って話しかけている。その親しみの気持ちは取材陣に対しても分け隔てないもので、愛情を持って接していることが伝わってくる。筆者自身、いろんなトップ企業を取材してきたものだが、このような重役に会ったことは数える程しかない。

都会ではこれを"パワハラ""セクハラ"と認識する企業もあるだろうが、実際、新入社員の内に大企業の雲の上のような人から親しみを持って接してもらったらどう感じるか考えていただきたい。生まれたてのひなが初めて頼れる親を見るように、どこの部署に異動しても、「江夏専務のためにもがんばりたい! 」という気持ちが自然と芽生えてくるのではないだろうか。地方企業が数年にして一大焼酎メーカーへ変貌したのは、「江夏専務の"真心と信念"からくる人心掌握のなせる技なのかもしれない」と強く感じた。

2014年6月からは女性を意識した「茜霧島」が登場

2014年6月には、黒霧島に続く新しい製品「茜霧島」を発売し、女性にも受けるフルーティーで華やかな香りを実現した。あくなき探究心をもつ霧島酒造が今後、またどんなお酒で"酔わせて"くれるのか楽しみだ。

※記事中の情報は2016年7月取材時のもの