連載『住まいと安全とお金』では、一級建築士とファイナンシャルプランナーの資格を持つ佐藤章子氏が、これまでの豊富な経験を生かして、住宅とお金や、住宅と災害対策などをテーマに、さまざまな解説・アドバイスを行なっていきます。


「相続時精算課税制度」とは ~詳しい知識無しでの利用はトラブルの原因~

相続時精算課税制度とは、子供や孫に生前贈与する贈与税の制度の一つで、累積2500万円まで贈与税が掛かりません。ただし、贈与された金額は、贈与者が死亡した時に相続財産に加算されて相続税が計算されます。死亡時に贈与された資産を精算することから、「相続時精算課税制度」となっています。

しかし、この制度を利用するにはいろいろ注意点があります。他の兄弟などとの公平性も考慮する必要があり、場合によっては数十年先の相続対策も含めて贈与しないとトラブルの原因となりがちです。

相続時精算課税制度の狙い~これが政府の狙い! 住宅取得資金に夫婦で7,000万円の贈与も可能~

高度成長期に資産形成ができた世代の預貯金を、現在の経済の活性化に活用し、これから厳しい社会を生き抜いていかなくてはならない若い世代の負担を軽減する一石二鳥の効果があります。前回でも触れましたが、再度整理すると下記のような関係になります。

(C)佐藤章子

事例:相続時精算課税制度を利用して2500万円+住宅取得資金の贈与の特例を利用して1,000万円を、夫婦がそれぞれの親から贈与を受けた場合は下記のようになります。

(2,500万円+1,000万円)×2人分=7,000万円

相続時精算課税制度の税額の考え方 ~贈与には、事前に相続税の予想計算を~

  • (1)相続時精算課税制度を利用したときの贈与税の計算方法

※課税価格の累積が特別控除額を超えた場合の贈与税額

  • (2)相続時の相続税額の計算

※B>Eの場合は還付されます

※相続時精算課税制度を利用しなくても、3年以内に被相続人から贈与された財産の価格は相続財産に加算します。

  • (3)受像者の相続税額Dの算出

詳細の計算はここでは省略しますが、被相続人の課税価格の合計額、他の相続人の相続財産等の計算をした上で、最終的に算出されます。

贈与は特定の相続人に特定の財産を事前に相続させることに他なりません。相続時精算課税制度を利用した場合は累積贈与額が特別控除額の範囲内であれば、その場は課税されませんので、大きな金額を贈与しやすくなりますが、それだけに相続時精算課税制度の利用に踏み切るためには、現時点での想定財産の各法定相続人の財産配分等を考えた上で行わないと、後々トラブルになりかねません。利用は慎重さが重要です。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

<著者プロフィール>

佐藤 章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。