連載『住まいと安全とお金』では、一級建築士とファイナンシャルプランナーの資格を持つ佐藤章子氏が、これまでの豊富な経験を生かして、住宅とお金や、住宅と災害対策などをテーマに、さまざまな解説・アドバイスを行なっていきます。


相続税と贈与税 ~セットにして初めて生きる相続と贈与の知識~

いずれも自己の財産を譲ることには変わりがありません。相続税の場合は前回までに述べたように、基本的に残された相続人が今まで通り生活できることを前提に控除額や税率が決められています。一方贈与税の場合は、余剰資産を譲渡する意味合いが高く、基礎控除額も少なく税率も相続税に対して高く設定されています。しかし、莫大な資産があり、相続税率も高くなる場合は、生前に少しずつ贈与を行い相続税の負担を減らすことも考える必要があります。

また、比較的資産形成がなされている親世帯から、まだ若く貯蓄額の少ない子供に住宅取得資金を補助することは、今までも一般的に行われてきましたが、複数の子供がいる場合、住宅取得資金の贈与を行わなかった子供には、応分の相続財産を準備しておかないと不公平です。贈与と相続は、それぞれの特徴を理解し、節税対策を考えたり、複数の子供に不公平にならないように、上手に組み合わせたりすることが大切です。

贈与の基礎知識 ~正確に知らないと課税の対象に! 複雑な贈与の制度~

日本の場合は贈与を受けた人が税金を支払います。基礎控除とは税金が免除される範囲で、基礎控除額を超えると、超えた金額の高さに応じて、所定の割合で贈与税が課されます。

暦年課税

  • 誰に贈与しても良く、誰からでも贈与を受けることができます。

  • 基礎控除額は年間110万円です。いろいろな人から贈与を受けた金額の合計が年間110万円以下であれば贈与税は課税されません。毎年110万円まで非課税ですが、親から「毎年110万円ずつ、10年間贈与する」と約束された場合は、1,100万円の贈与を受けたとみなされ、(1,100万円-基礎控除額110万円)×40%=396万円もの贈与税が課されます。

相続時精算課税制度

  • 2,500万円まで課税が見送られます。ただし贈与者が死亡した時は、相続時精算課税制度を利用して贈与した資産は相続財産に加えて相続税が計算されます。

  • 相続時精算課税制度を利用すると、暦年課税制度は利用できなくなります。

(※相続時精算課税制度については、次回詳しくまとめる予定です。)

贈与税の特例 ~景気のテコ入れの目玉! 贈与税の特例~

住宅取得に関する贈与税の特例は、歴代の政府の景気対策の目玉として活用されてきました。関連産業の裾野が広く、消費総額が高額な住宅は、景気のてこ入れ効果が高いのです。また、高度成長期に資産形成ができ、貯蓄額に余裕がある親世帯の資金を子供に円滑に贈与させることによって、眠っていた貯蓄を消費にまわすことができ、一石二鳥のため、住宅取得資金に関する贈与税の特例はその時々の経済状況にあわせて頻繁に改正されてきました。

この特例は長い間「5分5乗方式」として利用されてきました。贈与税の基礎控除額110万円(以前は60万円)を5年間分先取りする方法で、110(60)万円/年×5年間=550(300)万円を子供の住宅取得資金として親から贈与する場合は贈与税が掛かりませんでした。その代わり、以後4年間は暦年課税の基礎控除を利用することはできません。しかし、この場合は最大550万円しか利用できません。より多くの資金を贈与させ、住宅取得を促進させるために、相続時精算課税制度ができ、住宅取得に関する独自の贈与税の非課税枠が設けられました。同時に住宅取得に関する贈与の特例の5分5乗方式は廃止となっています。

住宅取得資金の贈与に関する特例

(C)佐藤章子

この特例は暦年課税の基礎控除110万円、又は相続時精算課税制度の2500万円と併用可能です。過去に大盤振る舞いが批判され、贈与の特例金額は減少して行ったのですが、景気が低迷を続ける現在は再び高額になっています。平成25年は最大1,200万円+110万円=1,310万円で、夫婦がそれぞれの親から同額の贈与を受ければ、2,620万円まで非課税となります。相続時精算課税制度を利用すれば、夫婦で最大7,400万円まで当面課税されません。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

<著者プロフィール>

佐藤 章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。