この日は、後輩にゲームを借りに「多摩センター」に出向いた。寒い手をこすりながら待っていると一件の連絡が来た。「駅まで来たんですけど、ゲーム持ってくるの忘れました! 遅れます」と。全く謝罪を感じられないカイジ・利根川の焼き土下座スタンプがぽんと送られてきた。

30分ほど暇になってしまったので、久しぶりに多摩センターを散策を始動した。駅東口から徒歩2分ほどのところで、私はついに出会ってしまった。簡素な作りに昔ながらの椅子。真ん中には大きい大木が堂々と存在感を放つ一軒のラーメン屋さんに。

何故、そんなに店内の様子が分かるかというと、そう丸見えだったからだ。後輩と合流後も、あのラーメン屋の光景が頭から離れずに残っていた。居酒屋で酒を酌み交わしていたということもあり余計に気になる。もう完全にラーメンが食べたいだけの人になっていたのだ。23時26分、居酒屋を出たらもう私の足は止まらなかった。

博多らーめん「とん龍」。ガラス張りの引き戸を開けると、前世でもしかして私たち出会っていました? というくらいの親近感で私を迎え入れてくれた。メニューも充実している。お店の方と目があった。「あの、オススメって……」「虎空プロデュースの鶏白湯はオススメですよ」「えっ!?虎空!?」思わず声を荒げてしまった。

なぜなら、かつて通い詰めていた京王堀之内にあるラーメン屋だったからだ。懐かしさが全身を駆け抜けとっさに「とりあえず、グラスビールを……」と酒を頼んでしまった。よく考え、とん龍さんの完全オリジナルメニューが食べたいと思い、協議の結果「昔ながらの中華そば」を注文した。

一足先に登場した「グラスビール」。キンキンに冷えていて泡が美しい。ゴクゴクとのどごしを実感していると、昔馴染みのあいつが来た。器から「よっ、小学校ぶりか? 昔から何も変わんねぇな」という声が聞こえてきそうだ。

鶏チャーシューっていうのが堪らない。あっさりスープに噛み応えのある中華麺。縮れがなく真っ直ぐな麺に純粋さを見出した。タマネギのシャキシャキ感がさっぱりさせる。鶏チャーシューは、肉厚でしっかりとしているのに胃に優しい。

中盤、汁が染み込んだメンマを噛みしめると味がリセットされ、麺を無限にすすれそうな気持ちにさせてくれる。何でこんなに締めのラーメンってうまいんだろう。心の声が漏れてしまうのが理解できる味だった。スープが染みるとはこのことを指すんだろう。

また行きたいと思える店が増えてしまった。終電の帰り道、うたた寝をしたら学生時代の夢を見たのはきっと「昔ながらの中華そば」の仕業かもしれない。