いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は高円寺にある「なかむら珈琲店」です。

  • 住宅街にたたずむ、昔ながらの店構え(写真:マイナビニュース)

    住宅街にたたずむ、昔ながらの店構え

レトロな外観と仮名の看板に惹かれる

中央線と聞いて、まず最初に高円寺を思い出す方も少なくないはず。昭和の雰囲気がいまなお濃厚で、若者とお年寄りとが無理なく共存する、いかにも中央線らしい街だからです。

特徴的なのは、駅前のみならず、意外な場所に素敵なお店があったりすること。たとえばその好例が、今回ご紹介する「なかむら珈琲店」です。

実は僕も、半年くらい前に高円寺を自転車で走っていたとき、たまたまこのお店を見つけたのです。

北口駅前の中通り商店街を進み、3本目の路地を右折して数分進んだ左側。庚申通り商店街から、左に進んでもいいかもしれません。いずれにしても、「なぜこんなところに?」と思わずにはいられないような住宅地の一角です。

  • 「なかむら」のフォントがおしゃれ

    「なかむら」のフォントがおしゃれ

レトロ感が漂いまくる外観、「中村」ではなく「なかむら」と仮名表記になっているところ、「愛犬家の店」なるアピールなどなど、中央線人間を刺激してやまないポイント多数。

ずっと気になっていたので、「連載の初回は絶対にここだ!」と決めていたのでした。

  • 「愛犬家の店」とは?

    「愛犬家の店」とは?

時間がゆっくりと流れる店内にほっこり

外観写真を撮っていたら、ちょうどお客さんが出てきました。14時台でも、人の出入りがあるんですね。しかも近づけば、店内からワイワイと複数の人が盛り上がる声。

それほどの繁盛店だったとは意外ですが、足を踏み入れてみればカウンターにママさんと、お客さんは窓際の席にひとりだけ。

声が聞こえたのにおかしいなあと一瞬思ったものの、すぐに理由がわかりました。人の声は、カウンターにあるテレビが映し出している、昼のバラエティー番組のものだったのです。

カウンター席に座ると、奥のラジオから音楽が。つまり僕は、右の耳でラジオの音を、左の耳でテレビの音を聞くことになったのでした。でも音量は控えめだし、あまり気にならないから不思議。

正面にはカップがきれいに並んだガラス戸棚があり、目の前には大きなミルとコーヒーサイフォン。テーブル席は革張りのソファが渋いのですが、テーブルはまさかのゲーム機。

  • 昔の喫茶店には必ずあったコーヒーミルが懐かしい

    昔の喫茶店には必ずあったコーヒーミルが懐かしい

  • レトロなソファが印象的。テーブルはまさかの麻雀ゲーム

    レトロなソファが印象的。テーブルはまさかの麻雀ゲーム

「なんの変哲もない、変わらない、ワンパターンの店で。ボロボロで古いだけです」

ママさんはさかんに謙遜しますけど、ゆっくりと時間が流れている気がして、いいなあ、ここ。

聞けば40年以上続いていて、あと数年で50年。「当初いらしてた学生さんがもういいお父さんですから」なんてお話を聞くと、余計に時の流れを感じてしまいます。

  • コーヒーはサイフォンで淹れる

    コーヒーはサイフォンで淹れる

夫婦の優しさが詰まったメニューはワンちゃん用も

カレーライスとコーヒーをお願いした結果、出てきたカレーにちょっと感激。まず、辛くない。でも、ほのかにコクがある。いまどきの凝ったカレーとは対極にある、福神漬けもよく似合う、昔ながらのカレーです。

  • ほっとする、やさしい味わいのカレー

    ほっとする、やさしい味わいのカレー

食べてみて感じたのは、“普通”であるからこその忠実な仕事ぶり。ママさんは「素人の仕事ですから」とおっしゃりますが、きちんと手間をかけていることがわかります。

食後にいいタイミングで出てきたコーヒーも、もちろん文句なし。スターバックスでは絶対に味わえない、昭和の喫茶店のコーヒーの味です。

ひとくち飲んだ瞬間、父親の財布からコッソリ小銭を拝借して喫茶店通いをしていた中学生時代を思い出してしまいました(コラ!)。

  • ブレンドコーヒーも正統派

    ブレンドコーヒーも正統派

「豆屋さんから仕入れた豆をここで挽いて、サイフォンで落としてるだけです。いまはみんなドリップでちゃんと落としてらっしゃるけど、うちは旧式なんですよ」

いやいやいや、旧式だからいいんですよ。

ところで奥の壁には、「ワンちゃんメニュー」と書かれたプレートが。外にも「愛犬家の店」と書かれていたし、“ワンちゃん推し”のお店なのでしょうか?

  • 「ワンちゃんメニュー」も妥協なし

    「ワンちゃんメニュー」も妥協なし

「夫婦で犬が好きなんです。実は子どもがいないんですよ。だから昔から動物を飼ってて」

かねてから、犬の散歩の途中でちょっと立ち寄れる店があったらいいなと感じていたご主人が、それを形にしたのだとか。いまでこそペットOKの店は少なくありませんが、当時は珍しがられ、雑誌などで紹介されたこともあったのだといいます。

ちなみにもともとはご夫婦でやっていたそうですが、いまはママさんおひとりで夕方まで開けているそう。ご主人の体調が気になりますが、ぜひ今後も続けていただきたいお店なのでした。

ということで、ご迷惑にならないうちに失礼することに。ところが、お勘定を払うときにまたもや衝撃が。

なんとコーヒーが250円、カレーライスが350円だというのです。消費税もとらないので、なんと合計600円。

そういえば、ママさんがさっき「ノロノロやってるし、お値段はよそよりちょっと勉強させてもらってます」とおっしゃっていたよなぁ。でも、ちょっと安すぎませんかね。

しかし、そんなところも含め、とてもいいお店だと感じたのでした。

  • 圧倒的な安さに驚かされる

    圧倒的な安さに驚かされる

  • 現在は18時に閉店です

    現在は18時に閉店です

●なかむら珈琲店
住所:東京都杉並区高円寺北3-31-21
営業時間:11:00~18:00
定休日:火曜日

著者プロフィール : 印南敦史(いんなみ・あつし)

作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。