今春、日本テレビが水曜22時台のドラマ枠「水曜ドラマ」を復活させ、志尊淳と岸井ゆきのがダブル主演を務めるラブサスペンス『恋は闇』が放送されている。「水曜ドラマ」の復活によって、今春から『Dr.アシュラ』が放送中のフジテレビと“水10”ドラマ枠がかぶることになった。
ただ、序盤は『恋は闇』『Dr.アシュラ』ともに視聴率、配信再生数、ネット上の反響など、さまざまな点で思うような結果が出ていない感がある。
そもそも、なぜ昨春にドラマを撤退してバラエティに変えた日テレはわずか1年で「水曜ドラマ」を復活させたのか。一方のフジも22時台をドラマとバラエティを入れ替えながら日テレと戦い続け、どちらも定着させられなかったという歴史がある。
なぜ両局は水曜22時台のドラマで何度も一騎打ちとなり、撤退する歴史を繰り返すのか。ひいては民放ドラマ枠のかぶりについて、テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。
3度の撤退と復活を繰り返したフジ
昨春、日テレが「水曜ドラマ」を終了させることが報じられたとき、業界各所からは驚きの声があがっていた。「撤退するかもしれない」というウワサこそあったものの、「本当に39年の歴史を持つ局の看板ドラマ枠(※3年間の2時間ドラマ枠時代を含む)を終了させる」とは思っていない人が多かったのだろう。
だからこそ、今春わずか1年で「水曜ドラマ」を復活させた異例の早期決断にも合点がいく。恥を承知であえて編成ミスを認めるような決断ができるのは日テレの強さなのかもしれない。ともあれ、その水曜22時台にはフジのドラマ枠がいて一騎打ちとなるのだが、この戦いは実に5度目となる。
フジの水曜22時台ドラマ枠は1991年10月にスタート。ここで日テレ「水曜ドラマ」との戦いが始まったが、わずか1年後の92年9月で撤退してしまう。
その5年半後の98年4月にドラマ枠を復活させて日テレと2度目の戦いとなったが、1年半後の99年9月で再び撤退。さらに13年半後の2013年4月にもドラマ枠を復活させて日テレと3度目の戦いに挑んだが、16年3月まで3年間放送したのち撤退した。
そして6年後の22年4月にドラマ枠を復活させて日テレと4度目の戦いとなり、現在まで放送されている。フジが3度もの撤退と復活を繰り返してきたことが分かるだろう。
日テレは女性主人公の物語がメインで、なかでも多かったのは生き方や仕事をフィーチャーした作品。しかし、今春の復活第1弾『恋は闇』は男女ダブル主演のラブサスペンスと大きくコンセプトを変えてフジとの戦いに挑んでいる。
一方のフジは13年以降、日テレと差別化するべく、大半が男性主人公の物語を放送してきた。ただ、今春は松本若菜主演の『Dr.アシュラ』を放送しているように、男性主人公に限定しているわけではない。つまり、主演の性別や作品ジャンルの棲み分けがあいまいになったことで、「同時に似た作品が放送される」というリスクが感じられる。
放送期間と視聴者の層は比例する
日テレは1度、フジは3度も撤退した最大の理由は、視聴率がとれなかったからにほかならない。
録画視聴だけでなく配信視聴も普及した今なお、リアルタイムで見てもらう視聴率前提の収益構造は大きく変わっていない。リアルタイムでドラマを見る人の数が減っているのに、「今春の水曜22時台は日テレとフジのどっちを見るか」という2分の1の確率になってしまうのだから、視聴率獲得が難しいのは当然だろう。
同時にSNSの動きやネットニュースも2分の1になり、他枠のドラマに埋もれやすくなってしまい、TVerなどの配信で見てもらうチャンスも減りかねない。では、なぜうまくいかないリスクがある中、日テレとフジは放送時間のかぶりを前提で水曜22時を選ぶのか。
その理由は主に以下の4つ。
1つ目は、「長年ドラマが放送されてきたため、この時間帯にドラマ好きな視聴者層が多い」と考えられているから。実際フジは、日テレの「水曜ドラマ」が放送されてきた水曜22時台だけでなく、長年TBSの「日曜劇場」が放送されている日曜21時台にも戦いを挑み、撤退を繰り返したことからも分かるだろう。
ちなみ11年の『マルモのおきて』は日曜劇場の『JIN-仁-完結編』とほぼ互角の戦いを見せたように、まれに「2作同時ヒット」という成功もあり、長年ドラマが放送されている時間帯の優位性を裏付けている。