2つ目は、「まだドラマには爆発的な視聴率を叩き出せる」という期待があるから。日テレの「水曜ドラマ」と言えば、いまだに最終話が世帯視聴率40.0%を(※ビデオリサーチ調べ・関東地区)記録した11年の『家政婦のミタ』を思い出す人もいるのではないか。しかし、その後は『花咲舞が黙ってない』『世界一難しい恋』『家売るオンナ』『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』など数年に一度、話題作が放送されるものの、クールのトップに立つような作品は誕生しない。

一方のフジは、98年の『ショムニ』がヒットして以降、13年に堺雅人主演の『リーガルハイ』(第2期)が『半沢直樹』(TBS系)の勢いを受けて高視聴率を記録したのみ。2020年代は視聴率がこれらの4分の1程度まで下がり、ヒット作は出ていない。

3つ目は、水曜22時という時間帯の背景。週明けは「腰を据えてドラマを見る」という動きになりにくく、週末は「外出や趣味を楽しむ」という動きになりやすく、週半ばの「水曜はドラマを見てもらいやすい」とみられてきた。

しかし、それが以前ほどではなくなったからこそ日テレもフジもドラマ枠からの撤退を実行してきたのだが、バラエティはそれ以上にうまくいかないという現実がある。水曜22時台にはコア層の個人視聴率や配信数などで強い『水曜日のダウンタウン』(TBS系)がいるだけに、ドラマで勝負せざるを得ないのではないか。

そして4つ目にして最大の理由は、IP(知的財産)ビジネスでの期待。水曜22時台に限った話ではないが、ドラマは海外を含めた配信での収益や、映画、舞台、漫画、ゲーム、グッズ、イベントなどで幅広く稼ぐ可能性がある。言わば、視聴率とCM収入だけのビジネスではなく「当たればデカい」コンテンツということ。だからこそドラマ枠がかぶることを承知で放送しているし、その中でも水曜22時台は前述した理由からベターな時間帯なのだろう。

21時・22時台は全曜日ドラマを放送

最後にドラマ枠のかぶりそのものについて言及しておきたい。

現在ゴールデン・プライム帯のドラマ枠で放送時間がかぶっているのは、日テレとフジの水曜22時、テレビ朝日とフジの火曜21時、NHK総合とTBSの火曜22時の3つ。さらに、テレ朝(ABCテレビ制作)の22時15分~と日テレの22時30分~も大部分がかぶっている。

そもそも全曜日の21時台と22時台にドラマ枠があり、毎クール計18作を放送。「もう視聴率がとれない」と判断された20時台は日曜の大河ドラマ以外消滅したこともあって、「かぶってしまうのは仕方がない」という感がある。

というより、テレビマンの中には「ドラマ枠が他局とかぶっても気にならない」という人がいるのも確かだ。実際、HUT(総世帯視聴率)が高かった2000年代前半あたりまでドラマ枠がかぶることは当然のようにみなされていた。裏を返せば、現在バラエティは全時間帯でかぶるのが当然であり、ドラマもドラマもターゲット層やジャンルが異なる作品なら大丈夫だろうという見方がある。

しかし結局、視聴率や配信数などがとれなければ、「とれる作品を模索していくうちに似たような作品ばかりになる」という事態に陥りやすい。事実、2010年代後半に視聴率の低迷から刑事・医療・法律の一話完結型ドラマが約半数まで増えた時期があり、若年層のドラマ離れを招いた感があった。

また、これまでリアルタイムでドラマを見てきた人にとって「放送時間帯のかぶりは歓迎すべきことか」と言えば微妙なところ。「どちらかを選べてうれしい」という人もいれば、「どちらか1つしか見られないのは嫌」という人もいるのだろう。

ともあれ、スマートテレビの普及などもあって右肩上がりで増えている配信視聴派にドラマ枠のかぶりは無関係の話。旧態依然とした放送ありきのビジネスモデルに問題があるだけに、視聴率獲得を優先させて作品のクオリティを下げることだけは避けなければいけない。