テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。

今回は、インドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、「キャリアプラン不要論」について語ります。

  • キャリアプラン不要論は本当?

キャリアプランが不要な理由

「自分の理想のキャリアプランを描くべきだ」という人もいれば、「キャリアプランなんて描いても無駄だ」という人もいます。どちらも正しいですし、その中道もまた正しいでしょう。

アップルコンピュータ日本法人社長や日本マクドナルドホールディングスCEOを務めた原田泳幸氏は、「本当のキャリアプランというのは、目の前のやりたいことにすべてを捧げることだ。そうすれば、キャリアは向こうからやってくる」と言い切っています。アップルの日本法人社長になることも、日本マクドナルドのCEOになることも、原田氏のキャリアプランにはなかったそうです。

確かに、どうなるかわからない未来のことよりも、いま目の前のことに意識を集中した方が、良い仕事ができるでしょうし、日々の積み重ねが信頼性や能力、スキルを高めてくれます。そうして築いた無形資産が数年後に花開き、本当にやりたいことの実現につながることもあるでしょう。

ターニングポイントは偶然の出来事

「計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」とは、心理学者のジョン・D・クランボルツ教授が1999年に発表したキャリア理論です。クランボルツ教授は成功したビジネスパーソンのキャリアについて調査を行い、「そのターニングポイントの8割が、本人の予想しない偶然の出来事によるものだった」と結論付けています。

「何をしたいかという目的意識に固執すると、目の前に訪れた想定外のチャンスを見逃しかねない」と、クランボルツ教授は指摘しました。計画的偶発性理論については、本リレー連載「デキる人は『運』が良くて成功したのか?」で徳本昌大氏も取り上げています。

<計画的偶発性理論の骨子>
1.予期せぬ出来事がキャリアを左右する
2.偶然の出来事が起きたとき、行動や努力で新たなキャリアにつながる
3.何か起きるのを待つのではなく、意図的に行動することでチャンスが増える

何事もやってみなければ始まりませんから、「行動すること」は極めて重要です。考えてみれば当たり前のことなのですが、考え過ぎて行動できない人は案外多いものです。

夢の実現を目指すよりも、夢の途中を生きる

私の場合、「計画的偶発性理論を体現しているなぁ」と感じることがいくつかあります。例えば、こうして原稿を書いているのは、学生時代に映画のシナリオや随筆、短編小説、論文、レポートを書いていたことが大きく影響していると思います。「ライターになりたい」と熱望したことはないのですが、結果的にこうなっています。

インドネシアのバリ島でデベロッパー事業をしているのは、妻からバリ島に住みたいと言われたことがきっかけです。仮想通貨について知るようになったのもバリ島移住がきっかけになっていますし、いくつかの企業でアドバイザーや顧問、社外取締役をするようになったのも、人を紹介したり案件を手伝ったりしたことがきっかけです。

「海外で事業をしたい」「新しいものに投資をしたい」「アドバイザーになりたい」という意図はなかったわけですから、いったいどんな因果でこうしているのか不思議なのですが、これもなにかのご縁かなと思って続けています。

立てた計画といえば、バリ島に移住する際に現地での生活費をシミュレーションしたことと、ビザ申請などのTODOリストを作ったことくらいです。そのときに、「やりたいことリスト」も書き出した記憶がありますが、その紙はどこかへいってしまいましたし、内容もなんとなくしか覚えていません。

リストのほとんどが叶ったのだと思いますが、常に夢の途中を生きているという感じがします。夢の実現を目指すよりも、夢の途中を生きる方が幸せなのかもしれませんね。