テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。

今回は、インドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、「アーリーリタイア・セミリタイア」について語ります。

  • 海外でのアーリーリタイア、20代でも可能か

FIREとは?

FIREとは、アメリカで生まれた概念で、「Financial Independence Retire Early(経済的に自立した早期退職)」の略です。「F.I.R.E」と表記されることもあります。

このFIREで注目されているのが、「4%ルール」と呼ばれる目安です。FIRE=経済的自立=経済的自由を得たリタイア生活を実現する目安とされています。

4%ルールとは、年間支出の25倍の資産を築けば、年利4%の運用益で資産を維持したまま生活費をまかなえるという考え方。年に300万円使うとすれば7,500万円、400万円使うとすれば1億円の資産です。4%という数字の根拠は、アメリカのS&P500の成長率7%から、アメリカのインフレ率3%を差し引いたものとされています。

このFIRE的生活を実現するためには、まずは元手となる資金を貯める必要があります。そして、元手資金を貯める時間を短縮するためにも、またアーリーリタイア・セミリタイア後にFIRE的生活を維持するためにも、若いうちから資産運用を始めて投資経験を積み、投資の目利き力を磨いておく必要があるでしょう。

別稿「20代から高めておきたい投資・資産運用の目利き力」では、投資・資産運用をテーマに連載していますので、よろしければそちらも読んでみてください。

いくら収入があれば可能なのか

では、いくら収入があれば海外でアーリーリタイア・セミリタイアは可能なのでしょうか。例えば、私がインドネシアのバリ島に移住した際、移住前に何度も生活費のシミュレーションをしました。多めに見積もっていたり、ところどころミスもありますが、参考までにこれが当時のデータです。

以前、テレビなどで「東南アジアの新興国であれば、月10万円で豪華に生活できる」という番組が流れていましたが、月10万円では生活できません。もちろん、生活水準をローカルの方々と同じ水準にすれば不可能ではないのですが、衛生的でコストパフォーマンスの高い日本の生活水準に慣れた日本人の方々には難しいでしょう。

日本と同じ生活水準で暮らそうと思うと、日本の1.3~1.5倍くらいのコストがかかるというのが実感値です。また、ビザ取得にかかる費用もバカにできません。「現地の平均所得が月10万円だから、それと同じくらいあれば生活費は十分だ」と考えるのは安直です。ローカルの方々は、当然ですがビザ代はかかりませんからね。

アーリーリタイア・セミリタイアして海外移住する場合は、日本での収入と同じくらいかそれ以上の収入を確保してから移住するのが良いでしょう。いきなり100%移住すると後悔の元になりますから、半分日本・半分海外のようにデュアルライフを試してみるのも良いと思います。今はまだ新型コロナウイルスの影響もあって国を越えた移動には制限がありますが、徐々に緩和されていくでしょう。

海外でのアーリーリタイア・セミリタイア生活は結果的な副産物

私がバリ島に移住したのは20代後半のことでしたので、「20代でも海外でアーリーリタイア・セミリタイアは可能か」と聞かれたら「たぶん可能でしょうね」と答えるでしょう。インドネシアは経済成長期にある国ですから、当然ながら当時より物価は上がっています。その分、生活費も上がりますが、しっかりと資産運用できていれば問題ない範囲です。

南国のリゾート地でのアーリーリタイア・セミリタイア生活は、ステレオタイプ的ですが楽しい人には楽しいと思います。私は実は暑いのは苦手なのですが……。

私の場合、特にアーリーリタイア・セミリタイア生活がしたかったわけではありませんし、FIRE的な生き方をしたかったわけでもありません。たまたま妻から「バリ島で働きたい」というリクエストをもらったので、それを叶えようとした結果そうなっただけです。ですので、私にとって海外でのアーリーリタイア・セミリタイア生活は結果的な副産物です。そして無趣味なので、早々にアーリーリタイア生活をアーリーリタイアしています。リタイア生活をリタイアする人たちは、案外多いのも事実です。

自由の背景には責任があり、不自由も必要

今の生活への不満や、拘束感や不自由さがあると、人は自由を求めるのかもしれません。よく「経済的自由・時間的自由・精神的自由」と言いますが、お金だけあっても時間がなければ心に余裕がない。時間だけあってもお金がなければ心に余裕がない。心にだけ余裕があってもお金や時間がなければ心もとない、とも思います。

お金と時間があっても心に余裕のない方もいらっしゃいますが、それは自身の精神性次第です。 バランスを重視するか、あるいはすべてを揃えた方が良いでしょう。

FIRE的生活に憧れて自由を手にするのも良いですが、自由で在り続けるにはそれだけ責任が伴います。決まった給料日に決まった金額が振り込まれるわけではありませんし、収入は自分で確保しなければいけません。そして自由過ぎると人はなにをすれば幸せを感じるのかわからなくなるため、程よい不自由さは必要です。程よい不自由さの源泉は、例えば程よい仕事や程よいライフワーク、ボランティアなどです。

私がよく聴く曲にフィッシュマンズの『すばらしくてNICE CHOICE』がありますが、その歌詞に「目的は何もしないでいること」という言葉が出てきます。この曲を初めて聴いたのは中学生の頃だったと思いますが、当時「これが僕の理想だなぁ」と感じたものです。例えば、窓の外をぼーっと眺めたり、ソファに寝そべって音楽を聴いたり、近所をぶらぶら散歩したり……もしくは、それすらしないか。

物事から一旦離れて心を浮遊させ、「何もしない時間」を許してあげることは、私にとって大切なことです。無趣味な人ほど、「何もしない時間」を大切にしないと、アーリーリタイア・セミリタイア生活は早々に終わりを迎えます。

執筆者プロフィール : 中島 宏明

1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から仮想通貨投資、不動産投資、事業投資を始める。現在は、複数の企業で経営戦略チームの一員を務めるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。監修を担当した書籍『THE NEW MONEY 暗号通貨が世界を変える』が発売中。