テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。

今回は、インドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、財務経営コーチとして活躍する種山直人氏(SAKURA United Solution、さくら経営 財務経営支援室)に、その仕事についてインタビューを行いました。

  • コロナ禍でも本質的な経営支援を、「財務経営コーチ」の仕事とは?


財務経営とは?

中島宏明氏(以下、中島)――「種山さん、本日は宜しくお願いします。最近は、財務経営コーチとしての活躍が目覚ましいですよね。もともと会社を経営していた頃の経験が、やはり今役立っていますか?」

種山直人氏(以下、種山)――「そうですね。経営者としての経験はとても役立っています。財務経営コーチは、社長に寄り添う伴走者です。ですから、社長の気持ちがわからないとできないと思います。いくら素晴らしい資格や経歴があっても、上から目線のアドバイスでは社長は動いてくれません。過去に自分自身も経営者だったことは、良い経験も悪い経験も今は糧になっていますね」

  • 話を伺った財務経営コーチ・種山直人氏

中島――「社長の伴走者だから、財務経営"コンサルタント"ではなく、財務経営"コーチ"なんですね。『1兆ドルコーチ シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え』という本が話題になりましたが、コーチという存在は社長にとって必要な存在になっていますよね。

グーグル創業者やアマゾンのベゾス、ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズらに影響を与え、シリコンバレー中の企業に空前の成功をもたらしたとされるビル・キャンベルもコーチでした。

ここまでビックネームですと現実味が薄れてしまいますけど、日本の中小企業でもコーチをつけることが一般的になるかもしれませんね」

種山――「そうですね。そうなってくれると、私も仕事がしやすくなりますね(笑)」

中島――「財務経営コーチをつけると、経営にどんな効果があると考えていますか?」

種山――「財務経営コーチを導入することは、企業利益の最大化と、会社の発展・継続のために役立ちます。社長のビジョン実現を加速させることも可能だと考えていますし、財務経営力を高めることで、100年企業になることも可能だと思います」

中島――「SAKURA United Solutionさんには、"100年企業を創る"という壮大な目標もありますよね。そのためには財務経営コーチが必要というわけですね。会計事務所は、多くの場合、決算書を作ったり税務申告をしたりするお仕事ですけど、経営の本質的なところまで手が届く経営支援をしているんですね」

種山――「そうですね。企業会計の種類は3つあり、『財務会計』、『税務会計』、『管理会計』があります。財務会計は、外部報告向けの会計。税務会計は、税金を計算するための会計。管理会計は、内部報告・管理向けの会計です。それぞれ目的が違うんです。

たとえば会計事務所が作成する決算書は、正しい納税をするために作る決算書です。税務会計もとても重要な会計なのですが、会社を強くするためには、財務会計と管理会計が大切です。財務会計と管理会計を合わせて、経営会計と呼ばれています。本質的な経営支援をするためには、経営会計も大切なんです」

財務経営コーチの仕事と役割とは?

中島――「財務経営コーチの仕事は、具体的にはどんな内容ですか?」

種山――「まずは、社長や会社のビジョンをお聞きするようにしています。ゴール設定を行って、毎月の予実管理をする。なにが達成できて、なにが達成できなかったか。どうすれば達成できるか、前向きで建設的に議論をする。都度、改善していく。その繰り返しのなかで、経営判断の質とスピードを高めていくことが財務経営コーチの役割です。

利益の最大化はもちろんですが、経営の最適化もあわせて行っています。経営にとって、財務とビジョン、その両輪が重要です。ですので、財務コーチでもなく、経営コーチでもない。財務経営コーチなんです。渋沢栄一の"論語と算盤"という言葉が有名ですが、両輪がうまく機能しないといけないと考えています。

ヒト・モノ・カネ・情報という経営資源を、それぞれどう活かしていくかが重要になります。人材の問題だけに取り組むのではないですし、資金繰りや財務の問題にだけ取り組むのでもない。あらゆる経営資源の最大効率化を図っていく。という意味では、ご相談を受ける内容や提案の内容は多岐にわたりますね」

「資金に余裕がある=財務経営力がある」ではない

中島――「種山さんが考える"財務経営力のある会社"とは、どんな状態ですか?」

種山――「単に資金に余裕があったり、資金調達力が高いことが"財務経営力のある会社"ということではないと思います。財務経営力は、会社の発展・継続を支える土台のことです。アスリートでいうフィジカルのことだと考えています。

『あの選手はフィジカルが強い』というのは、基礎体力や体質が強いということです。これと同じように、会社にとってもフィジカルがある。それが財務経営力のことだと思います。

会社の強さは、ビジネスモデルやマーケティング力であると考える方もいらっしゃるかもしれませんが、ビジネスモデルやマーケティングは、ある意味技術でしかありません。技術を活かすための土台が重要です。その土台となるが、財務経営力。その強さによって、会社の成長スピードとステージが決まります」

社員の幸福を考える

中島――「財務経営力の重要性がよくわかりました。基盤がないと、会社のステージを上げていけないですよね。基礎体力が上がらないと、社員を幸せにできないですしね」

種山――「そうですね。『あれをやれ、これをやれ』と言われても、人はついてきてくれないと思います。社員の方々の幸福と会社のビジョンを紐づけていく。そこに共感がないと、人は辞めていってしまいますよね」

中島――「ついつい指示になってしまいますもんね」

種山――「そうなんです。会議の場は、情報の共有ではなくて、役員や社員の方々との共感をつくり出していく場だと思います。トップダウンの指示ではなく、『なぜこれをするのか?』を考えて行動してもらうことが大切ですよね。一時代前は、昇給や昇格でモチベーションを上げられたかもしれませんが、働く人の価値観が多様化していますから、働き方改革やスキル向上など、金銭的な報酬以外の視点からも社員の方々の幸福を考えていかないと」

共通言語を作り、共感を生み出すストラック図

中島――「種山さんは、ストラック図を活用することも得意ですよね。ストラック図についても教えてください」

種山――「ストラック図は、貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)をブロック化してビジュアルで分かりやすく表現したものです。活用方法としては、

(1)会社のお金の流れを、俯瞰して大局で把握する。
(2)大局での現状把握と、今後の方向性、戦略、課題を見つけ出す道具として使う。
(3)経営者の仕事である「全体最適」の観点から、経営判断をしていく指標として使う。
(4)重要な経営指標となる数値を管理する(基本はあるが会社によって違っても良い)。
(5)経営幹部、または社員との、共通言語を作る。

などがあります。会社の数字はすべてつながっていますから、なにかの数値が上がれば、なにかの数値が上がるか下がるんです。売上が倍になっても、利益が倍になるわけではありませんよね。売上が上がっても、コストが上がれば利益は下がってしまうかもしれません。

それに、売上倍増が社員のモチベーション倍増につながるとは限りません。業績が好調なときほどリスクも上がるという認識を持つことも大切だと思います。業務負荷がかかりすぎて優秀な人が辞めてしまっては……ということです。

ストラック図は、基本的な知識さえあればパッと見て会社の現状を把握することができます。現状を知ることで解決策を講じることができますし、役員や社員の方々との共通言語にもなります。同じ課題に取り組むことで団結力が増したり、社内の課題が解決されたりすることもありますから、ツールとしてストラック図を活用することは有効だと思います」

負け率を下げることは社長にしかできない

中島――「お話を伺っていると、財務経営コーチの仕事は経営経験のある種山さんに合っているのだと感じますね。経営者にとって、最大の仕事ってなんだと思いますか?」

種山――「負け率を下げることだと思います。会社にとっての"勝ち"は、会社や社長の価値観によって異なりますが、会社にとっての"負け"は倒産です。倒産させないように、負け率を下げるという思考や実践は、社長にしかできない仕事です。

頭では『倒産させない戦略が重要』とわかっていても、ついつい新しいことに挑戦してしまう社長さんも多くいらっしゃいます。それはそれで素晴らしいことなんですが、社長としての責任もあるわけです。ですから、財務経営コーチとして社長さんに伴走し、ときにはアクセル役に、ときにはブレーキ役にもなる。それが私の仕事だと思っています。

知識やノウハウだけでは生き残れない時代ですから、会社のフィジカルを強くして、ビジョンを実現するためには、行動を起こすことがなによりも重要です。財務経営コーチとして、一人でも多くの社長さんのビジョン実現に貢献したいですね


次回以降も、実体験をベースに、起業や副業・複業、海外進出、テレワークなどをテーマに役立つ情報をご紹介します。

執筆者プロフィール : 中島 宏明

1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から仮想通貨投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、SAKURA United Solution(ベンチャー企業や中小企業の支援家・士業集団)、しごとのプロ出版株式会社で経営戦略チームの一員を務めるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。監修を担当した書籍『THE NEW MONEY 暗号通貨が世界を変える』が発売中。