財務省は今月に入って、一般会計決算(概要)を発表しました(http://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/account/fy2011/ke240702.htm)。昨年は東日本大震災のため、経済活動の停滞を余儀なくされた状況があります。電力供給への不安もあり、停電によって工場などの操業はかなり制限もされました。そして為替市場では対ドルで戦後の最高値を更新し、長らく円高水準に留まっています。私自身は円高で日本経済全体が疲弊するとは思ってはいませんが、仮に円高によって打撃を受けるのであれば、法人税の税収は大幅なマイナスになるはずです。円高というよりも震災の悪影響を懸念してのことですが、2011年度は税収の落ち込みを予想していたのです。

昨年度の「国の税収」の公表を見て"唖然"、まさに「ポジティブ・サプライズ」

しかし、公表を見て唖然としました。国の税収は42兆8326億円と前年度超えの税収です。新聞などの報道によれば、扶養控除の見直しで所得税が13兆4761億円で前年度比3.8%増加したとのこと。国民にとっては負担が増えたことになり、これは素直には喜べないとしても、非製造業の業績回復によって法人税収が9兆3,514億円、前年度比4.3%のプラスとなりました。その結果、税収が新規国債の発行額を3年ぶりに上回ることとなったのです。これをポジティブ・サプライズ(予想外の良さ)と言わずして何と言いましょう。

一般会計税収の決算額の推移(出典:財務省)

歴史的円高の影響も限定的であったという点のほかに、「増税の論拠は税収減ではなかったのか。単年度とはいえ例外的な年だったにもかかわらず税収が上がっているのに、増税を求めるのはいかがなものか。何よりも、小売業が震災後何とか立ち上がってきている現状で、その売上げに水を指すような消費税を導入する必要があるのか。」―そんな思いに駆られるデータです。国民が日本国を維持していくための応分の負担をすることは当然ですが、民間の驚異的な回復力によって税収がアップしている、つまり民間がこれほどの努力をしているのに、しかも震災からようやく1年が経過したような時期に消費税の話を始めるのはやはり拙速に過ぎます。

"財政破綻"の議論は、「『負債』をどうとらえるか?」が重要

これまでは「税収に対してそれを上回る国債が発行されているのだから、日本の財政は破綻するのだ」と散々言われてきただけに、発行額を超える税収が震災のあった年にあったのだと知れば、皆さんも安堵するのではないでしょうか。政府の借金が1000兆円という数字に関しては政府の勘定の一部過ぎず、資産の話はされていない、というのは前回お話した通りです。それでも、資産があっても心配だという人もいるでしょう。

過剰な債務は個人でも企業でもよくないことです。その一方で適度な債務は、企業活動をする上では必要となってきます。債務の金額についてはどこまでが許容範囲で、どこまでが過剰なのか、その線引きをするのが難しいのは事実です。

例えば、原発に代わる新しいクリーンエネルギーが開発され、それを広く国民に利用してもらうための装置が必要となったとしましょう。その装置を大量に生産するために、クリーンエネルギーを開発した会社は工場の建設が急務となります。借金はないに越したことはありませんが、元手がない場合は銀行や投資家からの借り入れに頼らざるをえません。日本国中に行き渡るような装置であれば、大規模な工場建設が急務となりますので、負債も相当な金額となるはずです。

企業自体の規模に対して、あるいは年間の売上に対して何倍もの債務を背負ったこの企業は間もなく経営破たんをする会社だと、果たして言えるでしょうか。会社には工場や土地といった資産もありますし、預金などもあるかもしれません。大量に新装置が売れれば、収益も倍増するはずです。むしろ成長産業としての期待を一身に背負うのではないでしょうか。

企業であればこうした負債の全額返済を求められますが、政府の場合は全額返済を求められることはありません。政府の歳出・歳入のバランスが著しく欠いている状況が長く続くのはよいことではありませんが、今回のように税収が増加しているのであれば、ひとまず安心です。

世界経済の抱える問題として、「債券のそもそも論」を考えるべき

国債の議論に関しては、スケールを分けて考える必要があると思っています。非常に大きなスケールとして、そもそも債券を各国政府が無尽蔵に発行して、好きなだけ資金を調達してもいいのか、という命題があります。

無尽蔵という部分でOUTだと誰もが思われるはずです。広義の意味で、「債券のそもそも論」は日本に限ったことではなく、世界中が現代経済の抱える問題として考える必要があると思います。極論ではありますが、仮に債券というシステムが成立しなくなった場合、いち早く経済が立ち行かなくなるのは海外からの返済を求められる日本以外の各国でしょう。日本などからの借金を踏み倒したとしても、それ以上借り入れ手段がないのですから、自国経済は回らず破綻です。

海外へ貸し出している資金が踏み倒されたとしても、それでも日本の場合は何とか自国の資金で経済を回す余力があります。債券のシステムが成り立たなければ各国経済は大混乱に陥るでしょうが、海外からの借金に依存していない日本はまだ救われるでしょう。

「自分だけ助かれば」ではなく、「破綻しないようどうすればよいか」議論を

スケールをもっと小さくして、債券を発行して政府が資金を調達するというシステムが成立している現状においても、各国比で見た場合に、経済運営が最も危ういのは自分の国の中で資金の貸し借りを完結できない国です。

その点、自国で賄えている日本は健全です。債券を通じての各国政府の資金調達の方法に問題はあるが、その中でも日本は「まとも」と言えるでしょう。ただし、現状で日本政府の返済能力に問題はないとしても、債券を発行して集めた資金が本当に国民のために使われているのか、つまり天下り先などに流れてはいないかなど、精査する必要は大いにあります。

私は近々国債が暴落するとも、日本が経済破綻するとも思ってはいませんが、もしその可能性があると思うのであれば、不安をむやみに焚き付けるのではなく、破綻しないためにはどうしたらよいのか、それを考えようと言うべきではないでしょうか。日本はダメだから、自分の資産だけは何とか守って、外貨預金を、海外へ投資を、挙句の果てには海外に逃げろ…自分だけ何とかなればよいという論調であるという点で、感覚的にも受け入れがたいものがあります。紛争も戦争もなく、世界最高のインフラが整えられた日本で生活をする中での経済活動によって資産を蓄積したのであれば、日本が悪い状況にならないように考えるのが先決のはずです。

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執筆者プロフィール : 岩本 沙弓(いわもと さゆみ)

金融コンサルタント、経済評論家、経済作家。大阪経済大学 経営学部 客員教授。1991年東京女子大学を卒業し、銀行在籍中に青山学院大学大学院国際政治経済学科修士課程終了。日、米、加、豪の大手金融機関にて外国為替(直物・先物)、短期金融市場を中心にトレーディング業務に従事。その間、国際金融専門誌『ユーロマネー誌』のアンケートで為替予想部門の優秀ディーラーに複数回選出される。現在は、為替、国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、英語を中心に私立高校、及び専門学校にて講師業に従事。新著『世界恐慌への序章 最後のバブルがやってくる それでも日本が生き残る理由』(集英社)が発売された。