(C)「サ道」製作委員会

――先ほど名前の出た『孤独のグルメ』だと、食堂の楽しみ方を主人公・五郎のモノローグで表現していますし、『ワカコ酒』ですと「ぷしゅー」というセリフでお酒の気持ちよさを表現しています。原作漫画同様にサウナの気持ち良さをテレビ画面で伝えるために意識したことはありますか?

ドラマでもカツキさん作のCGで、漫画を完全再現しています。サウナのことを知らない人は、どうして熱い場所に入った後に、冷たい水に入るのか意味分からないとなるじゃないですか。それを映像とナレーションを駆使してひたすら説明するという。サウナってどこでも同じと思われるかもしれないけれど、サウナストーブにも色んな種類もあるし、水風呂も温浴施設によって温度がぜんぜん違う。ご飯もあるし、それぞれにこだわりがあるんです。

――そういえば、サウナにはテレビがあるところも多いですし。

僕も「サウナ&カプセルホテル北欧」や、錦糸町の「ニューウイング」でリアタイ視聴をしました。最初はリアルを求めてサウナ室で観たんですけど、やはり熱くて水風呂との行き来がせわしなかったんで、次からは休憩所で見ることにしました。ちょっと考えればわかると思うんですが、なんかサ室で見たかったんです。そのほうがととのいそうなだなって。バカですよね(笑)

――パブリックビューイングですね(笑)。近年のサウナの盛り上がりの要因は、何だと思われますか?

今って、ストレスが溜まりやすい時代じゃないですか。それを手っ取り早く解消する手段として、サウナはすごく有効だと思うんです。これは記者会見でも言ったんですけど、「働き方改革」がどこでも叫ばれている中、「休み方」に関しては語られてこなかったことも背景にあります。なにかとコンプライアンスと言われがちで、SNSで炎上したりだとか、そういうところから一度遮断されて、ひとりになる時間を過ごす。それは1日の終わりでも、仕事の合間でもいいと思いますし。「スカイスパYOKOHAMA」には「コワーキングサウナ」といって、仕事やミーティングをするスペースもあったりするんです。

――本当にサウナがお好きなんですね。

私なんてまだまだです。ご覧の通り今回のドラマは本当にサウナしか描いていないんです。普通のドラマなら、例えば「錦糸町のサウナ」の回があるとすると、周囲にもいい飲み屋がたくさんあるから、そこも紹介して「幸せな1日だった」って、やりたくなると思うんで。でもやらないことにしました。駅を降りたらサウナ施設に一目散に行き、そこから出ない(笑)。それで30分やりますから、気が狂ってますよね。でも、振り切るからこそ面白くなると思いました。これは監督とも早い段階で一致していましたね。『サ道』ですから。

  • 『サ道』(テレビ東京系、毎週金曜24:52~)
    サウナの奥深さや入り方・マナーを描き、サウナの道=“サ道”を究めていく過程やそこてで出会う個性的な人々との出来事を描くドラマ。9月13日放送の第9話は、イケメン蒸し男(磯村勇斗)から推薦されたサウナ施設があるホテルを訪れたナカタ(原田泰造)が、入り口から感じるリゾート感や露天風呂のおしゃれな雰囲気に圧倒される。そんな時、偶然さん(三宅弘城)と遭遇するが、何やらいつもと様子が違う…。
    (C)「サ道」製作委員会

■コミュニティ作りまで設計していくべき

――春に放送された史上初のバーチャルYouTuber(VTuber)ドラマ『四月一日さん家の』も、VTuberが女優としてドラマ出演するという、ある意味振り切った挑戦だったと思います。こちらの視聴者の反応はいかがでしたか?

VTuberは限定されたファン層に向けられたものという印象が強く、衣装も男性が好みそうな露出の高いものが多いんです。でも、今回は女性の視聴者にも見てもらいたかったんです。だから彼女たちが、年頃の女の子のスタイリングで、女優としてドラマに出演したら間口が広がるのではと思ったんです。実際に『四月一日さん家の』は、20代女性やお子さん、お年を召された方など幅広い方々が面白がって見てくれてました。「伝わった」と手応えを感じました。その上で、ファンの方たちの熱量がすごかったですね。最終回の際にイベントをやったときも、チケットは即完。愛されている気がしましたね。

――ファンの熱量が高いことによって、何が変わっていくのでしょうか?

既存のドラマって1クールの放送を終えたら、外に広がっていくことってあまりないんですよ。『四月一日さん家の』は、このあともイベントなどをやろうと思っていて。そこでうまく熱量を持続させていけたら、シーズン2もやりたいですし。最近自分がやっているドラマは、テレビというメディアをゴール地点に置かないようにしています。

『四月一日さん家の』記者会見より(左から ときのそら、猿楽町双葉、響木アオ)

――テレビを起点にして、さらに広げるような形でしょうか。

『四月一日さん家の』でしたら、VTuber業界全体の底上げになれたらいいし、IP(知的財産)を使ってテレビ以外のライブやイベントや、エピソードを皆でコメンタリーつけながら観るだとか、いろいろな発想ができますよね。実写ドラマの場合、撮影が終わってしまったら、俳優さんは次の作品に入っちゃいますから、そういうことには付き合ってくれないですよね。

――スケジュールの問題もあるでしょうし。

VTuberならではの特性があるじゃないですか。たとえば、池袋の映画館でイベントをやる場合でも、タレントさんの場合はその時間帯に全員実際に池袋に集まる必要が出てきます。でも、彼女たちの場合はやりようによっては別の場所から1つの場所に集まったりすることも可能です。今まで生身の人間が普通にやっていたことの延長線上でない、新しいことが広がっていく。それもすごく可能性を感じますよね。

――たしかに。

テレビというものは、あくまで「皆さん、こういうものがありますよ、これを見てください」と伝える機能がある。そこをスタートとして、いかにその後のストーリーを作ることができるのかを考えるほうが、実は大事なんじゃないかと。最近は番組を作るとき、そこまで考えて企画を出しています。『サ道』も、サウナ業界全体の底上げに寄与してほしいですし、1クールだけだとまだまだ伝えきれないし、3人がフィンランドに行くスピンオフも作りたい(笑)。今後はSNS中心としたプロモーションもやっていきたいし、このドラマによって、サウナ好きのコミュニティができるから、そういうことを大切にしていきたいんです。そこからシーズン2の可能性も出てくると思いますし。

――“画面の外”まで考えての番組作りが重要になってくると。

そうですね、やっぱり今はコミュニティが大事で、『サ道』を見た人たちで語り合える空間がほしい。それを作ることが、結果的にビジネスにもつながっていく。そこまで設計した番組作りをしていくべきだと思っています。