金曜深夜のドラマ25『サ道』(テレビ東京系 毎週金曜 24:52~)がハマる。"サ"は"サウナ"の"サ"。主演の原田泰造が各地のサウナをまわり『整う』という至福の状態を獲得していく日々を描く。深夜の飯テロならぬ、おじさんのハダカテロ番組で、30分の本編中、原田泰造を中心に、かなりの時間おじさんのハダカが映っている。

原田泰造のハダカは決してだらしなくないが年齢相応に腹回りは若干緩んでいる。そこがご愛嬌。サウナ仲間の三宅弘城は学生時代体操部にいてその後も鍛えているようで(8月30日放送回の三点倒立はお見事だった)、その引き締まりには目を見張るものの、やっぱり相応の肌の経年は認められる。そんななか、唯一、無駄なものがいっさいがっさいない人物が磯村勇斗である。

  • 磯村勇斗

原田(ナカタアツロウ役)、三宅(偶然さん役)、磯村(イケメン蒸し男役)が、サウナ友達としてしょっちゅうつるんでいる。あちこちのサウナでなごんだり、サウナを出てからガウンを着てビールなどを飲んだりしたりしながら、サウナ情報を語りあい豊かな時間を過ごしている。

自然な中年感の原田、鍛えた中年感の三宅と並んだ磯村の若さは、下手したらサービスみたいになって悪目立ちしそうなところ、「イケメン蒸し男」なんていかにも受けを狙ったかのような役名にもかかわらず、まるでひけらかし感がない。

古くは鍛えた若手俳優大集合の水泳ドラマや海を舞台にしたドラマに女たちは夢中になったもので、いまは筋肉体操ブームでオトコも女も筋肉を愛でることが日常化した。視線を浴びる人たちは、当然ながら鍛えたカラダを意識している。先日公開された『劇場版 おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~』でもサウナの場面があって、それはオトコたちの肉体を意識した面白さを描く舞台になっていて、それはそれで俳優たちの演技が生き生きして面白かった。がしかし、『サ道』で唯一の若手肉体班の磯村が演じているのは、サウナで肉体を解放しくつろぐ自意識のない快楽のみ。

おじさんたちとイケメンとの境界もそこにはないとはいえ、彼がいるのといないのでは画面は全然違うだろう。彼がいるから画面のトーンがすこし明るくなるのだ。例えるなら、崎陽軒のシウマイ弁当のなかの卵焼き。全体的に茶色く渋いメニューのなかで明るいトーンを放つ。シウマイ弁当のあんず不要論を唱える人もいるが、卵焼き不要論を唱える人はいないだろう。身の締まり方はかまぼこという気もするが、かまぼこのピンクは目立ちすぎる。たぶん、かまぼこはもっと鍛えた自意識のあるキャラだ。磯村勇斗はふんわりそこにいる卵焼きなのだ。

■クセのつよい作家の世界にもどんどんハマる

脇役にも主役にもなれる卵焼き。若手イケメンの登竜門、仮面ライダー(15年『仮面ライダーゴースト』)で頭角を現し、朝ドラ『ひよっこ』(17年)では有村架純演じる主人公の相手役に選ばれ、認知度は全国区に。以後、引っ張りだこだ。『ひよっこ』での在り方がそもそも卵焼き的で、当初、若手イケメンのトップランナーだった竹内涼真が主人公の恋人役で現れながらも、途中退場、その次の恋の相手となるという意外性ある役割だった。キラキラのスターが夫になるのではなく、地道に生きる庶民代表キャラとして存在した磯村。ここでもやっぱりメインディッシュの肉とか魚とかではなく卵焼き的だった。

こぶりな目鼻立ちで、すっとその世界に馴染むが埋没はしない、ギリギリのところに立つ繊細さをもつ俳優・磯村勇斗。内野聖陽、西島秀俊のコンビプレーが絶賛されたドラマ24『きのう何食べた?』(19年)でも、竹宮惠子の名作漫画の究極の美少年キャラ・ジルベールに例えられる人物を演じた。どんな美少年かと思ったら、無精髭でちょっと小汚いカッコウをしていて、でもわがままさを言って恋人を振り回す堂々とした精神性が美少年の強さを物語る。ここでも魚ばかりの寿司のなかになぜか堂々と存在する卵焼きだった。

一方、『今日から俺は!!』(18)では最凶ヤンキー役でぐいぐい攻めていたし、最新出演作、ミュージカル『プレイハウス』ではカリスマホスト役で主演。10月からは連ドラ『時効警察はじめました』(テレビ朝日系 毎週金曜2415~)に出演する。福田雄一や根本宗子、三木聡などクセのつよい作家の世界にもハマる磯村。料理をしても、絵を描いても、おしゃれをしても、これで十分な気がするのに何か一点物足りないなあと思ったとき、ひょいと配置するとしっくり来る。そんないい色をした俳優である。

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