テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第67回は、21日に放送された日本テレビ系バラエティ番組『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(毎週日曜23:25~)をピックアップする。

1989年10月のスタートから放送30年目となる説明不要の長寿番組だが、今回の企画は2年3カ月ぶりとなる「着ぐるみトーク」。発表された途端ツイッターが沸くなど、松本人志、浜田雅功、月亭方正、遠藤章造、田中直樹の5人が繰り広げる、ゆるいのに笑いの絶えないトークへの期待値は高い。

  • 『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』松本人志(左)と浜田雅功

ひたすらトークに絡む松本の独壇場

最初のトークネタは、「4月に平成最後の寒波到来」。しかし、松本は方正に向かって、「お前、何でしゃべらへんねん。黙って目立つパターンか!」と強めにツッコむなど入れ込み気味。さらに「天気予報のやつを集めて、1人ずつシバいていきたい」と熱弁したところで浜田が「うるさーい!」と頭をはたき、松本が再び方正に「黙ってるパターンか! クラスの後ろの気になる女子か!」とかぶせて笑わせた。

このパートを見ればわかるように、着ぐるみトークを回しているのは主に松本であり、フリからボケ、ツッコミ、フォローまで、すべて入れてしまうことすらある。まさに独壇場なのだが、「楽しんでいる」というより、「トークのクオリティに対する責任感」によるところが大きいのではないか。

かつて松本は、2009年に2ショットトークをやめた理由として、「今やっても以前よりも面白くならない」「結婚を機にプライベートを話しづらくなった」と明かしていた。しかし、2017年4月の復活後は5月、7月、10月、2018年2月、4月、7月、10月、2019年2月とコンスタントに放送しているように、トークへの意気込みがうかがえる。そんな思いが2年3カ月ぶりに復活させた着ぐるみトークにも表れていた。

たとえば、「iPhoneのあれ、すごい(耳から)落ちる」とイヤホンの話を切り出した上で、「つけてるの忘れる」と返した方正に、「全然おもろないやん。5番目におもしろくないで。8人おったら8位やで」と猛烈にダメ出しした上で、浜田に「あなたは何で文明の利器みたいなものに乗っかかってこないんですか? Bluetoothのマーク書けるか?」と話を広げた。事実、5人が微妙なBluetoothのマークを書いたシーンはトークのアクセントになっていたし、そこは計算済みなのだろう。

次の話題は、「米津玄師が読めるか?」。「僕は知ってます」という遠藤に続いて松本も、「俺も分かるよ」と自信を見せたが、明らかにあやしい。実際、「初めてテレビに出たのが紅白でしょ。自分の番組(『絶対に笑ってはいけない』シリーズ)の裏番組は絶対に見ない。自分の番組に自信を持っている。『絶対に笑いを届けたい』という思いが強い」とたたみかけるようにごまかして笑わせた。

一方、浜田は「知らないですよ。そのまま読んだら、“よねずげんし”でしょ」とあっさり誤答。浜田は前回の着ぐるみトークで、映画『君の名は』を知らなかっただけに、これは当然という範ちゅうか。楽曲の『Lemon』や、あいみょんに派生させたトークも含め、いかにも着ぐるみトークらしい脱力的な笑いが詰め込まれていた。

暴論とウソを重ねるのが『ガキ使』のトーク

その後、「浜田がTBSの偉いさんをハリセンでシバいて出禁になった」というエピソードをはさんで、テーマは視聴者投稿による「引退時期について」に移った。

「もう56(歳)ですから、還暦がそこまで来てるし、うまみがないよね」と嘆く松本に、「あるでしょ。やったらお金が入って」と返す方正。すかさず松本は「お金なんて20年前からくさるほどあるがな。ホンマに腐ってたことあるからな。下のほう」と笑わせた。

しかし、松本はこれだけでは終わらず、トークはこの日のクライマックスへ。「もうちょっと楽しく毎日すごしたいよね」というフリに浜田が、「今は何か言うたら、(SNSで)あっこにおったとか、写真撮ったりとか、しんどいよな」と同調すると、ついに松本の本気が顔を出す。

「『いっせーの』で芸能人が女遊びしたらいいんですよ。『〇月〇日は不倫の日』って決めるんです。その日はみんな不倫せなダメなんです」「年に1回から2回ってだんだん増やしていく。足並みそろえていったらできる」「もう何年も前から言っているのに、みんなリアクションしない。『いいですね』すら言わないのが腹立つ!」とヒートアップした。

毎週ネット媒体で記事化される『ワイドナショー』(フジテレビ系)でのコメントを超えるキレ味であり、だから着ぐるみトークは人気があるのだろう。「こうした暴論やウソを積み重ねて、笑いの渦を大きくしていく」という『ガキ使』の松本は、いまだ健在。それは浜田との2ショットでも、着ぐるみの5人でも変わらない。

「スベってもそのまま放送」するリアル

最後は矛先を向けられた方正の「僕は(不倫は)ないので。ホントに10年何にもないから。おっぱい見てへん。おっぱい見たいけど見たくないんです」「(スタッフの女性を指さして)彼女も見たい、彼女も見たい」「おっぱいを見てない10年を大切にしたいんですよ。嫁だけなんですよ。おっぱい見るのは。よーし、言ったったぞ~!」で終了。「おっぱい」を連呼し、スタッフの女性にセクハラし、妻との性生活を明かす、これ以上ないおバカなエンディングだった。

5人は動物の着ぐるみ姿であり、かわいい顔の部分は脱いで目につくところに置いていることで、どんなに過激でも、どんな下ネタでも、視聴者に「まあいいか」と思わせるムードがある。クレーマーたちも、わざわざ『ガキ使』の「着ぐるみトーク」を選んで批判の声をあげることはないだろう。

そして、最後にふれておきたいのは、トークがまったく盛り上がらなかったシーン。松本が「すべてに関して『キミたちに負けることはホンマにないんやな』と思う。流行もしかり、舌とか味覚とかも」と切り出したとき、残りの4人は黙り込んでリアクションすらしなかった。つまり、スベってしまったのだが、これをそのまま放送するのが着ぐるみトークであり、リアルそのものかもしれない。

番組は今年の10月でちょうど放送30年になるが、あの浜田がほとんどツッコミを入れない着ぐるみトークのようなコーナーこそが飽きられないための強みとなっているのではないか。今後も2ショットトークと並んで、番組を支えるとともに、ダウンタウンの話術を保つ重要パーツであり続けるだろう。

次の“贔屓”は…香取慎吾が地上波復帰の第一歩へ『人生最高レストラン』

徳井義実(左)と香取慎吾=『人生最高レストラン』4月27日の放送より (C)TBS

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、27日に放送されるTBS系バラエティ番組『人生最高レストラン』(毎週土曜23:30~)。

「ゲストの人生で最高においしかったものの話を聞く」、異色のグルメトークバラエティとしてスタートしてから、早くも約2年4カ月が経過。食を通して、人生、素顔、魅力を引き出す人間ドキュメントとしての評判は高く、知名度や視聴率以上にファンの多い番組と言えるだろう。

しかも今回のゲストは香取慎吾。ジャニーズ事務所を独立してから、いまだ地上波バラエティの出演はほとんどないだけに、それだけでネット上は沸騰必至。『SMAP×SMAP』の「BISTRO SMAP」を思い起こす食いしん坊ぶりやプライベートのエピソードも披露するというから楽しみは尽きない。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。