テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第66回は、13日に放送されたフジテレビ系バラエティ番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』をピックアップする。

「99人を相手に自分の得意なジャンルのクイズに挑み、5問正解すれば100万円獲得できる」という視聴者参加型のクイズ番組であり、出場者たちの熱気と俳優・佐藤二朗のユニークなMCで、ジワジワ人気上昇中。

実は100人の中に私も参加していた(仕事ではなくプライベートで)。つまり、結果はすでに分かっていたのだが、だからこそ「どんな編集が施され、どんな盛り上がりを生んでいるのか」などもチェックしていきたい。

  • 『超逆境クイズバトル!!99人の壁』MCの佐藤二朗

トップバッターに丸山桂里奈を据えた理由

この日のトップバッターは、元なでしこジャパンの丸山桂里奈で、挑戦ジャンルは「駄菓子」。「うまい棒の種類を当てる」という1問目を見れば、土曜夜のファミリー視聴に最適なジャンルを持ってきたことが分かる。

実際の収録順はこの通りではなく、100人の参加者と同伴の観覧者はそのことを知っているが、編集で番組の魅力は間違いなく増しているため、それを揶揄(やゆ)する声はあがらない。この日の「トップバッター・丸山桂里奈」は、その後の出場者を見ても、まさにドンピシャの構成だった。

この日のジャンルは、駄菓子、パン、「アレ」の名前、ビートルズ、絵本、地下鉄、プラレール、発車メロディ、トイレットペーパーで、9人がクイズに挑戦。あらためて見ると、老若男女に対応した多彩かつバランスのよいものであることが分かるだろう。

その多彩さとバランスのよさは、オーディションの段階からスタッフの手で作られている。毎回97~98人(100人中2~3人はタレントが加わる)の一般人を集める際に、年齢、性別、ジャンルをパズルのように組み合わせ、より多くの人々が楽しめるようにしているのだ。

多彩さとバランスのよさは、クイズの種類も同様。詳しい説明は省くが、単純な早押し問題だけでなく、穴埋めサドンデスクイズ、ババ抜きサドンデスクイズ、線つなぎサドンデスクイズ、2択ラリークイズが出題され、さらにこの日はなかったが、1発逆転1ミニットクイズ、1発逆転スリーアンサークイズ、スリーヒントクイズなどもある。

ジャンルの異なる100人超のクイズを準備するだけでもすごいのだが、飽きさせない工夫を施している上に、難易度もまちまち。自分の得意ではないジャンルでも何となくついていけるため、知的好奇心をくすぐられてしまう。

栗原叶くんを見守る温かい姿勢

この日は、天真爛漫さと鉄道の知識で番組のアイドルとなっている栗原叶くん(10歳)が、「地下鉄」で挑んだ大人女性を見事にブロック。しかし、自らの「プラレール」では鉄道フリークのライバル・藤本温くん(11歳)にブロックされてしまう。ところがその温くんを叶くんが「ブロック返しする」というドラマチックな展開があった。

叶くんがブロック返しした問題は、「JR南武線登戸駅は『ぼくドラえもん』を発車メロディにしていますが、その理由は何?」で、叶くんの解答は、「ドラえもんのミュージアムが近くにあるから」。正解は「『川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアム』の最寄り駅だから」であり、正解と言えるかは微妙なのだが、「5年生(収録時は4年生)の答えとしては十分」ということだろう。制作サイドによるこのあたりの大岡裁きも、実に的確で何より温かさを感じる。

2010年代に入って以降、街頭インタビューやドキュメンタリーを中心に一般人の出演する番組が増えたが、『99人の壁』ほど生き生きとした姿が見られるものは見たことがない。ちなみに収録現場はさらにアットホームで、「ライバルのはずなのに仲間」というムードであふれている。

画面から伝わってくるのは、勉強、仕事、運動、芸術などの明確に結果が出るものだけでなく、「好きだから追い求めている」ことの素晴らしさ。まるで「あなたはあなたでいいんですよ」という個人の生き方を尊重する番組コンセプトは現代性に満ちている。スタッフはスタジオでの収録後に、「チャレンジャーがいかにそのジャンルが好きで精通しているか」の裏づけとなる後追いロケをしているが、その映像を見れば、「ただのクイズ番組ではなく、人間ドキュメント」であることが分かるだろう。

ただのクイズ番組に留めなかったのは、スタッフの心意気によるところが大きい。まずたいていのテレビマンは、未知数でリスクの大きい一般人をこれほど集めることに躊躇してしまうし、事実としてプライムタイムに視聴者参加のクイズ番組は存在しない。前述したオーディション、100人超のクイズ作問、後追いロケも含めて、地道な作業をいとわない姿勢は、もっと評価されていいのではないか。

「打ち切ったらバッシング必至」の番組か

その地道な作業の中心にいるのが、入社4年目になったばかりの千葉悠矢ディレクター。千葉ディレクターが、「入社2年目で社内の企画プレゼン大会で優勝し、特番を経てレギュラー化された」ことは、すでに何度も報じられているが、放送を重ねるごとに番組は洗練されつつある。

たとえば、芸能人を招いたスペシャルワンマッチ。この日は安田顕だったが、今年の出演者は、デヴィ夫人、古舘伊知郎、草野仁、ToshI(X JAPAN)、デーモン閣下、ガチャピンなど、クイズ番組の出演者としてはレア感が大きい。

また、この日は「発車メロディ」の藤本温くんが、ハミングのように「アー、オー、ワー」と歌って盛り上げたように、子どもの個性を引き出すスタジオ全体のムード作りも巧みで、長時間に渡る撮影でもダレることがなかった。このあたりは「初の総合演出」と「初のMC」という絆で結ばれた佐藤二朗との連携が高まっているのでは、と感じさせる。

「千葉ディレクターが若いから、これほどリスクがあり、労力のかかる企画にトライできた」とひと言でまとめられがちだが、それこそが現場の高齢化が改善されないテレビ業界の課題であり、だから当番組は痛快なのだろう。しかもレギュラー化以降、子どもたちの奮闘によって「ファミリー視聴を促す」という追い風も吹いてきた。

蛇足だが、私は箸にも棒にも掛からぬ結果に終わったが、それでも緊張感と笑いがあふれる楽しい収録だった。現状ホメるところしかないが、問題はフジテレビが目先の視聴率に一喜一憂せず、続けていけるか。

前例のないオリジナリティ、視聴率に表れない愛着の深さ、若手スタッフの起用によるイメージアップを踏まえると、フジテレビとしては久々に「打ち切ったらバッシング必至」の番組と言えるだろう。

次の“贔屓”は…2年3カ月ぶりの着ぐるみトーク『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』

『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』松本人志(左)と浜田雅功

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、21日に放送される日本テレビ系バラエティ『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(毎週日曜23:25~)。

1989年10月のスタートから放送30年目となる説明不要の長寿番組だが、次回の企画は2年3カ月ぶりとなる「着ぐるみトーク」。発表された途端ツイッターが沸くなど、松本人志、浜田雅功、月亭方正、遠藤章造、田中直樹の5人が繰り広げる、ゆるいのに笑いの絶えないトークに対する期待値は高い。

次回予告には、「最近気になるあのマーク書ける? 松本が提唱する『○○の日』とは? 遠藤グラデーションたけしが進化!」とあるが、まったく読めないところに興味をそそられる。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。