テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第60回は、3日に放送されたMBS・TBS系バラエティ番組『林先生が驚く初耳学!』(毎週日曜22:00~)をピックアップする。

番組のコンセプトは、「1億3000万人から賢人・林修へ抜き打ちテストし、知らなかったものを“初耳学”に認定する」。4年前のスタートから雑学番組として認知されていたが、昨秋からドキュメント企画がスタートするなど大幅な変化を見せている。

次回の放送では、現在のメイン企画である「アンミカ先生が教えるパリコレ学」がクライマックスを迎えるだけに、変化の意味を検証していきたい。

  • 『林先生が驚く初耳学!』大政絢(左)と林修 (C)MBS

日曜22時の番組は仕掛けが早い

オープニングのコーナーは、もちろん「パリコレ学」。「ついに1人が決まる! アンミカが選んだのはあの学院生だった! これは世界のトップモデルしか立つことが許されない“夢のファッションショー”パリコレクションを目指す物語」というナレーションと、スリリングなBGMが緊張感を高める。日曜22時という翌日の仕事や学校が気になる時間だからか、出し惜しみせず仕掛けが早い。

前回の放送で9人から4人にまで絞られていたが、いきなり1人目の“卒業者”が発表される。穏やかな笑みで生徒を称えるアンミカ、大粒の涙で感謝の弁を述べる生徒、温かいメッセージを託した冨永愛やレスリー・キーら特別講師たち。

3者の言葉に迷いがなく確信に満ちていたのは、いずれも本気で挑んでいたからか。また、それらのフレーズに合わせて、「別人のような過去の姿」「容赦なく突きつけられた酷評」「必死に涙をこらえる表情」「成長した自信あふれる佇まい」などを映し出す演出が、視聴者を感動に誘っていた。「ドキュメント性が高ければ、感動に誘導するようなベタな演出も心地いい」という好例だろう。

ただ1人選ばれた17歳の小野寺南友さんは、「小野寺南友として確立したモデルになるように努力します」と力強く宣言。一方のアンミカは、「あくまで私は推薦するだけで、オーディションに勝ち抜いてパリコレのステージに上がれるかどうかは南友ちゃん次第です」とエールを送った。次週からは、小野寺さんがパリで奮闘する様子を放送するという。

次のコーナーは、「銀シャリの有名企業キャッチコピー請負人」。Yahoo!ニュースに掲載される見出し作りに挑戦するという。見出しに「!」を使わないなどの雑学を紹介したあと、スタジオでは林修が黒板を使って「ノーバン始球式」という見出しを解説し、さらにゲストたちも見出し作りに挑戦した。

これらのくだりが終わってようやく「インターネットが原因でバニラが高騰しているのはなぜ?」と出題され、林修はどや顔で正解。ただ、Yahoo!とは関係のない問題であり、後付けの感は否めない。

続くコーナー「澤部の初耳ピーポー」では、東京大学の最難関である理IIIの1年生で、「ミス日本・海の日」に選ばれた高橋梨子さんの生まれ育った家庭環境をピックアップ。その後、「なぜウインナーは2個セットで販売しているのか?」という問題が唐突に差し込まれ、林修は答えられずに悔しがる姿を見せて番組は終わった。

約半分が「出題なしのドキュメント」だった

今回、「パリコレ学」の放送時間は約25分間。番組スタートから、約半分の放送時間を費やしたことになる。ちなみに前回の「パリコレ学」も約25分間。さらに前々回は「パリコレ学」が約16分間で、新コーナーの「絶対キー局!吉川美代子先生の女子アナ学」が約20分間で、計36分をドキュメント企画に費やした。

冒頭に挙げた通り番組のコンセプトは、「1億3000万人から賢人・林修へ抜き打ちテストし、知らなかったものを“初耳学”に認定する」というもの。しかし、「パリコレ学」のようなドキュメント企画に、林修への出題はない。昨秋スタートの「パリコレ学」に続いて、2月に「女子アナ学」がはじまったことで、“林修への出題離れ”の流れは加速している。

ただ、番組に漂う温かいムードは、まったく変わっていない。スタジオのゲストたちは映像を見ながら「キレイ」「スゴイ」「変わった」「トリハダ立った」などと学院生たちを応援し、そもそも“脱落”ではなく“卒業”というフレーズを選んでいる。撮影終了直後に、娘「支えてくれてありがとう」、母「頑張った、頑張った」と言葉を交わすシーンを入れたことも、当番組の温かいムードを象徴していた。

その意味で思い出されるのは、同じTBS系のドキュメントバラエティで一世を風靡した『ガチンコ!』。実際ネット上では「『ガチンコ!』に似ている」という声は多いが、過激さを売りにしていた同番組とは明らかに異なる。「パリコレ学」で最後に残っていたのが15歳、17歳、17歳、20歳とみずみずしさであふれ、なおかつ品があったことが、何よりの差別化だ。

番組全体に温かいムードがある分、講師がどれだけ厳しい言葉を浴びせても、『ガチンコ!』ほどのシリアスさは醸し出せないだろう。しかし、「ひいきの人を作って応援する」「誰が残るか予想して楽しむ」というドキュメントバラエティの醍醐味はしっかり味わえる。

何より、現在ドキュメントバラエティで最もやってはいけない、“やらせ”への疑念が少ないことは評価されてしかるべきだろう。

今、『チコちゃん』との勝負は避けるべき

それでも、当番組がこのままずっと「ドキュメントバラエティを前面に押し出していく」かは分からない。もし“林修と雑学”というコンセプトを手放すのなら、「無理して共存させようとせず、ドキュメントバラエティの新番組を立ち上げればいい」からだ。

長い期間放送していれば当然、視聴者の志向は変わり、番組として提供すべきものも変わってくる。「今は雑学のパートを減らしつつ残し、またニーズが高まったら増やしていこう」という戦略があっても何ら不思議ではない。

雑学をテーマにしたバラエティは、各局がこぞって新番組を立ち上げた一時のブームが収まり、明らかに視聴者から飽きられている。その傾向を決定づけたのが、昨春スタートの『チコちゃんに叱られる!』(NHK)。まさに一人勝ちの状態で、他の雑学バラエティを“その他大勢”に追いやってしまった。

つまり、「林修のライバルはチコちゃん」であり、しかも金曜夜と土曜朝(再放送)という放送日の近さも含め、かなりの強敵。4年間、雑学にフィーチャーし続けてきた勤続疲労も含め、「しばらくは真っ向勝負を避ける」のが賢明かもしれない。

ともあれ「パリコレ学」は、ネット上の動きで日曜夜のトップクラスであり、まずは成功と言えるのではないか。制作費や就業時間などの問題で、バラエティに限らず中・長期密着型のドキュメントが難しくなっているだけに、まずは第2弾の「女子アナ学」が成功し、さらに、緊張感と温かさを併せ持つ第3弾、第4弾の企画に期待したい。

次の“贔屓”は…新星の誕生と審査員のコメントに注目『R-1ぐらんぷり2019』

『R-1ぐらんぷり』決勝進出者 (C)カンテレ

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、10日に生放送されるカンテレ・フジテレビ系特番『R-1ぐらんぷり』(19:00~21:00)。

「一人芸のチャンピオンを決める大会」としてスタートしたのは2002年10月。今年で17回目を迎えるが、近年は「優勝してもブレイクしない」なんて不名誉な声もあるが、はたして今回はどうなのか。

決勝進出者は、チョコレートプラネット 松尾、クロスバー直撃 前野悠介、こがけん、セルライトスパ 大須賀、おいでやす小田、霜降り明星 粗品、ルシファー吉岡、だーりんず 松本りんす、河邑ミク、三浦マイルドの10人に、復活ステージを勝ち上がった2人を加えた12人。復活ステージの中には無名芸人たちに混じって、チョコレートプラネット 長田、霜降り明星 せいやの名前もあり、“相方とのコンビ対決”の可能性もある。

当コラムでは、ネタの質ではなく、生放送のコンテスト番組そのものや、『M-1グランプリ』(ABCテレビ・テレビ朝日系)で物議を醸した審査員のコメントなどにフィーチャーしていきたい。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。