テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第34回は、24日に放送された『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系、毎週金曜24:20~)をピックアップする。

『タモリ倶楽部』は、1982年10月9日の放送開始から約36年の歴史を持つ文句なしの長寿番組。同じ1982年10月スタートの『笑っていいとも!』(フジテレビ)が2014年3月で終了したあと、タモリと視聴者をつなぐ番組としての重要度が増した感がある。

今回の放送は、「実はタモリ倶楽部とほぼ同い年! ありがとう盛運亭! 祝35周年記念パーティー」。長年通い続けているほか、「空耳アワー」ロケ地としても世話になっているラーメン店の35周年をタモリはどう祝うのか? ローテンションの中に潜む本音と長寿の秘けつを探っていきたい。

微妙な空気も気にせず薄ら笑いのタモリ

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タモリ

この日の出演者は、タモリ(73歳)、ガダルカナル・タカ(61歳)、石井一久(44歳)の常連3人と、盛運亭の出山行男社長(67歳)、ベテラン店員・佐々木武美さん(72歳)の5人のみ。平均年齢63.4歳という「おじいちゃん番組」と化していた。

それを意識してか、タモリはタカのタキシード姿を見て、「何なの? どうしたの? 何の日なの?」とトボける。タカ「ご存じないんですか?」、タモリ「知らないよ」、タカ「盛運亭さんが35周年なんです」、タモリ「あっ、そうなの?」。オープニングから、おじいちゃんのようなボケをかまし、脱力感を誘った。

続くナレーションでは、「愛想がいいとは決して言えないご主人が営む、セレブタウン(南麻布)には似つかわしくない昔ながらのラーメン店です」と下げつつ、「しかし、そのラーメンは素朴な味わいながら、タモリも愛する独特な魅力を持つ一杯。さらに、「空耳アワー」のロケ地としてもたびたびお世話になっている当番組とも関わり合いの深いスポットなのです」と持ち上げる。小バカにしたいのか、小ホメしたいのか、どちらとも取れるテイストが、この番組らしい。

「1983年3月の開業で番組とほぼ同い年」という縁もあり、タモリの音頭で乾杯。さっそく名物のラーメン650円が振る舞われるが、タモリのみ「めんまもやしねぎ多め」の特別メニューだった。好きな料理を食べるときのタモリは、いつも以上に口数が少ない。口元だけをゆるめて、「うまい」「いいね」だけを発するから、余計においしさが伝わってくる。

ちなみにラーメンは、濃い目でしっかりしたしょうゆ味のスープと中細麺のオーソドックスな味わい。チャーシューはラードとゴマ油で揚げたあとに数時間煮込み、その脂がスープにコクと深みを与えているという。

ただ、ラーメンを食べた石井は、「『おいしい!』って声をあげるより、下の方で『(小声で)おいしい』っていう……派手さはないけどいい味というか」と微妙なコメント。スタッフがゲストの発言を誘導しないため、微妙な空気になることも多いが、それをまったく気にせず薄笑いを浮かべるタモリにつられて、こちらも笑ってしまう。

さらに、タモリが「ここはうまいんだけど、夏が暑くて冬が寒いんだよね」とケチをつけると、出山社長は「(クーラーは)2台ついてますけどね。まあ、私が調理場で暑いから、お客さんの立場がよくわかんないんでね」と真顔でボソリ……で一同爆笑。タモリが「だいたい冬はコート着てラーメン食べてる。ここのドアが開けっぱなしだから、ものすごい風が入ってくる」と続けると、出山社長は「閉めたり明けたり面倒くさいんだよね」で、また爆笑。互いに遠慮がないのは、両者の間に「強い、弱い」のパワーバランスがないからだろう。それが心地いい。

『タモリ倶楽部』ほど、タモリが“大御所”ではなく、1人の人間あることを感じる番組はない。毎週のゲストが喜々としてタモリに話しかける姿は学生のノリに近く、ラーメン店の社長や店員と話す姿も長年の友人関係を彷彿(ほうふつ)させる。

ゆるさだけで勝負していない

続いて、お祝いコメントで松たか子がVTR出演。「2011年の空耳アワードで盛運亭を知って以来、足を運んでいる」という松は、「気取ったところが一切ないので、私も行ってラクな店。日常の幸せがそこにあります」「ひたすらにやり続けることの強さを勝手に学んでいます。娘が生まれましたので連れて行きたい」と絶賛する。

しかし、店内に飾られた松のサイン色紙は目立たない場所に飾られ、字が薄く細いものだった。つまり、店がサインをお願いしたにも関わらず、細くてインクの薄いペンを渡してしまったのだ。ほぼ同い年だけあって、この店の脱力感は『タモリ倶楽部』に負けていない。

次に、ラーメン以外の人気メニューランキングを発表。5位タンメン750円、4位炒飯650円、3位チャーシューメン850円、2位辛ねぎチャーシューメン900円、1位豚生姜焼き定食880円。特に盛り上げようとせずランキングは淡々と終了。話題を「1年以上販売中止にしている」という鳥なんこつとねぎのこりこり焼き定食880円に移す。

「一夜限りの復活」をしてもらうくだりは、いかにもバラエティ的だが、そこは『タモリ倶楽部』。初めて食べたタモリの「最高だよ、これ」、石井の「すごいおいしい」という称賛の声を打ち消すように、社長が「テレビ出ると(これからメニューとして)やらなきゃいけない感じになる」とやる気のないコメントで笑わせた。さらに、「復活したかどうかはご自身でお確かめください」という適当なナレーションが、この番組の真骨頂と言える。

その後、店の歴史をひも解く「あなたの知らない盛運亭ヒストリー」を経て、話題は「空耳アワー」へ。これまで盛運亭で撮影した14本が放送されたほか、「撮ったけど放送しなかった」ものもあるらしい。ここで、2008年10月24日に放送され、番組ジャンパーを獲得したマイケル・ボルトン「我が心のジョージア」の「餃子 水餃子 のりたま」というフレーズが再現された。

ただ、タモリは店に置かれたふりかけを手に取り、「のりたまではなく、瀬戸風味なんだよね」と指摘。「これうまいんですよ。1回見ただけで売ってなくて。これどこで見つけたんですか?」と尋ねられた社長は「近所のスーパーかな」とつれない返事で、一同また爆笑。たまたま見つけて以来、25年店に置いている広島のメーカー・三島食品製のふりかけで、社長は「ケチったと思われるのは嫌だからやめない」らしい。

社長は終始、無表情だったが、最後に「ジャンパーが何とかほしいんですが…」とおねだり。さらに店の壁に直筆で、タモリが「特製ラーメン」、石井が「八五〇円」とメニュー名を書いて終了。社長は思わずガッツポーズをとり、ラストカットでようやく笑顔を見せた。

一見、コミュニティチャンネルのような地元店リポートのゆるゆる企画だが、小コーナーと小ネタの多さは、さすが深夜の名番組。「ゆるさばかりで、ここを怠ると飽きられてしまう」ことを強く意識しているのではないか。

毎週タモリと楽しむ「大人の遠足」

もちろん「空耳アワー」の新作も2本放送されたのだが、フレーズだけを紹介すると「手足8本なの」「葬式は短けーな」という「何のこっちゃ」な領域。解説も余韻もなくサッと終わらせるところに、当コーナーの「お口直しにどうぞ」という役割を感じた。

お尻の横揺れではじまって、お尻の横揺れで終わる構成。「毎度おなじみ、流浪の番組『タモリ倶楽部』でございます」のフレーズ。MCらしいことをしないタモリ。「それぞれどんな意味があるのかな?」と考えてみたが、すぐに「意味なんていらないでしょ」「意味なんて欲しいの?」と言っているタモリの姿が頭に浮かんだ。

「どこへ行っても楽しいところくらい、何かしらあるよ」。そんなテンションだから、毎週どこでロケをしていても“大人の遠足”というムードを感じるのかもしれない。前述した通り、タモリは大御所の立場ではなく、1人の人間として振る舞っている。この番組を見て嫌悪感を抱く人がほとんどいないのは、タモリがどんな人や物にも、1人の人間としてリスペクトしているからではないか。

時代がどんなに変わっても、タモリが元気な限り続いていくだろう。しかし、現在すでに“テレビ遺産”的な存在となっていることがスゴイ。

次の“贔屓”は…動物番組のトップランナーであり絶対王者『志村どうぶつ園』

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志村けん

今週後半放送の番組からピックアップする"贔屓"は、9月1日に放送される『天才!志村どうぶつ園』(日本テレビ系、毎週土曜19:00~)。2004年4月の放送開始から14年を超えてなおトップに君臨。現在もチンパンジーのプリンちゃん、日本一客が来ない動物園、絶滅ゼロ部など、癒しと感動、エンタメと教養のバランスに長けた企画がそろっている。

今秋も、動物番組の需要と競争に動きがありそうだけに、このタイミングで絶対王者の現状をチェックしておきたい。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。