テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第33回は、17日に放送された『金曜★ロンドンハーツ』(テレビ朝日系、毎週金曜21:00~)をピックアップする。

同番組は1999年の番組スタートから今年で20年目を迎える長寿バラエティ。芸人にクローズアップする形に切り換えてから、「The Bl@ck Mail」「格付けしあう女たち」「50TA(狩野英孝)」シリーズなどのヒット企画を連発しつつ、「子供に見せたくない番組」アンケートで8年連続1位という、ある意味で名誉な記録を持っている。

今回の企画は、「子供に大ウケ-1グランプリ団体戦 イマ旬芸人代表vsチョイ前芸人代表」。現在ブレイク中の芸人と、ちょっと前にブレイクした芸人が、YouTuber世代の小学1・2年生100人を相手にネタバトルをするという。イマ旬芸人チームには、千鳥、くっきー&ガリットチュウ福島、ひょっこりはん、チョコレートプラネット。対するチョイ前芸人チームには、平野ノラ、トレンディエンジェル、サンシャイン池崎、そして世界のナベアツが10年ぶりに復活した。

「なぜ審査員がちびっ子?」という点では、子どもたちが芸人以上に企画の成否を握るのではないか。近年は低視聴率が取りざたされ、打ち切り説も飛び交っていたが、『ロンハー』らしい笑いが期待できそうだ。

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    『金曜★ロンドンハーツ』ロンドンブーツ1号2号の田村淳(左)と田村亮 (C)テレビ朝日

本命・ひょっこりはんへの思わぬ酷評

オープニングのナレーションは、「今夜の『金曜★ロンハー』は時代を超越したお笑いネタバトル」。続いて、つまらなそうな顔の子どもたちが、「全然笑えなかった」「見飽きちゃった」とこぼす映像が流される。さらに、テロップには、「ネット世代の小学生たち―」「―大人には予測不能の結末」。これらは週替わり企画の番組なら当然の演出だが、さりげなく“今日の笑いどころ”を刷り込む流れは、「さすがロンハー」と思わせる。

ネタバトルのトップバッターは、世界のナベアツ。おバカさに懐かしさが加わり、その顔を見るだけで笑ってしまったが、いわゆる“飛び道具枠”をトップに起用し、最後を安定感のある千鳥で締める構成は盤石だ。ところが「3でアホになる」ネタは半数の子どもにしか理解してもらえず、女児から「最初から全ての数字でアホになってほしい」という珍アドバイスを食らってしまう。

続いてチョコレートプラネットがIKKOと和泉元彌のモノマネを披露。しかし、IKKOは本人と間違われ、和泉元彌はメインギャグの「そろり、そろり」を全否定されてしまった。

「子どもたちの本命」と見られていた、ひょっこりはんは、登場するなり大歓声。いつものネタで、この日の最高得点を叩き出した反面、「ふざけてた」「ティッシュや新聞を無駄に使ってた」という酷評も…。子どもたちの声は、まるで視聴者からのクレームであり、芸人たちの姿は、それに抗おうとふざけ、無駄を繰り返す『ロンハー』のように見えた。

ここまで見て気付かされたのは、あおりVTRや舞台裏カメラなどの巧みさ。企画や芸人のおバカさに目を奪われがちだが、映像の作り込みは職人芸の域であり、他局のスタッフには『ロンハー』を教材のように見ている人もいるという。

個人プレーと団体プレーのバランス

その後、トレンディエンジェルがハゲ漫才を披露すると、女児が「2人ともブスだし気持ち悪かった」とバッサリ。しかし、舞台からハケようとしたとき、子どもたちから「(スベってたけど)まだ続けてね」と励ましの声をかけられてしまい、2人は打ちひしがれる。こんな2段オチでの追い込みは、どこまでも芸人をイジろうとする『ロンハー』らしい。

イジリという意味では、白塗り顔で登場したくっきー&福島への「面白くないんだけど、かわいいから面白い」というコメントも笑いを誘っていた。一方、サンシャイン池崎には「大声でいい声が出た」「いっぱい見たし、見飽きちゃった」というストレートなイジリに回帰。ともに、芸人が「笑わせる」のではなく「笑われる」姿にこだわった番組スタイルは、賛否はあれど、まったく変わっていない。

さらに、番組のイジリは、芸人だけに留まらず。平野ノラがネタに絡めて「ジャンボ尾崎に似ている」と言った男児を勝手に「ジャンボ」と名付けて全員でイジリはじめたのだ。しかし、ジャンボの採点は厳しく、どの芸人も「面白くない」ばかりで、一番面白かったのは、よりによって番組ADの前説だった(ちなみに、そのネタはオジンオズボーン・篠宮暁の持ちギャグ「ハッシュタグのぞき~」)。

この瞬間で、イマ旬芸人代表vsチョイ前芸人代表のバトルは、どうでもいいものになってしまった…というより、最初からどうでもいいのだろう。そもそも当番組は、各芸人の個人プレーであると同時に、全芸人の団体プレーでもあり、そのバランス感覚は絶妙。台本や演出で芸人をがんじがらめにする番組が多い中、芸人の力に信頼を寄せたバラエティは、今や貴重と言うほかない。

かつての過激さを一手に担う深夜版

その意味で、芸人の底力に、子どもの率直力が加わった今回の企画が面白いのは当然かもしれない。両者が見せた笑いは一見“お約束”のように感じるが、実際は視聴者の想像を上回るリアルな笑いだった。

ただ、芸人の扱いは、過去に放送された「子供に大ウケ-1GP」よりも、イマ旬とチョイ前のバトル形式にした今回のほうがマイルド。芸人が「スベらされる」「笑われてしまう」の割合は少なく、悪びれて毒づく姿を見せないなど、終始温かいムードが漂っていた。

世相と視聴者嗜好の変化、クレーム抑制、自主規制、コンプライアンス対策…バラエティにさまざまな現実が突きつけられる中、視聴者たちはこのような『ロンハー』を見て、「丸くなった」と感じているのではないか。

事実、この3カ月間で放送されたのは、「嫁の地雷ふんでますよ!!わかってないダンナGP」「大久保佳代子47歳・独身の部屋を模様替えしよう!!」「千鳥バブル到来! 緊急・ウラで色々しらべました!!」「ロンハー水泳2018」「自腹で一掃!!狩野のダメ部屋を大改造」。来週も、「みやぞんのドッキリサイクリング」という癒やし系企画であり、かつての過激さは影を潜め、ゆるい笑いが定着しつつある。

それだけに、時折23時台で放送されている『深夜でロンドンハーツ!』がまぶしく見える視聴者は少なくないだろう。昨年3月の「抱きたい女-1GP団体戦」「芸人ダメリサーチ」、昨年10月の「スタッフ166人が現場で感じた嫌われ系芸人リアル好感度GP」には、かつての『ロンハー』を思わせる、やりすぎと紙一重の強烈な笑いがあったからだ。

今年も『深夜でロンドンハーツ!』は今月放送されたばかりだが、視聴者の反応は上々。メイン企画の「限界検証ドッキリ」では、ゆりやんレトリィバァの持ちネタであり、露出度の高い“アメリカ国旗水着”を尼神インター・誠子、おかずクラブ・オカリナ、ガンバレルーヤ・よしこ、元サッカー女子日本代表・丸山桂里奈に着させて爆笑を誘っていた。

私自身は「このくらいならゴールデンタイムでも大丈夫では?」と感じたが、残念ながらネット上には「悪ふざけ」「セクハラ」などの批判も挙がっていた。この先『ロンハー』は、現在の枠と内容で放送し続けるのか? 『深夜ロンハー』に枠移動するのか? それとも特番枠に縮小してしまうのか?

「番組自体、今のテレビや視聴者に合っているのか?」なんて上層部の苦言が聞こえてくるような逆風の中、「毒にも薬にもならぬ」ならぬ「毒にしかならぬ」とまで言われたゲスさの再来を期待するのは酷かもしれない。そんな苦しさを抱えながらも、数少ないど真ん中の“芸人バラエティ”として存在し続ける『ロンハー』は、クレーマーが思っているよりも、ずっと偉大な番組なのだ。

次の“贔屓”は…脱力系バラエティの先駆けであり最高峰『タモリ倶楽部』

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タモリ

今週後半放送の番組からピックアップする"贔屓"は、24日に放送される『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系、毎週金曜24:20~)。1982年10月9日の放送開始から、約36年の歴史を持つ文句なしの長寿番組。同じ1982年10月スタートの『笑っていいとも!』が2014年3月で終了したあと、タモリと視聴者をつなぐ番組としての重要度が増した感がある。

次回放送は、「実はタモリ倶楽部とほぼ同い年!ありがとう盛運亭! 祝35周年記念パーティー」。タモリが長年通い続けるほか、『空耳アワー』ロケ地としても世話になっているラーメン店の35周年を祝うというコミュニティチャンネルのような内容に脱力感を覚えてしまう。

タモリ流の祝福とは? 松たか子からのお祝いも! 盛運亭での空耳名作集など、見どころは多い。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。