テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第263回は、19日に放送されたカンテレ・フジテレビ系バラエティ特番『陣内バカリの最強ピンネタ20連発SP』(16:05~)をピックアップする。

陣内智則とバカリズムがMCを務めるピン芸人特番の第4弾。これまで2021年9月、22年2月、同10月の3回にわたって放送され、前回から2人の冠番組となっていた。

『M-1グランプリ2022』王者・ウエストランドの「R-1は夢がない」というネタが記憶に残る中、3月4日放送の『R-1グランプリ2023』を前にピン芸人の魅力を伝え、注目度を上げられたのか。

  • 陣内智則(左)とバカリズム

    陣内智則(左)とバカリズム

■番宣のムードを感じさせない演出

番組は、MCを務める陣内のネタ「神授業」からスタート。ネタが終わるとMC2人のトークが始まり、陣内が「ピン芸人を盛り上げようと……」と番組の狙いを語る。すると、バカリが「正直複雑。本当は若い芽は摘んでいきたい。『斬新なことやるな、斬新なことやるな』って」と話の腰を折り、陣内も「俺も『映像使うな、音使うなよ』と思いながらね」と呼応して笑いを誘った。

2番手は「1人コントの女王」友近。いきなりネタに入るのではなくインタビューから始め、YouTube動画などを絡めて「西尾一男」というネタの紹介をする丁寧な演出に感心させられる。しかも「テレビ初披露のネタ」であり、終了後に陣内とバカリの受けトークをしっかり放送したことも含め、ピン芸人へのリスペクトが随所に感じられた。

3番手は「絶叫系ピン芸人」おいでやす小田で、「ブレイクしてウケ方が変わった」という『R-1ぐらんぷり2019』のネタを披露。これを見たバカリは「新しい構造」と絶賛した。当時の『R-1』ではファーストステージ敗退だったが、もし小田のキャラクターが認知されてから披露されていたら王者になれたのかもしれない。

4番手は「2021年 R-1王者」ゆりやんレトリィバァの「エアハムスターショー」で、ネタの終了後、初めて3月4日放送の『R-1グランプリ2023』の番宣が入る。しかし、ファイナリストを映した映像はわずか5秒程度で終わり、「そんな『R-1』ではコンビ芸人のみならず、さまざまなコンビ芸人たちがピン芸を作って挑んできました」というナレーションに切り替わった。

番宣の要素を求められる特番ながら、限りなくそのムードを感じさせない演出に、カンテレの矜持を感じさせられる。

■ウエストランド・井口の毒舌ピン芸

続いて始まったのは、「超貴重! 人気コンビ芸人の最強ピンネタ」。純粋なピン芸人ではなく、コンビ芸人のピン芸にスポットを当てるコーナーだが、「『R-1グランプリ』が賛否を集める1つの理由」となっているところとも言える。

「今や朝の顔! 低音ボイスで聴かせる激レア漫談」麒麟・川島明(2010年決勝)、「売れっ子芸人が送る手作り小道具コント!」チョコレートプラネット・長田庄平(2018年決勝)、「R-1&M-1史上初の二冠! 伝説のツッコミフリップ芸」霜降り明星・粗品(2019年決勝)、「ブサイク王子が送る! ブレイク前の超自虐ネタ!」アインシュタイン・いなだなおき(2012年決勝)、「R-1キッカケで大ブレイク! 伝説のアタックチャンス」博多華丸・大吉 博多華丸(2006年決勝)、「M-1王者の原点がここに!? 超貴重な毒舌漫談!」ウエストランド・井口浩之(2020年準決勝)。

6本が立て続けに披露されたが、「もう少し見たい」と感じてしまうほどそれぞれの尺は短かった。これは「現在の人気者に頼ったアーカイブのコーナーを長々と放送するのはよくないのではないか」という作り手のプライドなのだろうか。

ただ井口のネタは、バカリが「面白い。基本変わってないですよね。あれに“クイズ”というシステムを乗っけただけで」とコメントしていたように、『M-1グランプリ2022』のネタそのもので見応えがあった。準決勝で敗退したのは2年ほど時代が早すぎたのか、それとも審査員の問題なのか分からないが、このネタは現在の視聴者ニーズを考えるとフルで見せてよかったのかもしれない。

続いて元の構成に戻り、11番手として「国民的地元のツレ」ヒコロヒーが登場。「他番組では放送NGだったコンプライアンスギリギリのネタ」として、自殺をほのめかしてほめられたがる女のコントを披露した。

12番手は「2022年R-1王者」お見送り芸人しんいちが登場。「半年前から温めてきた」という漫才師へのリスペクトを前面に押し出した歌ネタを披露した。しかし、そのネタは陣内に「何を言うてんねん」、バカリに「何も変わってねえじゃねえか」とツッコまれるものであり、最後はR-1トロフィーを抱えたしんいちが登場して笑わせた。