テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第232回は、9日に放送されたテレビ東京系特番『この世は【ご報告】であふれてる!?』(23:00~)をピックアップする。

「近年SNSで爆発的に発信されているワード【ご報告】を検索して追いかけてみると人生の転機に出会えた!」というコンセプトの特番で、これまで昨年7月24日、今年1月2日、7日2日の3度放送されていた。

ちょうど1週間前の放送では、「35歳のクイズ好き男性が人生初デート」「全部自作で作った鉄道の一般公開日」に密着。『家、ついて行ってイイですか?』などに続く、テレ東の新たな一般人密着ドキュメントバラエティとしてレギュラー化の可能性を秘めているのか。

  • (左から)『この世は【ご報告】であふれてる!?』MCの高橋ひかる、ハライチ

    (左から)『この世は【ご報告】であふれてる!?』MCの高橋ひかる、ハライチ

■休学して全国を旅する女子大生

オープニングで、「有吉弘行さんからのご報告 夏目三久さんと結婚しました」「滝沢カレン 一般男性と結婚」「内村航平 現役引退」「BiSH解散」「星野源&新垣結衣 結婚」「武尊 一時休養」と近年の代表的な“ご報告”をピックアップ。さらに、ナレーションで「近年、世間をさわがすご報告がたくさん。今、SNSを通して世の中にご報告をすることが新たな文化に。芸能人も一般人もご報告しまくるこの時代。ご報告を追いかけてみるとそこには……想像を超える人間ドラマが待っていた」という番組コンセプトを説明した。

この時点では、芸能人と一般人のどちらもフィーチャーする番組なのか。あるいはどちらかなのかは分からない。ただ、民放他局なら前者の可能性も高そうだが、テレ東なら後者である可能性は高そうだ。

スタジオにMCのハライチ・澤部佑と岩井勇気、高橋ひかる、ゲストのなにわ男子・大西流星が登場し、壁に貼られた「ご報告」というワードで検索したツイートを眺めている。その中から最初にピックアップされたのは、「21歳の女子大生・安西さんが大学を退学して軽トラで日本をめぐる」というご報告。安西さんはスタッフとの待ち合わせ場所に「35万円で購入した」という軽トラで現れた。

結局、「指定校推薦で入ったので辞めると高校に迷惑がかかる」から退学ではなく休学にしたようだが、祖父が高級家具を販売する会社の経営者で、小学校から一貫教育の学校に通った超お嬢さまであることが発覚。4月に東京の家を引き払ってから、軽トラックで東北、北陸、鳥取と全国を転々としているという。

現在は農業を学ぶため和歌山県に滞在しているが、寝食は軽トラ。湧き水をペットボトルにためてそのまま飲み、川で入浴と洗濯してシャンプーも洗剤も使わず、猟師に同行して捕らえた鹿を自らさばくなどワイルドな姿を見せていく。

そんな女子大生とは思えない生活をする理由を「お嬢さま育ちだから何も知らないで育って、いろいろな人に会いたいので始めた」「どういう人が肉をさばいているとか、知ることに重きを置いている」と語る安西さん。元お嬢さまとは思えないぶっ飛んだキャラであり、ならば『家、ついて行ってイイですか?』のようにもっともっと掘り下げてほしいと感じてしまった。

■酔って漏らした本音にテレ東らしさ

その後、お酒を飲み始めた安西さんは恋人がずっといないことを打ち明け、「ほしいっちゃほしいけど。憧れますね。でも今は必要ないかな……めっちゃほしいな。本当はめっちゃほしい」とぶっちゃける。さらに、「2年片想いしていた男性に振られた」「吹っ切れてこの旅を始めたのかもしれない」という新たなエピソードも明かした。

これは、安西さんを視聴者にとって“縁遠いぶっ飛んだキャラ”で終わらせず、“親近感を抱かせる普通の女子大生”という姿を引き出した制作サイドのファインプレーだろう。このシーンを撮れるまで粘って取材していたことが推察され、このあたりの制作姿勢はテレ東らしい。

最後に、今後の夢を聞かれた安西さんは「社会に出る前に『とりあえず日本のことを知っておかなきゃまずいな』という危機感があったので、それで旅を始めて。自分なりの考えを持てる人間になりたいですね」「最終目標はアラスカ。バカでかい自然を見て自分の小ささを知りたい」と語った。

さらに、「学校では教わらないことを旅先ではいろいろな出会いによって知れるので、めちゃめちゃ楽しいです」とコメント。「ご報告を追いかけたら、学校では学べない未知の世界を追う21歳に出会えました」というナレーションでキレイに締めくくられた。

VTRが終わると、スタジオの大西が「これ、めちゃくちゃ面白いですね。ちょっとしたしょうもなさそうなツイートでも、めちゃくちゃ広がっていって、その内容だけじゃなくて、よりその人を深掘りできるような……。(安西さんに)会ってみたいな」とコメント。このコメントをまるごと使ったということは、制作サイドが「まさにそういう番組なんです」と言っているようなものだろう。