テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第120回は、5月3日に放送されたフジテレビ系スポーツバラエティ特番『緊急生中継!中居正広のスポーツ珍プレー好プレー みんなで生サプライズを起こしましょうSP』をピックアップする。

単なる「中居正広MCのスポーツ珍プレー好プレー番組か」と思うことなかれ。中居が都内某所から緊急生中継を行う上に、連動データ放送で“ある視聴者参加企画”を進行させるという。さらにその視聴者参加企画には、ある目標を達成したら実行されるサプライズも。

現在、ネット上で新たな発信ができるお笑いや音楽と比べてもスポーツは厳しい状況が続いているだけに、寂しい思いをしているフリークたちにその魅力を感じさせたいところ。レジェンドアスリートのリモート出演はあるのか? どんなサプライズが用意されているのか?

  • 『中居正広のスポーツ珍プレー好プレー』を放送したフジテレビ

■中居が笑いを取りにいかない理由

オープニングショットは、何と中居正広の顔面アップ。ここまで近距離で中居の顔を見たことがない上に近い分、収録放送にはない緊張感が伝わってきた。中居は「都内某所から生中継」「みんなで輪になれば楽しいサプライズが起きる」の2点を発表したあと、VTR振りで「スタート! ウッ!!」と笑顔で声を張るなど、ふだん以上に明るさを振りまいている。

番組は一般人への緊急アンケートをもとに作られた“元気をくれる大逆転名場面”をランキング形式で発表。さらに「元気ですか~? プロジェクト」と題して視聴者がdボタンをプッシュした回数を「元気ダァー」に数値化し、1,000万を超えると生サプライズを発生させるという。つまり、「日本中の人々が1つにまとまって、元気になりましょう」と言いたいのだろう。

発表されたランキングは下記の通り。

第10位 14年 高校野球石川大会 星稜高 2,010P
第9位 90年 オグリキャップ 引退レース 2,300P
第8位 96年 巨人軍 メークドラマ達成! 2,340P
第7位 97年 ジョホールバルの歓喜 3,110P
第6位 16年 リオ五輪 内村航平 逆転の着地 4,690p
第5位 98年 長野五輪 スキージャンプ団体 4,840p
第4位 15年 ラグビーW杯 南アフリカ戦 5,360p
第3位 09年 WBCイチローの決勝打 6,520P
第2位 11年 なでしこジャパンW杯優勝 ポイント未発表
第1位 12年 羽生結弦 当時17歳の伝説演技 7,750P

ネット上に「なぜこれが1位?」という声があがっていたように、それぞれの順位、各競技のバランスが良すぎること、巨人ファンの中居に気をつかったのか最初の発表が8位だったことなど、首をひねりたくなるところが散見されたのは間違いない。

しかし、それすらカバーできてしまうのがスポーツ名場面の力。ランキング番外編の中にも、「ゴルフの石川遼が18歳時に6打差を大逆転優勝」「ボクシングの薬師寺保栄vs辰吉丈一郎」「バドミントンの高橋礼華・松友美佐紀組がリオ五輪で逆転金メダル」「巨人の谷佳知が同い年の亡き友・木村拓也に捧げる代打逆転満塁ホームラン」など、懐かしさと感動を呼ぶシーンの連続だった。

なかでも目を引いたのは、谷佳知がヒーローインタビューで涙ぐむシーンを見た中居が涙をグッとこらえていたこと。スポーツやアスリートに関わるときの中居は、「自分が主役ではない」「目立ってはいけない」とばかりに抑制された進行に徹している。実際、この日は笑いを取りに行くシーンがほとんどなかった。

■グダグダの失敗も正直に見せる好判断

ただ制作サイドとしたら、中居の存在感もしっかり出してもらわなければ、「ただのスポーツ総集編」になってしまうところ。だからこそ画面左上に、ほぼ中居専用のワイプを置き、「緊急生中継!」のテロップを添えていた。この番組は「生放送」「中居正広の特番」であることが重要なのだろう。実際その中居は、新型コロナウイルスで闘病中の梨田昌孝に「梨田さん見てるかな。これ見て元気になってほしいと思います」とエールを送るなど、生放送らしいトークも忘れなかった。

そして、繰り返しあおっていた「元気ですか~? プロジェクト」だが、開始40分で目標の1,000万をクリアしてしまい、急きょ1億3,000万に上方修正。ところが最終的に9,300万台で終わり、達成できずに終了してしまった。いかにも急造番組らしい想定数値の検証不足だが、「たとえグダグダになってもガチンコでやる」という正直さを採った判断は間違っていないだろう。

サポート役をしていたアンタッチャブルから「残念でございますが、せっかくですのでサプライズやりましょう」とうながされた中居が背後の扉を開いてボタンを押すと、七色にライトアップされた東京タワーが登場。中居は東京タワー間近のビルから中継をしていたこと、そのライトアップは「希望の七色」を表していること、フジテレビ社屋も同じ七色でライトアップしたことを明かした。正直、「なぜライトアップがサプライズなのか?」は理解不能であり、企画を練り上げる時間がなかったのだろうか。

一方、メインのスポーツ名場面は、「元気をくれる証言者」として武豊、中山雅史、内村航平、谷佳知、原辰徳らスターから、コーチやスコアラーまで、幅広い人材のコメントを盛り込み、なかにはあまり語られていないものあって見ごたえ十分だった。

さらに演出面では、ネットで話題の「黒板アーティスト」「チョコレートアーティスト」を起用したり、BGMに「アスリートが聴きたい元気ソング」を使用して画面右下に歌手名と曲名を表示したり、画面下部に「#私の逆転劇」で視聴者がツイートしたコメントを表示したりなど、アスリートと視聴者をつなぐ工夫が随所に見られた。

■アスリートのコメントをまとめた意義

3時間番組のラストを飾ったのは、さまざまなスポーツの名シーンとアスリートのショートコメントを織り交ぜた映像。「あらゆる競技を小刻みに見せながら、アスリートがネット上で発信しているメッセージを盛り込む」という演出で、アスリートの力強さを感じさせるクライマックスとなっていた。

メッセージを発信していたのは、スピードスケートの高木菜那・美帆姉妹、サッカーの長友佑都、カヌー・スラロームの羽根田卓也、フィギュアスケートの羽生結弦と宇野昌磨、ゴルフの有村智恵、スポーツクライミングの野口啓代、ラグビーのリーチマイケル、陸上の飯塚翔太、競泳の池江璃花子と大橋悠依、空手の清水希容、野球の大谷翔平、スピードスケートの小平奈緒、バレーボールの石川祐希と西田有志、ソフトボールの上野由岐子、陸上の寺田明日香、野球の松田宣浩、柳田悠岐、糸井嘉男、内川聖一、ラグビーの松島幸太朗、バドミントンの桃田賢斗、サッカーの香川真司、陸上のサニブラウン・アブデル・ハキーム。

コメントは一人一人がネット上で発信していたものだが、こうしてまとめて見やすい形で視聴者に提供することも、テレビ番組の新たな役割と言えるのかもしれない。これを見た中居は「スポーツいいですね」とコメントしただけで、やはり「主役はスポーツとアスリート」とばかりに自分は前に出ようとはしなかった。リスペクトがあるから黒子に徹しているのだろうし、それでも存在感があったのはさすがだ。

そもそも、スポーツの珍プレー好プレー番組はNPBやJリーグが終了した11~12月に放送されるものだけに、ゴールデンウイーク中のそれは季節外れ。それでも、スポーツコンテンツに飢えた人が多い今だからこそ放送の意義は感じられたし、黒子になり切れる中居がMCを務めることで、違和感を最小限に留められたのではないか。

今回の放送を見た上で1つ提案しておきたいのは、東京オリンピックが開幕するまでの1年あまり、スポーツ名勝負を見せる番組のレギュラー放送化。たとえば、裏番組との戦いで苦戦が続くフジの『日曜THEリアル!』は報道系企画を中心に放送しているが、「前番組の『ジャンクSPORTS』と合わせて、フジの日曜夜はスポーツコンテンツ」というくらい振り切る形が見てみたい。

「視聴率が獲れない」と斬り捨てられればそれまでだが、「暗さや重さが目立つ現在のラインナップより世間の支持を得られる」という見方もできる。「フジの日曜夜はスポーツ好きの個人視聴率獲得を目指し、それを支持するスポンサーを集めます」と宣言してもいいだろう。現在はスポーツイベントが開催されず、東京オリンピックすら危ぶまれているだけに、フジテレビがスポーツ好きの希望になれるチャンスなのかもしれない。

■次の“贔屓”は…「嫌いな女性芸能人1位」の理由は? 『アッコにおまかせ!』

和田アキ子

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、10日に放送されるTBS系バラエティ番組『アッコにおまかせ!』(毎週日曜11:45~)。

先日発表された『週刊女性』恒例の「嫌いな女性芸能人ランキング2020」で3度目の1位となった和田アキ子の冠番組。1985年から35年にわたって放送されている長寿番組であり、唯一のレギュラー番組でもある『アッコにおまかせ!』に理由が潜んでいるのではないか。

芸能ニュース中心の情報番組で、巨大パネルを使う…。土日にも朝から夜まで同類の番組が増えた上に、『NHKのど自慢』(NHK)、『ビートたけしのTVタックル』(テレビ朝日系)、『なりゆき街道旅』(フジ系)とターゲット層がかぶりそうな裏番組が多い中、老舗番組ならではの強みはどこにあるのか。一部で嫌われながらも放送され続ける秘けつを探っていきたい。

著者:木村隆志(きむら たかし)

コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。