本連載の第46回では「テレワークに加えて備えておくべきこと」と題し、突然の社員の戦線離脱にも対応できるよう備えるための3つのポイントをお伝えしました。本稿ではこのテレワークの環境を逆手にとって自分のスキルを高めよう、というお話をします。

  • 言語化能力を高めるチャンス

言語化能力を高めるチャンス

7都府県に緊急事態宣言が発出されてから3週間、全国に拡大されてから2週間が経過しました。テレワークに移行した当初は「通勤しなくて済むから楽になった」とか「誰からの干渉もなく自分のペースで仕事ができる」といった感じで肯定的に捉えていたものの、長期的な外出自粛も相まって疲労が蓄積していたり、モチベーションが下がってきたりして「早くテレワークから元の環境に戻ってほしい」と心情が変わった方も大勢いらっしゃるのではないでしょうか。

確かにテレワークの環境では同僚とのコミュニケーションが取りにくかったり、仕事に対するきめ細かいサポートを得られなかったりといった悪い面もありますが、こうした困難な状況をむしろ利用して、自身が大きく成長するチャンスと捉えることもできます。

そもそもテレワークになってコミュニケーションが取りにくいのはなぜでしょうか。職場で上司や同僚、部下などと同じ環境にいたときは意識せずとも頻繁にコミュニケーションを取れていたし、言葉に加えて表情や身振り手振り、空気感などを交えて複合的なコミュニケーションを取れていたのではないでしょうか。これはつまり、コミュニケーションの頻度と質が共に高い状態であったと言い換えられます。

このような状況はテレワークへの移行で一変しました。Web会議などで職場の同僚たちと常時接続したまま仕事をするならともかくとして、そうでなければ基本的にはコミュニケーションの頻度は大きく下がっていることでしょう。また、職場では阿吽の呼吸で意思疎通が取れていた方でもテレワークへの移行後は自分の考えを相手に伝えたり、相手の話の真意をつかんだりするハードルが上がっているのではないでしょうか。それは非言語情報のやり取りが著しく減少したことに起因すると考えられます。

しかし、この状況を「不便だ」と嘆いているだけではあまりに勿体ないと言わざるを得ません。非言語情報の重要度が減ったということは、相対的に言語情報の重要度が上がったということです。つまり、これまで「言わなくても何となく通じた」情報を明瞭な言葉にして相手に伝えることがテレワークという環境では不可欠なのです。

それならば、むしろこの状況を利用して「相手に情報を的確かつ簡潔に伝えるために最も適切な言葉は何か」「相手の言わんとしていることを齟齬なく理解するためにどんな問いを投げかければよいか」といったことを真剣に考えながらコミュニケーションを継続することで、言語化スキルを高めてみてはいかがでしょうか。言語化スキルを鍛えておくことは、テレワークでのコミュニケーションを円滑化するのに役立つのはもちろんですが、それだけではなくオフィスに戻ってからも役立つことは間違いないでしょう。

創意工夫スキルを高めるチャンス

同じオフィスにいた頃は上司や先輩から仕事をどう進めるべきか、細かい指示やアドバイスをもらえたのにテレワークになってからは大幅に減ってしまい、そもそもどこから手を付けてよいのかわからなかったり、どうやって進めたらよいか気軽に聞けなくて途方に暮れてしまったりするということもあるかもしれません。

前述したとおり、テレワークへの移行でコミュニケーションの頻度が下がると共に非言語情報の伝達が困難になりました。それによって相対的に言語情報の重要度が増して上司や先輩が部下や後輩を指導する際に必要とする労力が上がり、きめ細かい指導を無意識のうちに避けるようになっていることが理由として考えられます。

例えば今まではパソコンのモニターを一緒に見ながら対象を指さして「この部分をこちらと入れ替えといて」などと言えば通じたはずのことが、「この部分」と「こちら」を共に指示語ではなく固有名詞で伝えなければならず、さらにはその資料についても「何の資料の何ページか」などを明示的に伝える必要があり、細部にわたって指導をしようとすれば教える側に相当な負荷がかかることが予想されます。

それならばいっそのこと、上司や先輩からの詳細な指示や指導を待つのではなくて自ら能動的に仕事の進め方を考え、実行するチャンスとして捉えてしまった方が建設的でしょう。もちろん経験値の不足により失敗することもあるかもしれませんが、失敗から学ぶことも多いでしょう。

また、失敗するのがどうしても心配だという方は「このように工夫して仕事を進めようと思います」と上司や先輩に報告した上で進めるようにすれば、それがあまりにもイマイチならばその場で修正してもらえるでしょうし、そこでスルーされて失敗しても「報告した通りに実行しましたが、失敗しました。失敗の原因は想定外のこういう事象が発生したことによります。次回以降はそこを考慮し、予防的処置をこのように組み込んで行います」などと報告すれば、きっと上司や先輩も納得してくれるのではないでしょうか。

いずれにせよ、上司や先輩からのきめ細かい指導が期待できない今だからこそ、自分の頭をフル回転してどうやったら最も効率良く成果を出せるか試行錯誤することで仕事の創意工夫スキルを一気に上げるチャンスとして捉え、行動することが自身の成長につながるはずです。

テレワークという特殊な環境への急な移行により不便だと感じることも多々あるかと思います。とはいえ不便さをただ嘆いていても非生産的なので、むしろ不便な環境を逆手にとって今の内に自身の言語化スキルと創意工夫スキルを高めようというお話をしました。

本稿執筆時点では緊急事態宣言が延長される見通しが政府から示されており、もし延長が正式に決定されればそれに伴いテレワークを当分続けるという企業も多いかと思います。テレワークの環境が半ば常態化するのであれば、この環境だからこそ身に着けやすいスキルを集中して獲得すべきと考えます。本稿がそのための一助となれば幸いです。