本連載の第47回では「テレワークを成長のチャンスと捉えよう」と題し、テレワークによる制約を活かして自身の成長を実現しましょう、とお伝えしました。本稿ではテレワークへの移行に伴って個人が受ける仕事の性質が変わることと、それにどう対応すべきかをお話します。

  • テレワークによって、社員の働き方はどのように変わっていくのか

テレワークで変化した社内と社外を隔てる垣根

現在、テレワークで働いているという方の中には、緊急事態宣言が発出される前はオフィスで他の社員と一緒に働いていたという方が多くいらっしゃるとお察しします。そして若い方であれば、上司や先輩から適宜サポートを受けながら仕事をこなしていたという方も少なくないでしょう。

このように手厚いサポート体制下では、どうしても「上の人からの命令だからこの仕事をやっている」とか「どれだけ頑張っても結局は上の人の手柄になるし、その反面、責任も自分にあるわけじゃない」と冷めた態度を取ってしまう方が一定数いても不思議ではありません。

テレワークへの移行前は、基本的には同じ企業、特に部署内の人たちは同じ空間を共有しながら仕事をするのが当然でした。その当たり前と考えられていた環境がテレワークへの移行で激変し、各社員がそれぞれ別の場所にいながら共に仕事をするように変わりました。

この環境の移行による最も大きな変化は、実は「社内と社外を隔てる垣根が低くなった」ことではないかと考えられます。そしてそれは、社内で依頼される仕事に「仕事の業務委託化」とも呼べる決定的な質的変化をもたらしました。

自分のすぐ隣のデスクにいる部下ならば「これやっといて」と雑な投げ方ができたとしても、社外にいる自社のパートナー企業に同じような雑な仕事の依頼はできないでしょう。パートナー企業に対しては仕事の目的や目標、期限や要件などを整理した上で依頼するのではないでしょうか。それは単に「同じ会社にいるかそうでないか」という立場の相違によるものだけではなく、空間的に離れているため曖昧な依頼では伝わりにくいことも要因の1つではないかと推察できます。

ここまでの議論を前提にすると、社員が受ける仕事はテレワークへの移行によって「業務委託」に近い特徴を持つと考えられます。また、疑似的に業務委託を受けていると捉えると、個人の仕事への責任と成果が明確になることで言わば「個人事業主」的な働き方に近づくのではないでしょうか。

仕事のオーナーシップを持とう

もし、あなたが数日前に仕事を依頼したパートナー企業から納期直前になって「ご依頼いただいたお仕事ですが、いろいろと立て込んでおりまして予定していた納期には間に合いそうもありません。想定以上に難しかったのと、多忙だったので仕方がないですよね」などと言われたらどう思うでしょうか。恐らく二度とその企業には仕事を依頼しないのではないでしょうか。

当然、パートナー企業側としても上記のような対応を取ればこのような事態に陥ることは百も承知なので、信頼を得て仕事を継続的に取り引きしてもらえるように、受けた仕事にはオーナーシップを持って取り組むでしょうし、それによって確実に納期に間に合わせようとするでしょう。

先ほど、テレワークと在宅勤務への移行によって社員の働き方が「個人事業主として業務委託を受ける」のに状況が似てくるというお話をしましたが、それは仕事へのオーナーシップをこれまで以上に強く持たなければならない環境にシフトしたことを意味します。それではオーナーシップを持つためにはどうすればよいのでしょうか。以下ではその点について解説していきます。

1.高次の目的を意識する

まずは与えられたタスクを何のために行うのか、その意義を常に意識することが大事です。有名なイソップ寓話で、3人のレンガ職人が「あなたは何をしているのですか」と尋ねられた際に最初の1人は「私はレンガを積んでいる」と答え、次の1人は「私は大きな壁を作っている」と答え、そして最後の1人は「私は歴史に残る大聖堂を造っている」と答えるという話があります。

この話と同様に、仮に与えられたタスクそのものがつまらないと感じるような場合であっても、そのタスクを通して最終的に達成しようとしている高次の目的は何なのかを意識することが大事です。自身の仕事についても寓話の大聖堂に該当するような意義を見つけ、意識しましょう。

2.相手から信頼されていることを意識する

あなたが仕事を依頼されたということは、依頼した側に信頼されていることの証しです。特にテレワークの環境下では仕事している様子を直接見ることは難しいので、依頼する側としては信頼していないと頼みづらい状況と言えます。それなのに仕事を依頼するということは「きっとこの人なら大丈夫だろう」と思ってもらえているという信頼の証しと言えます。

単に仕事を振られたというだけではなく、そのことが「相手から信頼されている証しである」と捉え直したら、いい加減な仕事をして信頼を失ってしまうことは何としても避けようという想いに至るのではないでしょうか。

3.その仕事は自分にしかできないと意識する

自分が行っている仕事について「どうせ自分がやっても他の人がやっても同じだろう」と思ってやっていると、頑張って相手の期待値を超えようというモチベーションを持つべくもなく、それ相応の結果を出すことしかできません。

上司や先輩は同じ部署の部下または後輩に仕事を投げているわけですが、それは考えようによっては他の部下や、場合によっては業務委託することも選択肢としてはあるはずです。そこで、仕事を依頼してくれた相手は世界中の77億人の中からあなたを選んでくれた、と捉えてみてはいかがでしょうか。このように考えるのは大袈裟だと言われそうですが、それでもいいのです。事実はどうあれ、大事なのは「自分がどう捉えるか」ですから。

依頼された仕事についてそのように捉えると、その仕事は自ずと「他の誰でもない、自分にしかできない」という意識を持って熱心に仕事に取り組もうという姿勢になるはずです。

以上、3つの点を意識することで仕事に対するオーナーシップを持つことができるのではないかと考えます。そしてそれは、テレワークへの移行に伴う「仕事の業務委託化」と「社員の個人事業主化」という変化に対して個人が順応するための必須要件です。これを機に読者の皆様がオーナーシップをしっかり身に付けて活躍していただけたらそれ以上に嬉しいことはありません。