本連載の第40回では「前例や事例がないときこそチャンスと捉えよう」と題し、新しい取り組みを検討する際に「前例や事例がないから」といって却下することの弊害と、それを理由にした抵抗勢力への対処方法についてお伝えしました。本稿では取り組みの是非を含めたさまざまな意思決定に焦点を当てて、多数決で物事を決めることの問題点を明らかにしつつ、替わりに取るべき方法をお話します。

「……それでは決を採ります。賛成の方は挙手してください」。このように会議で意思決定の際に多数決を使うこと、ありませんか。新規エリアへの出店、フレックスタイム制の導入、営業支援システムのクラウドへの移行など、経営に大きく影響するような重要な意思決定ほど多数決で決めている会社もあるかと思います。しかし、本当にそれでよいのでしょうか。

そもそもなぜ多数決で意思決定を行っているのかを問うと、さまざまな回答が返ってきます。「以前から重要な意思決定については多数決を行うことになっているから」という回答もありますが、これはもはや理由ではなく経緯なので論外として、他にも「民主主義だから」という政治体制と経営を混同しているとしか思えない回答や、「過半数の人が賛同するなら少数派の反対意見の人は我慢すべきだと思うから」という単なる感情論の回答、それに「手っ取り早いから」という意思決定のスピードに着目した回答もあります。

多数決による意思決定はやめた方がよい理由

最後に挙げた回答のように、多数決は確かに「手っ取り早い」意思決定方法でしょう。もし当該の意思決定における最優先事項がスピードにあって意思決定の質を問わない場合、つまり重要でない事柄であれば多数決で良いのではないでしょうか。しかしながら、多くの時間や費用、労力がかかる重要な意思決定であれば多数決はお勧めしません。その理由は以下3つあります。

1つ目の理由は、そもそも大勢の人が選択する意見が正しいとは限らないし、まして賢明な判断かどうかは担保できないということです。もっと簡単な言い方をすると、「みんなが言ってるから」というだけで判断して本当に良いのでしょうか、ということです。

多くの人の持っている情報が偏っていたり、意思決定に不可欠な知識を持ち合わせていなかったりした場合は、いくら人数が多くても判断を誤ってしまうでしょう。また、多数決に関与する人たちの立場や属性が変われば結論も変わってしまう可能性が高くなることも問題でしょう。関与する人によって結論が変わってしまうような意思決定手法が果たして妥当と言えるのでしょうか。

2つ目の理由は、多数決によって数で無理やり押し切られた側が納得しないまま意思決定がなされることにより不満が募り、後に抵抗勢力になってしまうかもしれないことです。多数決により賛成多数で可決した議案について、そこでの結論が本当に良い選択であったとしても、その結論に至る理由を十分に議論せずに決してしまうことで反対派の人はその結論が「誤っている」という認識を持ったままになってしまいます。そうすると、反対派の中には多数決で決まったことに対する妨害行為を行うことで失敗させて、「やはり自分は正しかった」と主張しようとする者が現れても不思議ではありません。

そして3つ目にして最も重要な理由は、意思決定の方法に多数決を選択した時点で思考が止まってしまうことです。例えばAかBを選ぶ意思決定を行うのであれば、本来は「なぜAを選ぶべきか」、または「なぜBを選ぶべきか」について根拠を示しながら議論を行い、その結果として「我々はAを採用し、Bを棄却する。なぜならば……」と理路整然と説明できるはずのところを、「我々はAを選んだ。なぜなら会議参加者の過半数がそうしたいと言ったからだ」という状態に至ってしまうというわけです。これでは無責任と言われても仕方がないでしょう。

さらに別の観点では、多数決に逃げずに議論を尽くすことによって最初に挙げた「AかBかの2択」より優れた選択肢、例えば「AとBの両方」や「AでもBでもなくC」という結論を導ける可能性があります。ところが拙速に多数決を使うことによって、より優れた選択肢を検討する機会を失ってしまうかもしれません。これはとてももったいないと言わざるを得ません。

意思決定は論理と情報、シナリオに基づくべき

ここまで多数決の問題点について述べてきましたが、ではどうすればよいかということについて説明します。意思決定する事柄が重要であればあるほど、以下に挙げるようなしっかりとしたステップを踏んで考える必要があります。

Step1.意思決定の背景と目的を整理する

会議で重要な意思決定を行う際には、最初に意思決定の背景と目的のシェアをすると良いでしょう。まず背景についてですが、一言で言えば「なぜ今、その意思決定が必要なのか」ということです。自社の属する業界に新規参入した企業の脅威が強く、何も対応せずに手をこまねいていてはシェアを奪われてしまうとか、新しいテクノロジーを活用したツールをいち早く導入することで競争優位を強化できるチャンスがあるなど、その意思決定が必要になった背景を会議の参加者とシェアしましょう。また、意思決定によって何を達成したいのか、何を得たいのか、その目的についても明確にすることで参加者との意識を合わせることができます。

Step2.意思決定で考慮すべき要素を洗い出す

背景と目的をシェアできたら、意思決定をするために何について考えるべきか、その要素を抽出しましょう。他業界からの新規参入の脅威に対して自社のシェアを防衛するために取るべきアクションであれば、そのアクションを採用した場合に想定される効果の大きさや必要な費用、労力、時間、想定される競合他社のリアクションなど、「何を考慮するべきか」をさまざまな角度から予め抽出しておくことをお勧めします。

Step3. 意思決定の選択肢と各要素についての情報を提示する

意思決定をするからには、当然選択肢も用意します。そして選択肢ごとにStep2で挙げた要素を検討します。その際にありがちなのは「各々の項目について、1点~5点の点数で評価しました」といって評点を付けて、総合点の高いものを選ぶということですが、これはお勧めしません。定量的な評価なのでそれっぽくは見えますが、各項目間の重みや点数のつけ方に主観が入る余地があるからです。そうではなく、例えば費用であれば金額、労力であれば何人日必要かなど、より客観的に評価できる情報を提示しましょう。

Step4. 各選択肢を選んだ場合に考えられるシナリオを描く

各要素について別々に考慮しても判断がつかない場合には、それらの要素を加味して各選択肢を選んだ場合に想定されるシナリオを考えるとよいでしょう。シナリオを検討することで視野が拡がり、要素だけでは見落としていた重要な点に気が付いたり、自社にとって都合の悪いことにも目を向けることができたりといったメリットがあります。また、どんなシナリオにも不確実性が伴うので、それを見越してシナリオにはベストケース、ワーストケース、その中間のケースの3つを用意し、併せて提示するとなお良いでしょう。

Step5. シナリオを比較検討して意思決定を行う

各選択肢についての要素およびシナリオを踏まえて意思決定を行います。もっとも簡単なのは「選択肢A、B、Cはいずれも目的達成に利用できそうだが、自社の財務状況を踏まえると費用面で許容できるものがBに限られる」というように、要素だけで判断できるものです。しかしながら現実にはもっと複雑なケースが多いので、要素に加えて各シナリオを踏まえて、「A、B、Cの中でAとCのワーストケースは自社にとっての打撃が許容範囲を超えており、かつ十分に起こり得るので却下し、より安全なBを選択する」といった意思決定を行います。

真に重要な意思決定こそ、安易に多数決を行わずに精緻な論理と客観的な情報、それにシナリオの検討を踏まえて行いましょう。それによって意思決定の質向上が見込めるのはもちろんのこと、意思決定者としての説明責任をしっかり果たすことにもつながります。

筆者プロフィール: 相原秀哉(あいはら ひでや)

株式会社ビジネスウォリアーズ代表取締役
慶應義塾大学大学院修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)入社。グローバルスタンダードの業務改革手法、Lean Six Sigmaを活用したコンサルティングを得意とし、2012年に日本IBMで初めて同手法の伝道師 "Lean Master"に 認定される。その後、幅広い組織や個人の生産性向上に寄与するべく独立。生産性向上による働き方改革コンサルティングや、コンサルティングスキルを実践形式で学べるビジネスブートキャンプを手掛ける。