本連載の第38回では「『うちの仕事は特殊だから』にうろたえてはならない」と題し、「仕事の特殊性」を理由に業務を見直せないと抵抗された際の対応のコツについてお伝えしました。本稿でも引き続き、変化に対する社内の抵抗に焦点を当てて「顧客の要望の多様性」を言い訳にした社内の反発への対処方法についてお話します。

「標準化」とは?

業務改善の考え方のひとつに「標準化」があります。これは部署や人によって異なる業務の進め方を、ある決まった進め方に統一するということです。特に定型的で反復性が高い業務において威力を発揮するのですが、そもそもなぜ「標準化」が改善につながるかを考えてみましょう。

「標準化」の効果は、業務によるアウトプットの質と所要時間のバラツキを抑制することと、その仕事を新しく始める人への教育や引き継ぎの効率化にあります。まずアウトプットの質と所要時間のバラツキを減らすことの意義についてですが、こちらはファストフード店のサービスを例に考えるとわかりやすいと思います。

もしお店のオペレーションが全く標準化されておらず、店員が「自分たちの好きなようにやらせてくれ」といって、好き勝手な手順で調理・提供していたとすると、ある店舗ではおいしい料理を1分で提供してもらえたのに、同じ系列の別の店舗に行くと料理がまずいうえに、並んでもないのに10分も待たされるというようなことが発生します。この例のように、部署や人によって業務の進め方が異なると、そこに仕事を依頼して得られるアウトプットの質や所要時間が許容範囲を超えてしまうリスクが大きくなるのです。

また、教育や引き継ぎの効率化に関して、そもそも業務が標準化されていないと、教える人によって内容が変わるので新人や後任者にとって学ぶことが過剰に多くなるうえ、どれが正しいのかわからずに混乱してしまいます。その点、標準化されていれば、その1通りのみ把握できればよいので自ずと学習効率が上がります。

このように改善効果が期待される「標準化」ですが、いざやろうとすると対象部署の方から「顧客によって要望が違うから、うちの部署の業務は標準化なんて無理ですね」という反論に遭うことが多々あります。これは取り組みへの典型的な反論のひとつなのですが、「お客様が求めていることをあなたは無視しようとするのか」という半ば脅しとも捉えられる抵抗です。

多様なのは本当に顧客の要望か

「顧客の要望が多様だから業務を標準化すると迷惑がかかる」というような話が出た際にチェックすべきポイントは3つあります。1つ目は「多様なのは本当に顧客の要望か」、2つ目は「顧客の要望の多様性の背景に何があるのか」、3つ目は「顧客の要望の多様性を吸収できるような標準化は考えられないか」です。

1つ目のポイントについては特に営業組織でありがちですが、社員に「標準化」という概念が浸透していないような部署において「顧客が〇〇を求めている」というのを水戸黄門の印籠のように使いながら、裏では自分の好きなように進めているというようなケースです。要は「今の自分のやり方を変えるのは面倒だ。でも、それを直接的に表現するのは憚られるので、顧客の要望ということにしてしまおう」というわけです。

これに対しては、そもそもの要望の根拠を出してもらう必要があります。要望について、顧客との契約書やメールの履歴、会議の議事録など目に見える形で出してもらうのです。もし要望の根拠が明文化された形で残っていないということであれば、その場で顧客に直接確認する、もしくはその社員に確認してもらえばよいでしょう。すると案外、顧客からは「特にこだわりはない」という回答をもらえるかもしれません。

顧客の要望の多様性の背景に何があるのか

1つ目のポイントで顧客からの要望が多様であることの裏付けが取れたとしたら、次は2つ目のポイント「顧客の要望の多様性の背景に何があるのか」に移ります。「顧客の要望はなぜバラツキがあるのか」を徹底的に分析するということです。たとえ現在、顧客から求められる商品やサービスおよび、それに付随するやり取りのバラツキが異なるとしても、背景を探ってみると、すでにバラツキの根拠となる環境が変わっていることがあります。

例えば顧客との受発注のやり取りにメールとFAXが使用されている職場で、やり取りをメールに一本化したいと考えていたとします。そこで顧客に問い合わせると「これまでずっとFAXでやり取りしてきたが、FAXにこだわりがあるわけではない。パソコンは苦手だからメールは無理なだけ」という返事があった場合、この顧客は「メールに添付ファイルを付けて送れるのはパソコンだけ」という過去の常識にとらわれている可能性があります。

そこで、「大丈夫ですよ。お持ちの携帯電話で注文書を写真で撮ってメールに添付して、こちらのメールアドレスに送ってもらえれば済みます」といって手順を教えれば、そちらの方がFAXで送るより楽なことをわかってもらえるはずです。もちろん、通信費節減などのコスト面でのメリットの訴求も有効でしょう。

そして、FAXでの受発注をなくしてメールに一本化することによって、オフィスにいなくても顧客からの注文を受け付けられたり、FAXで届いた紙を紛失するリスクを減らしたり、紙の保管場所を確保しなくてもよくなったりという直接的なメリットを享受できるうえ、業務のバラツキが減ってシンプルになることが期待できます。もちろん、このケースにおいては前提として、情報漏洩などのセキュリティーリスクの低減策をセットで考慮することについても留意しましょう。

顧客の要望の多様性を吸収できるような標準化は考えられないか

そして最後、3つ目のポイント「顧客の要望の多様性を吸収できるような標準化は考えられないか」ですが、これは顧客の要望の多様性を受容しつつ、こちら側の工夫で業務のバラツキを抑えるという手です。

例えば自社が受け取る顧客の注文書のフォーマットがまちまちで、その一方、顧客側はグループ会社内でフォーマットを統一していたとすると、こちらのフォーマットに合わせてもらうことは先方の不都合になってしまうので、依頼することは得策ではありません。このような場合には、顧客ごとに異なるフォーマットでの注文を受け入れつつ、マクロやRPAなどのツールを用いて、標準フォーマットに自動で落とし込んでしまう仕組みを作ってしまえばよいでしょう。

また別のアプローチとしては顧客の要望を分析してパターン化し、そのパターンへの対応を標準プロセスとして組み込むことも効果的です。これは顧客の要望を基にしつつも、各人の判断でサービスや商品提供にかかる所要日数が決められていて、会社として一貫性がないような場合などに有効です。このような場合は、例えば多様な顧客の要望を「緊急度」と「重要度」の2つの軸で分けて当てはめて、下記のように標準的な所要日数を予め定めておくといった対応が考えられます。

1.「緊急度」と「重要度」が共に高い場合は2営業日以内
2.「緊急度」のみ高い場合は3営業日以内
3.「重要度」のみ高い場合は4営業日以内
4.「緊急度」と「重要度」が共に低い場合は5営業日以内

もちろん、前提として「緊急度」と「重要度」の客観的な判断基準や所要日数の妥当性などを考慮のうえで作ることが肝要です。

さて、本稿では顧客による要望の多様性を理由にした業務標準化への反発について、その反発理由の妥当性の検証と、標準化を実現させるための方策をお伝えいたしました。ご自身の職場の業務標準化の取り組みのご参考になれば幸いです。