本連載の第41回では「ビジネスにおいて多数決は知的怠慢と心得よう」と題し、多数決で物事を決めることの問題点と、替わりに取るべき方法をお伝えしました。本稿でも引き続き意思決定に焦点を当てて、合意形成の際に気を付けるべきことをお話します。

前回のコラムで取り上げた「多数決」は出席者の過半数や3分の2以上など、予め決めた基準を超える賛成票が入った選択肢を採用するという仕組みでしたが、ビジネスで扱うにはさまざまな問題があるのでお勧めしない理由を説明しました。その一方、「全会一致」でないと物事を決められないという姿勢にも問題があります。

会議での意思決定に全会一致を用いる際には、一般的には「出席者全員が賛成したら採用する」とか「誰も反対しなければ採用、一人でも反対したら却下」といったルールが用いられます。こうしたルールを用いる背景としては「もし強引に採用した場合、後で反対意見の人との間で軋轢を生むのは得策ではない」という考えや、「万が一採用した取り組みが失敗した際に、会議で反対した人から責められるのではないか」という恐れが背景にあると考えられます。しかしながら、全会一致の原則は、それ自体に別の問題を内包しているのです

全会一致の罠とは

一般的には会議参加者の人数や属性が多くなればなるほど、全会一致による意思決定は困難になります。それに加えて、会議出席者の誰もが賛成しなければ新しい取り組みを行えないという縛りを作ってしまうことは、別の3つのリスクを生んでしまう恐れがあります。

その1つ目は「挑戦する環境を失うリスク」です。全く新しいことへの挑戦というのは通常、失敗するリスクを伴うものです。多様な属性の人が集まる会議において誰も反対する人がいないような選択肢というのは、極めて無難なものだと考えられます。

リスクを許容できる環境にないような経営状況においては、それでもよいかもしれませんが、そのような危機的状況でなければ、許容できる範囲内のリスクを果敢に取って挑戦することが会社の飛躍的な成長につながるものと考えます。そのようなチャレンジングな環境を放棄することは、中長期的に社員を育て、ひいては組織の成長を促す環境を放棄することに等しいのではないでしょうか。

続いて2つ目は「意思決定の遅延リスク」です。これは、全会一致を原則とするばかりに利害調整に余分な時間がかかってしまうということです。特に急を要するような切迫した事態に直面した場合や、迅速な対応を取れれば先行者利益を得られるような場合において、意思決定の遅れは致命的な損失、あるいは機会損失を生じさせてしまうことがあります。それにもかかわらず、全会一致に拘ることで意思決定に手間取っている間に倒産の危機に陥ってしまったり、競合他社に先を越されてしまったりしては本末転倒と言えます。

そして3つ目は「骨抜きにされるリスク」です。関係者全員が賛成できるように調整を図るうちに、取り組み内容などについて妥協を重ねることで本来エッジの効いた斬新なものだったはずが、何のインパクトももたらさない無難なものに変貌し、元々狙っていた目的の達成が難しくなってしまうリスクです。「誰も反対しないもの」にする代償として本質的な価値を損なってしまっては、何のための意思決定なのか疑問を持たざるを得ません。

反対する理由に応じた対応をしよう

ここまで、意思決定の際に全会一致に拘ることの弊害を述べてきましたが、それでは反対意見を一切無視して押し切ってしまえばよいかというと、そう簡単な話でもありません。反対者の声に真摯に耳を傾けて、反対する理由のパターンに適した対応を取ることをお勧めします。

1.取り組み自体の妥当性への疑問に基づく反対の場合

当該取り組みの費用対効果やリスクの大きさなどの妥当性を論理的に問う意見についてであれば、当然ながらその意見を無視して意思決定することは問題です。その疑問を払拭できるよう説明を試みた上で、情報が不足していれば収集し、真摯に対応することが求められます。その上で、そのまま採用するか、内容を修正した上で採用するか、もしくは却下するかを判断するべきでしょう。

ただし、その場合においても社内外の環境変化を完璧に予測することは不可能なので、ある程度の不確実性を伴うことは許容してもらう必要があることに留意しましょう。どのような意思決定においても「100%成功する保証」はできないことが前提、ということです。

2.自部門への不利益を避けるための反対の場合

新しい取り組みの採択を問う場面において反対に遭うのは、何も取り組み自体の是非を問うものであるとは限りません。それによって特定の部署の社員が不利益を被ることが予見される場合、当該部署の責任者が部下を守ろうとして反対に回ることは往々にしてあります。

全社最適の観点からは、このような反対は控えるべきだと訴えることはできますが、当人からしてみれば死活問題かもしれず、それを無視して強硬に進めることは対象部署の責任者と部員のモチベーション低下や軋轢を生む可能性があります。このような事態を避ける上でも、その取り組みによって当該部署に不利益が生じないように工夫することや、不利益が生じた際に補填するような案を提示し、不安や不満を緩和させる措置を併せて検討するのがよいでしょう。

3.自己保身のための反対の場合

最後のケースは「賛成に回ることで責任を負いたくない」という責任回避の姿勢から、何にでも反対するような人がいる場合です。そのような人は本来であれば「意思決定に参加する資格がない」として責任ある立場から退いていただきたいところではありますが、ここで正論を振りかざしてもやはり敵を作るだけなので、次善策を適用するのがお勧めです。

それは「黙認」してもらうということです。こういう人に対しては検討対象の取り組みの意義や効果をいくら訴えても、残念ながら響くことは期待できませんので、積極的な賛成を取り付けようとするのは徒労に終わることのほうが多いでしょう。とはいえ、表立って反対されているのに無視するわけにはいかないでしょうから、次善策としてやむをえず「黙認」してもらうよう説得するのです。

ただし、自己保身にしか興味がないような人を責任ある立場に置き続けることは、組織にとって弊害のほうが多いので、可能であれば中長期的には他の方にその立場をお譲りいただくことを考えるべきでしょう。

本稿では、意思決定の場において全会一致の原則を貫こうとすることがもたらす3つのリスクと、反対者がいる場合に反対理由のパターンに応じて対処する方法をお伝えしました。効率的かつ効果的な意思決定を行う上でのヒントになれば幸いです。

筆者プロフィール: 相原秀哉(あいはら ひでや)

株式会社ビジネスウォリアーズ代表取締役
慶應義塾大学大学院修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)入社。グローバルスタンダードの業務改革手法、Lean Six Sigmaを活用したコンサルティングを得意とし、2012年に日本IBMで初めて同手法の伝道師 "Lean Master"に 認定される。その後、幅広い組織や個人の生産性向上に寄与するべく独立。生産性向上による働き方改革コンサルティングや、コンサルティングスキルを実践形式で学べるビジネスブートキャンプを手掛ける。