本連載の第37回では「社内の常識は社会の非常識かもしれない」と題し、業務改善の取り組みの際に「社内の常識」を振りかざして抵抗された際の対応のコツについてお伝えしました。本稿でも社内の抵抗への対応に焦点を当てて「仕事の特殊性」を言い訳にした社内の反発への対処方法についてお話します。

働き方改革などで業務の見直しを進める際、対象部署の社員から「うちの仕事は特殊だから、よそでやっているような改善なんて無理だよ」といって取り合ってもらえないことがよくあります。詳しく話を聞くと、確かに扱っている商材がニッチなものであったり、仕事内容がマニアックな場合もあったりします。そのようなとき、だからといって「それは確かに特殊なので難しそうですね」とあっさり引き下がってしまってよいのでしょうか?

本当に特殊なのだろうか

よく考えてみると、「仕事が特殊だ」というのは曖昧な表現です。先ほど挙げたように商材や仕事の内容が特殊な場合もありますが、担当する社員のスキルや扱うツール、データが特殊ということも考えられます。もし、仕事を構成する多くの要素のどれかひとつでも特殊なものが混ざっていることで「その仕事は特殊である」と結論づけているのだとしたら、「特殊でない仕事」などもはや世の中に存在しないのではないかとさえ思えます。

また、そもそもここでいう「特殊」とはどういうことでしょうか。この言葉を使って抵抗する方に詳しく話を聞こうとすると、大抵は「他と違うってことだよ」という回答が返ってきます。なお、さらに突っ込んで「他とはどこのことですか?」「違うというのは、どのように異なるのですか?」と聞くと、十中八九は答えに窮します。これはつまり「仕事が特殊だ」という主張を裏付ける根拠を説明できないということなので、もはや主張そのものの信ぴょう性が問われます。

一方で、「仕事が特殊だ」という主張については「うちの仕事は短納期がベースで、仕様変更も頻繁かつ不定期で入るところが他社とは違うってことだよ」とか、「同じものを大量に売りさばくのではなく、個別のオーダーに応じて小ロットで商品を生産・販売しているのが特殊なんだよ」などと丁寧に説明してくれる方もたまにいます。しかしながら、それを聞いて「なるほど、それは確かに特殊ですね」などと感心している場合ではありません。

「短納期で仕様変更が頻繁に入る」という特徴も「個別オーダーに応じた小ロット生産・販売」も、もしかするとその業界の中では珍しいのかもしれませんが、他の業界に目を向ければ似たような特徴を持つビジネスを行っている会社は山ほどあるでしょう。

さらに百歩譲って「その仕事が特殊である」という主張を受け入れたとしても、「特殊だから改善できない」という論理展開には飛躍があります。その点について「特殊だと、なぜ改善できないのでしょうか」と突っ込むと、これまた「他社でやっているような簡単な仕事じゃないからね、うちの仕事は複雑だから無理なものは無理なんだよ」のようにイラっと返されるのがオチです。この返答自体に新たな突っ込みどころが満載なのですが、さすがにこの辺りでやめておいたほうが身のためでしょう。

抽象化の概念を使って特殊性を無効化する

「うちの仕事は特殊だから改善できない」という主張の多くは筋が通らないことはお伝えしました。とはいえ、抵抗する相手に「筋が通りませんね」というだけでは感情を害するだけで事態の打開には至りません。元々の目的は抵抗する相手を理詰めで黙らせることではなく、改善を成功に導いて効果を獲得することにあるはずで、そのために周囲の協力を得ることが重要です。

そこで使えるのが「抽象化」という概念です。相手が訴える特殊性について真っ向から反対せずに「確かに具体的な仕事については特殊ですね」と一旦は受け入れる姿勢を見せつつも、業務を抽象化して捉えることで他社や他部署などとの共通点を見出したり、一般的な改善案を適用できる余地を見つけたりするという手です。

改善対象の仕事についてマニュアルに記載する手順レベルの細かい情報を見比べてみると他社と全く同じというはずがないので、やはり「特殊だ」と認めざるを得ないかもしれません。しかし、その手順レベルのものをある程度まで抽象化すると、大抵の業務においては他社や他部署との共通点や改善点が浮かび上がってくるものです。

例えば「営業支援システムで営業日報を入力する」という業務があったとして、各々の入力項目と記述内容を眺めるだけでは大きな改善機会を捉えることは難しいですが、それを「上司への個別の報告」や「営業会議での報告」なども含めた「報告業務」と抽象化して捉え、全体の業務量に占める割合を調査・集計することで「営業マンの業務の内、3割が報告業務に費やしているのは多すぎるのではないか」というような示唆を得ることができるかもしれません。

また、他の営業所の調査結果と比較して「この営業所だけ報告業務にかけている業務量比率が他の営業所と比べて半分を下回っているが、営業支援システムを使用した日報入力が浸透していないのではないか」などと仮説を立てることができます。

この場合は結果として「営業日報入力」の業務量に焦点を当てることになるので「最初から抽象化する必要はないのでは」と考える方もいるかもしれませんが、最初から「営業日報入力」のような詳細なレベルで改善機会を検討しようとすると、分析の工数が肥大化してしまう上に、本来注目すべき大きな改善機会を見逃してしまうリスクがあるのでお勧めしません。

なお、一度抽象化して改善機会の抽出や対応方針を出せたとしても、高い抽象度のままでは具体的に取るべきアクションは見えてこないでしょう。先ほどの例でいえば「この営業所の報告業務が3割というのは高すぎる。最低でも1割以下に抑えるべきだ」といった主張は方針レベルとしてはよくても「では、そのためには具体的に何をどうしたらよいのか」が全くわかりません。そのために、今度は実際のアクションに落とし込める具体的な内容まで抽象度を下げて検討をする必要があります。

このように、「特殊性」を盾にした業務改善への抵抗を受けたときには、その仕事の特殊性について真っ向から反論せず、業務の抽象化を通じて共通点を浮き彫りにしたり改善機会を探ったりして、そこから再び具象化してアクションを考えるという「抽象化」と「具象化」を行き来しながら検討を進めていくということが有効です。ぜひ、意識して使ってみてください。

筆者プロフィール: 相原秀哉(あいはら ひでや)

株式会社ビジネスウォリアーズ代表取締役
慶應義塾大学大学院修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)入社。グローバルスタンダードの業務改革手法、Lean Six Sigmaを活用したコンサルティングを得意とし、2012年に日本IBMで初めて同手法の伝道師 "Lean Master"に 認定される。その後、幅広い組織や個人の生産性向上に寄与するべく独立。生産性向上による働き方改革コンサルティングや、コンサルティングスキルを実践形式で学べるビジネスブートキャンプを手掛ける。