会社員の場合、源泉徴収の形で給料から天引きされるため、あまり意識しないままに払っていることが多い税金。しかし、せっかく給料が増えても、「手取りが増えないのは何でだろう?」と手をこまねいているだけなのは、あまりにももったいない。税金の種類や仕組みを理解して、払うべきものは払って、後から慌てないように、また取り戻せるものは取り戻して、"お得生活"ができるように、ゼロから勉強しよう。


都内だと申告者が5割になる! あなたも対象者になっているかも

2015年1月から相続税制が改正となる。たとえば、相続税のいわば免税部分、基礎控除が子ども2人と妻の場合、8000万円から4800万円に下がってしまうのだ。

実際、税理士法人レガシィの試算によると、増税後は、東京都内では2人に1人が相続税申告対象者になる見込みだ。2010年に、都内で亡くなった人のうち、相続税の申告をしたのは25.5%。うち、納税者は9%、申告したことで納税ゼロが16.5%という。それが、増税後は、申告者が50.3%。うち、納税者が18.9%という倍増するというのだ(表1)。関係ないと思っていたあなたも、もしかしたら、相続税と無縁ではなくなるかもしれない。

簡単に相続税改正の変更点を押さえておこう。

表1

相続税最大の変更点は基礎控除の大幅縮小

相続税の大きな変更点は、(1)基礎控除の縮小、(2)税率構造の見直し、の2つだ

基礎控除の縮小とは、今まで相続額から5000万円+1000万円×法定相続人の金額を差し引けた(控除)ものが、5000万円+600万円×法定相続人と、1人につき400万円も控除が下がること。差し引く金額が下がれば、当然、相続税対象額が増えるということ。これが、納付者増加といわれる所以だ。

たとえば、妻と子ども2人の相続額が自宅7000万円、貯蓄と株券で3000万円の計1億円だったとしよう。今までであれば、5000万円+1000万円×3=8000万円の基礎控除があった。つまり、この家族の課税対象額は2000万円だったのだ。これが、基礎控除が3000万円+600万円×3=4800万円となり、課税対象額は一気に5200万円と2.5倍にはねあがる(表2)。いかに基礎控除が大事だったかがわかるだろう。

表2

では、この家族の税額はどう変化するのだろう。実は今回、(2)の税率構造の変更もあるのが表3。

具体的には、6段階から8段階に変更され、最高税率が50%から55%に引き上げられる。この家族の場合、改正前なら課税遺産は2000万円。妻1000万円、子ども1人500万円とすると、子どもの相続税額は税率10%なので50万円でよかった。それが、改正後だと、課税遺産は5200万円。妻2600万円、子ども1人1300万円とすると、子どもの相続税額は、145万円となる。相続税の重みがかなり増すのがわかるだろう。

表3

小規模宅地等の特例で不動産の見積もりが80%減となる

もちろん、実際の相続は、様々なテクニックを使えば納税額を大きく減らすことができる。

その代表例が、「小規模宅地等の特例」だ。これは、故人が住んでいた自宅に法定相続人が住んでおり、そのまま引き継げば相続税額を最大80%軽減できるというもの。

これは同居家族か持ち家のない子どもでも適用されるもの。そもそも不動産は、相続資産の見積もりの時点で、実勢価格でなく、路線価などを参考に計算される。なので、実勢価格の70%程度で見積もられるといわれている。それでも、都内の一軒家であれば、実勢価格1億円といった家もザラだ。相続財産としても、7000万円前後で計算されてしまうので、それだけでも、相続税の対象となってしまう家族はあるだろう。

それが、小規模宅地等の特例を受ければ、80%減なので、7000万円を1400万円の価値に引き下げることができる。この軽減は相続税を払うか払わないかに大きく関わることになるのは間違いない。

実は今回の改正でこの特例面積が240平方メートルから330平方メートルに拡大する。また、事業用と居住用の宅地がある場合、最大400平方メートルまで併用が限定的に認められていたが、今回から730平方メートルまで完全併用が認められることとなった。

また、「小規模宅地等の特例」を受けられる条件が、現在は、二世帯住宅の場合の同居親族とみなされなかったものが、今回適用に変更。また、故人が老人ホームなどに転居していて空き家だった場合、適用されなかったものが、適用されることになるなど、かなり条件緩和が進められた一面もある。

教育資金贈与を受けられるのは来年まで。0歳でも今のうちに

もう一つ、相続税軽減のために利用するといいのが生前贈与。被相続人が生前に法定相続人に対して、現金などを贈与することで、相続財産を減らす手立てだ。贈与自体は年間110万円までなら、贈与税がかからないので、毎年110万円ずつ生前贈与していくのが、ひとつの方法(暦年贈与)。

ここで注目されているのが、3年間の時限措置として設定され、来年いっぱいまで使える「教育資金贈与」。これは孫1人当たり最高1500万円までの贈与が無税となる制度。小学校から大学院までの授業料や入学金、習い事の月謝などが対象となる。信託銀行や証券会社に専用の口座を作り、贈与する財産を預けると、教育費として使う場合、金融機関から払い出しを受けることができる。

もちろん、教育費は都度都度、必要に応じて祖父母が支払いをしても無税。ただ、給食費だ、塾代だ、という度に祖父母に支払ってもらうのも、手間ばかりがかかってしまう。まとめて教育費としてもらっておけば、子ども側も助かるし、親側も相続財産が減らせて一石二鳥ということになる。

この制度、利用するなら来年いっぱいまでなので、孫が0歳で取り急ぎニーズがないという場合でも、贈与をしてもらえるなら、今のうちに受けておいたほうがいいだろう。

このように、今回の相続税改正は、対象者が都市部を中心に大きく増える見通しだ。ただし、申告をすることで相続税をゼロにできるケースが多いことも確か。まずは、相続財産の金額を正しく把握し、もしも、相続税がかかりそうなら、改めて対策を考えてみるといいだろう。

<著者プロフィール>

酒井 富士子

経済ジャーナリスト。(株)回遊舎代表取締役。上智大学卒。日経ホーム出版社入社。 『日経ウーマン』『日経マネー』副編集長歴任後、リクルート入社。『あるじゃん』『赤すぐ』(赤ちゃんのためにすぐ使う本)副編集長を経て、2003年から経済ジャーナリストとして金融を中心に活動。近著に『0円からはじめるつもり貯金』『20代からはじめるお金をふやす100の常識』『職業訓練校 3倍まる得スキルアップ術』『ハローワーク 3倍まる得活用術』『J-REIT金メダル投資術』(秀和システム)など。