連載コラム「人に聞けない相続の話」では、相続診断協会代表理事の小川実氏が、その豊富な実務経験をもとに、具体的な事例を挙げながら、相続の実際について考えていきます。


【ケース10】

義理の母親は20年ほど前から私たち夫婦と同居し、2人の孫とも一緒に暮らしていました。

義理の父は10年前に亡くなっています。

義理の母親は5年ほど前から、体の調子が思わしくなくなり、家事は義理の母親の長男である夫と、その妻である私にすべて任せていました。

他家に嫁いだ長女(夫の実の妹)より親身になって、実の母親のように献身的に面倒をみたつもりです。

その義理の母親も先日亡くなりました。

私は何も相続することはできないのでしょうか?


【診断結果】

母親の面倒は長男家族任せにした長女が「お義姉さんには関係ない」

過去に実際にあった事例です。

母親が死亡し、相続人は同居していた長男と他家に嫁いだ長女の2人。

母親は、数年前から体調が悪くなり、加えて軽い痴呆も始まり、大変手間がかかる状態でしたが、長男とその妻が献身的に面倒を見ていました。

他家に嫁いだ長女は、ほとんど実家に帰る事もなく、母親の面倒は長男家族任せにしていました。

母親の葬儀が終わった翌日、長男と長女二人きりになった時、遺産分割の話になりました。

そういう話になっているとは知らず、長男の妻がお茶とお茶菓子を持って、部屋に入りました。

その時、

「母の遺産分割の話は、お義姉さんには関係ないので、席をはずしてください」

と長女が長男の妻に告げました。

そして、長女の要求は、

「自宅5,000万円は長男に渡すので、その他の財産は合計しても5,000万円に満たないはずだから、すべて自分がもらいたい」というものでした。

痴呆になり始めた義母の面倒を長男の妻が見ていると、長女と間違えているのか、よく長女の名前を呼ぶこともありました。

長男の妻はそんな時、長女になったつもりで義母の面倒を見ました。

そんな事はまったく知らない義妹から言われた、

「お義姉さんには関係がない」

という言葉が、長男の妻はどうしても許せませんでした。

長男の妻は、やるせない気持ちをどこにぶつけてよいかわからず、長男と言い争いになった事もありました。

裁判所で3年間、泥沼の争い

長男の妻は弁護士と相談し、自分と夫が面倒を見た寄与分を主張しました。

義妹も弁護士を雇い、その寄与分を否定し、さらに母親の財産を長男夫婦が浪費していたと主張しました。

3年間、裁判所で泥沼の争いとなり、結局、義母の面倒を見た寄与分を考慮するという形で、自宅のほかに長男が500万円もらう事で遺産分割は終わりました。

長男の妻は、義母が亡くなった悲しさに加え、身内で争う中であらぬ誹謗中傷を受け、心身ともに疲れはててしまいました。

相続人でない人に財産を渡すためには?

義父や義母を親身になって面倒を見ている方は少なくありません。

しかし、血がつながっていない以上、相続権はありません(※ただし、養子縁組をすると、実子と同じ相続権を持てます)。

亡くなってしまうと、相続人から蚊帳の外に出されてしまう事も少なくありません。

そんな時、感謝の言葉が残っていたり、少しでもよいのでお礼のお金を受け取ることが出来ると、本当に救われます。

相続人でない人に財産を渡すためには、

  1. 遺言書にその旨を記載する

  2. 生命保険金の受取人に指定する

のいずれかで、出来ます。

相続人だけではなく、家族やお世話になったすべての方に感謝の言葉を残し、場合によってはお金も残す事で、本当の笑顔相続を実現することが出来ます。

執筆者プロフィール : 小川 実

一般社団法人相続診断協会代表理事。成城大学経済学部経営学科卒業後、河合康夫税理士事務所勤務、インベストメント・バンク勤務を経て、平成10年3月税理士登録、個人事務所開業。平成14年4月税理士法人HOP設立、平成19年4月成城大学非常勤講師。平成23年12月から現職。日本から"争族"を減らし、笑顔相続を増やす為相続診断士を通じて一般の方への問題啓発を促している。相続診断協会ホームページのURLは以下の通りとなっている。

http://souzokushindan.com/