連載コラム「人に聞けない相続の話」では、相続診断協会代表理事の小川実氏が、その豊富な実務経験をもとに、具体的な事例を挙げながら、相続の実際について考えていきます。


【ケース12】

前の妻を亡くして10年が経ちます。

還暦を迎える今年、縁があって30歳年下の女性と再婚することになりました。

私の亡き後、私の財産は、すべて新しい妻に残したいと思っています。

前妻との間には、子供がいません。

私の両親はすでに他界しており、私より2歳上の姉と2歳下の弟がいます。

姉と弟は、比較的裕福な生活をしており、私の再婚を大変喜んでいましたので、特に私の相続で揉めるようなことはないと思いますが、何か準備をしておいた方が良いでしょうか?


【診断結果】

何の準備もしないで亡くなった場合、奥様と姉と弟で遺産分割協議

子供がいない場合の相続人は、配偶者と親又は兄弟姉妹となります。

あなたのご両親はすでに他界されているようですので、新しい奥様と姉と弟になります。 法定相続分は奥様が3/4、姉と弟が1/8です。

あなたが、何の準備もしないで亡くなった場合、奥様と姉と弟で遺産分割協議をすることになります。

10年後に亡くなったとすると、40歳の奥様と72歳の義姉と68歳の義弟が話し合いをする事になります。

財産の中に、先祖代々受け継がれたものがあったりすると、先祖のお墓を継ぐ事になりそうな義弟が引き継ぎたいというかもしれません。

あなたの亡き後、姉弟2人と年の離れた奥様が遺産分割の話し合いをして、関係がギクシャクするのはよくある事です。

「全ての財産を妻に相続させる」という遺言を残せば、すべて妻が受取ることが可能

「全ての財産を妻に相続させる」という遺言を残せば、兄弟姉妹には遺留分がないので、すべての財産を妻が受取ることが出来ます。

先祖代々受け継がれたものなど、特定の財産を姉や弟に指定し、「その他の財産はすべて妻に相続させる」と書く事も良いでしょう。

あなたの亡き後、姉弟2人と年の離れた奥様が遺産分割の話し合いをするというのは、容易な事ではありません。

遺言を残し、遺産分割の話し合いをしなくても良い環境を

遺言を残し、遺産分割の話し合いをしなくても良い環境を作っておきましょう。

兄弟姉妹は遺留分がないので、すべての財産を妻に相続させるという遺言を残せば、話し合いは必要ないですが、家が近かったり、あなたが長男であって他の兄弟姉妹と奥様との関係が続くようでしたら、財産の10分の1程度を、兄弟姉妹に渡すような遺言にしておくと「妻が独り占めした」と言われず、良好な関係を築けたりします。

生命保険を利用するのも良い方法だと思います。

本ケースとは違いますが、相続で一番揉めるのは、前妻の子供と後妻(及び後妻の子供)の遺産分割のケースです。

まともに話し合いが出来る方が少ないと思います。

母親が違う相続人がいたり、父親が違う相続人がいる場合には、必ず遺言書を残し、遺産分割の話し合いをさせないようにしましょう。

その際は、遺留分の減殺請求が起きないように遺留分に配慮しましょう。

遺産分割の話し合いが無ければ揉める事はありません。

究極の相続対策は、遺産分割の話し合いをさせない事。

遺言は、大切な家族への最後の愛情表現です。


12回にわたり、「人に聞けない相続の話」を連載させていただきまして、ありがとうございました。

勤勉な日本人には、自分を犠牲にして仕事をされる方がたくさんいらっしゃいます。

お金や名誉のためという部分もあるでしょうが、究極的には家族のために仕事をされていると思います。

その様な方が、お亡くなりなり家族が揉めてしまうと、家族のために自分を犠牲にして働き築いた財産で、大切な家族が揉める事になり、その人の人生が台無しになってしまいます。

その様な不幸を日本から無くすためには、想いの詰まった遺言を残す事がとても重要です。

このコラムを通じ、皆様に少しでもこの想いが伝わっていれば幸いです。

執筆者プロフィール : 小川 実

一般社団法人相続診断協会代表理事。成城大学経済学部経営学科卒業後、河合康夫税理士事務所勤務、インベストメント・バンク勤務を経て、平成10年3月税理士登録、個人事務所開業。平成14年4月税理士法人HOP設立、平成19年4月成城大学非常勤講師。平成23年12月から現職。日本から"争族"を減らし、笑顔相続を増やす為相続診断士を通じて一般の方への問題啓発を促している。相続診断協会ホームページのURLは以下の通りとなっている。

http://souzokushindan.com/