“ワンコインとちょっと”で味わえる、天国みたいな時間、それが銭湯だ――この連載では、毎週末の銭湯巡りを趣味とする街歩きライター・デヤブロウ氏が、都内&近郊の選りすぐり銭湯を訪ねて、湯の特徴や整うポイント、ちょい寄りスポットまでご紹介。今回は「山手線北側で巡る銭湯3選」
東京23区の中心部をぐるりと一周するJR山手線。東京駅、新橋駅、品川駅、渋谷駅、新宿駅、池袋駅などビッグな駅が目白押しで、東京の先端的なアーバンライフ像とも深く結びついた路線である。
一方、そうした路線全体のイメージに反して地味さが色濃いのが、山手線北側の鶯谷~大塚間だ。狭い範囲に台東区・荒川区・北区・豊島区が隣接するこの区間は、駅から少し離れると古い住宅地が広がり、他区間と比べて華に欠ける印象は拭えない。だがそれは、同時に再開発前の下町的な温かみを強く残した街だということ。落ち着いた雰囲気の中に、意外と多く散策・観光スポットを見かけられるのも良い点だ。
そうした地域には、下町風景のアイコンである銭湯も少なくない。当連載では以前に鶯谷駅周辺の銭湯を紹介したが、今回はそこから山手線内回りで日暮里駅・駒込駅・巣鴨駅から近い銭湯をピックアップする。「山手線の地味エリア」の魅力を再発見した後で、ぜひ訪れてみてほしい。
■2015年リニューアル、日暮里駅チカで温冷交代浴できる『斉藤湯』
台東区と荒川区の境目に位置する日暮里駅は、西側にある「谷中霊園」や「谷中銀座商店街」の最寄り駅として有名だ。近年では街のシンボルでもある大階段(夕やけだんだん)近くに新しいマンションが建って問題になったが、階段下のレトロな街並みは現在も高い人気を誇る。また、海外旅行などの際に日暮里駅から京成スカイライナーに乗り、成田国際空港に向かった経験のある人も多いだろう。
谷中と逆方向の駅東側は駅前が歓楽街、その先は荒川区の住宅街となっているが、その中にあるのが最初に紹介する銭湯『斉藤湯』である。1934年(昭和9年)に創業の老舗であり、1948年(昭和23年)に現在の場所に移転し、2015年(平成27年)に大規模なリニューアルで現在の姿となった。外見はマンション内銭湯であるが、入口には宮造り銭湯を想わせる三角の瓦屋根が設けられ、銭湯がリニューアルされる以前の面影を残している。のれんの上に飾られた、杉の一枚板による店名看板が見事だ。
フロント部分はまさに現代風の銭湯という、白く明るいインテリア。湯上がりに休憩できる椅子やテーブルもあり、注文すれば生ビールも飲める。浴室内も爽やかな白ベースであり、天井が高く、開放感はかなりのもの。窓の向こうには日本庭園風の植栽も見え、目を癒してくれる。設備は高濃度炭酸泉、寝風呂やジェットなどの浴槽、あつ湯、水風呂、そして露天風呂。サウナはないものの、あつ湯が43~44℃ほどあるため、温冷交代浴にも向いている。
露天風呂スペースは黒いタイルを貼って岩風呂風の雰囲気にしており、その中央にあるのは円型のシルキーバス。広さはそれなりにあるが、浴槽内のフチ部分に段差があるので、入る時は少し気をつけたい。
露天は外気浴スペースも兼ねている。体を拭いてから赤いプラスチック椅子に腰掛けて休んでいると、賑やかな日暮里エリアは思えない静かな時間が訪れるだろう。店舗のホームページでは「温度と泡を、ゆっくり巡る」「『長く入る』より『心地よく上がる』」という入浴方法も書かれている。長湯ガッツリ汗を流すよりも、体調や気分に合わせて無理なく入浴するのに向いた店舗だ。
『斉藤湯』:東京都荒川区東日暮里6-59-2/最寄駅:JR山手線「日暮里駅」から徒歩約3分/14:00~23:30(金曜休)/料金:入浴料600円、レンタルタオル20円(フェイスタオル)30円(バスタオル)/駐車場なし
■驚異の高コスパ! 駒込のレトロ商店街から直近の『香取湯』
日暮里駅から3駅先の駒込駅は、山手線内での乗車人数が下から5番目(2025年度)と、線内でもかなり地味な存在だ。しかし実は見どころが多く、駅北側には明治~大正期の建築家ジョサイア・コンドルの設計した「旧古河邸」、駅南側には小石川後楽園とともに江戸の二大庭園に数えられた「六義園」、大掛かりな書架が目を惹く「東洋文庫ミュージアム」がある。おしゃれな個人経営カフェも複数あり、意外と一日いて飽きない街なのだ。
駅北側に徒歩5分ほどの「霜降銀座商店街」も、細い通り沿いに多くの商店や飲食店があり、活気ある下町スポットだが、その近くにあるのが『香取湯』である。マンション内銭湯であり、南国風景をモチーフにした壁面レリーフが目印だ。店内はフロント・脱衣所・浴室と全体的にコンパクトで、所々に古びた箇所が目立つものの、よく維持管理されていて清潔である。
驚くべきは料金であり、なんとサウナ料金がたったの50円!レンタルタオルは20円、バスタオル50円であり、入浴料金600円と合わせても合計720円という圧倒的な安さだ。物価高・燃料高の影響により、サウナやレンタル料金込で1,100円~1,200円、またはそれ以上にもなる銭湯が珍しくないなか、香取湯は利用客にとって大変嬉しい価格設定である。
浴室内は天井がやや古びているものの、壁面や床面はピカピカに磨かれている。お湯の浴槽は1つのみで、部屋面積に占める割合が大きく、温度は42℃ほど。浴槽にはバイブラバス、壺型のボディマッサージ、両肩を上から強く押すショルダージェットを併設。とりわけボディマッサージとショルダーは圧強めで、しっかりと身体をほぐしてくれる。
水風呂は20〜21℃ほどで、ぬるすぎず冷やしすぎず、個人的にかなりちょうど良いラインであった。サウナは2段組でかなり小さく、3〜4人入れば満員となる。室温は92〜93℃程と少し高めだが、負荷はさほど高くなく、スローな室内BGMにゆったり耳を傾けながら汗をかける。
筆者が香取湯に行ったのは平日の夕方だったが、客層は地域のご老人がほとんどであった。客同士で顔見知りも多いらしく、所々から常連客同士の会話が聞こえてくる。夕方からは若い人もちらほら増え始め、この地域の雰囲気が見えてくる、地域密着型の銭湯だ。
『香取湯』:東京都豊島区駒込6-16-6/最寄駅:JR山手線「駒込駅」から徒歩10分/14:30~24:00(金曜休)/料金:入浴料600円、サウナ料金50円、レンタルタオル20円(フェイスタオル)50円(バスタオル)/専用駐車場あり
■高齢者タウン・巣鴨で愛される『宮下湯』
駒込の隣にある巣鴨は駅前アーケードや「巣鴨地蔵通商店街」「とげぬき地蔵尊」などの知名度が高く、今回のエリア内でもひときわ「渋い」街である。高齢者が多いことでも知られ、TVやメディアでは「おばあちゃんの原宿」などと度々プッシュされる。駅北側の霊園近くにスーパー銭湯「東京染井温泉 SAKURA」があり、露天風呂やサウナ・水風呂・外気浴が充実していることも要注目である。
今回はそちらの店舗ではなく、反対の駅南側にある銭湯『宮下湯』を紹介する。ここも古びたマンション銭湯だが、店舗があるのは地下1階。地上部分では古めかしい緑色の看板が「お肌に優しい軟水浴泉」「ゆったりのんびり銭湯してみませんか」「美容と健康にサウナもどうぞ」とこちらへアピールしてくる。看板に誘われて階段を下った先には店舗入口にも多くの張り紙があり、今日のお風呂の「じっこう湯」や、土日に行っている「ペパーミント」「よもぎ」「ハイビスカス」など変わり湯の案内をしていた。
白タイルで整えられた浴室内は、地下ながら天井が若干高め。カラン部分の一部はシャワーがホース式になっている。浴槽はバイブラ・寝風呂・座風呂を併設した大きな浴槽と、水風呂のみというシンプル構成。湯温は44℃と表示されているが、筆者の肌感覚ではそこまで熱い印象はなかった。
巣鴨という土地柄を反映してか、宮下湯の客層は地元の高齢者が大半。最近の巣鴨は従来のイメージから脱却するように店舗の入れ替わりも進んでいるが、その中でも宮下湯は、昔からの巣鴨の雰囲気を強く残す場所である。
『宮下湯』:東京都豊島区巣鴨1-30-2/最寄駅:JR山手線「巣鴨駅」から徒歩3分/15:00~24:00(木曜休)/料金:入浴料600円、サウナ料金200円(バスタオル、手ぬぐい付き)/駐車場なし
■日暮里にいた日本最後の「三助さん」
上記3店を通して印象的だったのは、いずれも客と銭湯、もしくは客同士で温かいやり取りが日々交わされている、地域コミュニティに根付いた店舗である点だ。今回の紹介エリアからは少し外れるが、日暮里駅からJR常磐線で1駅先の激渋タウン・三河島駅周辺も、7軒もの銭湯が営業する都内屈指の密集地である。都内で銭湯といえば大田区や台東区が有名だが、山手線北側もまた「昔ながらの銭湯」が元気な街である。
この古き良き銭湯文化を象徴していたものの1つが「三助(さんすけ)」だ。三助とはかつての銭湯で様々なサービスや雑務を仕事としていた人たちのことで、主に湯船の釜焚き・温度調整・風呂掃除(もしくは番頭)という「三」つの仕事を助けていたことから、三助と呼ばれたともいわれる。
三助は江戸時代中期から銭湯で見かけられるようになり、利用客の体を洗う(流し)サービスもあって、明治〜近現代まで長らく親しまれていた。その数も時代の流れとともに減少していき、最後の一人である橘秀雪さんが、最初に紹介した日暮里・斉藤湯で働いていたのだ。
橘さんは半世紀以上も三助として働いていた大ベテランだったが、高齢のため2013年に引退。それでも、橘さんを含む三助さん達がかつて愛し守っていた銭湯の風景・文化は、この街で今なお現役である。












