“ワンコインとちょっと”で味わえる、天国みたいな時間、それが銭湯だ――この連載では、毎週末の銭湯巡りを趣味とする街歩きライター・デヤブロウ氏が、都内&近郊の選りすぐり銭湯を訪ねて、湯の特徴や整うポイント、ちょい寄りスポットまでご紹介。今回は「露天風呂が個性的&スゴイ銭湯3選」


露天風呂の魅力といえば、何と言ってもその「開放感」に尽きる。湯船に浸かり、縁に首筋を置き、温かい湯のなかで身体がフワリと浮く感覚を味わい、何にも遮られない空を見上げる贅沢な時間。澄み切った青空を流れる雲、空が紫や群青に染まっていく夕方の色彩、月や星の見える夜空など、時間帯によって趣や表情が大きく変わる点も良い。

  • 今回は東京23区にある「露天風呂が個性的&スゴイ銭湯」を3つピックアップして紹介する

    銭湯看板の中に「露天」の字を見つけると少しテンションも上がる(写真は『アクア東中野(中野区)』

■純和風の露天スペースの奥にまさかの満喫風「隠し部屋」が? 清澄白河『辰巳湯』

東京メトロ半蔵門線と都営大江戸線が交わる江東区・清澄白河駅周辺は、整った低層の街並みが散策スポットとして人気である。『ブルーボトルコーヒー』日本1号店をはじめとしたモダンなカフェの数々、和の佇まいが色濃い『深川江戸資料館』と『深川資料館通り』、そして閑静で美しい「清澄庭園」内の風景。徒歩圏内には木場公園の『東京都現代美術館』もあり、上品で文化的な休日を過ごしたい時におすすめだ。

  • 清澄白河エリアの中心・清澄庭園

    清澄白河エリアの中心・清澄庭園

これらの散策後にぜひ訪れておきたいのが、清澄庭園や深川江戸資料館のすぐ近くにあるビル型銭湯『辰巳湯』である。1974年(昭和49年)から現在の建物で営業しており、2007年の大規模なリニューアルで露天風呂を設置、その後も設備や内外装の細かなアップデートを重ねている。2025年6月にリニューアルしたという外観は、モダンな入口部分の上に青と白のLEDライトで巨大な富士山を描いており、入店前からなかなかのインパクトだ。

  • 2025年に刷新されたロゴがモダンな辰巳湯

    2025年に刷新されたロゴがモダンな辰巳湯

  • 【写真】青と白のLEDライトで巨大な富士山を描いた印象的な外観も辰巳湯の特徴だ

    豪快さすらあるLED富士山

浴室内はビル型銭湯としては天井が高く、白く爽やかな室内のなかで、壁面奥にモザイクタイルで描かれた富士山がこれまた存在感強め。設備は浴室中央の大浴槽(ジェット座風呂・電気風呂・バイブラ寝風呂を併設)に6人用のサウナ、そして別室の露天スペースとなっている。とりわけ大浴槽は長身の男性でも手足をゆったり伸ばせるサイズがあり、湯温もちょうど良くてリラックス度はかなりのものだ。

辰巳湯の露天スペースには水深が浅めの水風呂と、お湯を張った露天風呂が備わっているが、その雰囲気は内湯と大きく異なる。浴槽や床面が石造りになっている一方で、壁面は木の柱と梁を活かした黄色い土壁で、木質の天井や和風の照明も相まって旅館のような雰囲気だ。窓の外には日本庭園のような植栽も配置され、清澄エリアの閑静さもアクセントにして、遠方の温泉地を訪れたかのような錯覚すら覚える。

しかも辰巳湯がスゴイのは、この露天スペースの庭園の向こうに「隠し部屋」のような休憩所があることだ。この部屋のインテリアも男女で違うのだが、男湯の方は室内中央にととのい用の長椅子が配置され、その左右をマンガ本の棚が挟んでいる。サウナや温冷交代浴の後、水風呂でキュッと締めた身体をタオルで拭き、休憩がてら全裸でマンガを読んでから再びサウナへ……という、辰巳湯以外では滅多にできない楽しみ方も可能である。

  • 名物の露天風呂は看板でもアピール

    名物の露天風呂は看板でもアピール

ところで、辰巳湯は脱衣所や浴室など、室内構造の所々が男湯と女湯でかなり異なる。特に男湯の脱衣所は白い壁に明るい色の木床が爽やかながら、部屋内に耐震補強用の鉄骨が大きく張り出しているのが特徴だ。一見すると無骨で突飛な造りにも思えるが、実はこの地域は『旧東京市営店舗向住宅』『清州寮』など、関東大震災以後に造られた堅牢な「復興建築」が今も多く現存している。脱衣所の鉄骨も、それらに雰囲気が近い。露天スペース~隠し部屋の和風な趣向も清澄庭園などに通ずる所があり、一見するとユニークながら、実は清澄白河の歴史と深くつながった銭湯である。


『辰巳湯』:東京都江東区三好1-2-3/最寄駅:都営大江戸線「清澄白河駅」から徒歩2分/平日14:00~24:00、土日祝11:00~24:00(月曜休)/料金:入浴550円、サウナ料金500円/駐車場なし


■広大な露天風呂の先にある「どんぶり」とは? 奥浅草『天然温泉 湯どんぶり 栄湯』

台東区の人気観光スポット、浅草寺。そこから言問通りを挟んで北側に広がる、いわゆる「奥浅草」エリアも近年の注目度が高まっているが、その一部については奥浅草でなく「吉原」と呼んだ方がピンとくるかも知れない。過去には江戸幕府公認の『吉原遊廓』として多くの遊女達に辛い境遇を強いた場所だが、一方で華やかな江戸文化・流行の発信地でもあり、2025年にはNHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』の舞台としても大きな話題となった。

  • 吉原の入口には現在も吉原大門跡を示す柱が立つ

    吉原の入口には現在も吉原大門跡を示す柱が立つ

また、吉原を含む奥浅草エリアには『堤柳泉』『鶴の湯』など良質な銭湯が多く、サウナーや銭湯好き界隈でも注目されている。その一軒が吉原大門からすぐ近くの『天然温泉 湯どんぶり 栄湯』だ。その店名のとおり、お風呂で使用されているお湯は全て天然温泉の軟水、それも「美肌の湯」として知られるメタケイ酸の泉質である。開業は日本国内の銭湯軒数がピークであった1968年(昭和43年)。2017年に前面リニューアルし、2024年にはサウナを最新設備にするなど、前述の辰巳湯と同様に断続的な改修と設備強化を重ねている良店だ。

  • 湯どんぶり栄湯の入口は夜でも明るい

    湯どんぶり栄湯の入口は夜でも明るい

ビル型銭湯ながら白タイルの浴室内は天井が高く、印象は宮造り銭湯に近い。内湯の設備が大変に充実しており、ミクロバイブラ・電気風呂・ジェットエステ・座風呂・薬湯・炭酸泉と、ここだけでも相当な満足度である。とりわけ特徴的なのは炭酸泉で、店舗特有の天然温泉に医療用レベルの超高濃度炭酸を溶け込ませ、しかもマグマ由来の「麦飯石(ばくはんせき)」を湯船に使用して酸素濃度までアップという贅沢さ。特濃炭酸・酸素・温泉成分のトリプルパンチで心身を十分にほぐしてから露天スペースに行こう。

  • 昼間に見るとかなり無骨な印象

    昼間に見るとかなり無骨な印象

ここで更に驚かされるのは、内湯だけでなく露天部分も設備が多く、しかも広いことだ。栄湯の名物・大露天風呂は十人程度なら楽に脚を伸ばして入れるほどの面積があり、しかも天然温泉に白いナノファインバブル(超微細泡)を溶け込ませて健康効果を高めている。いわゆる「シルク風呂(シルキーバス)」なのだが、それをこれだけの規模で設置している銭湯は稀である。

さらに大露天風呂の奥には1人用の釜風呂(どんぶり湯)を2つ設置。大露天風呂の白い湯をかき分けて奥に進み、どんぶり湯にザブンと沈んでみれば、どんぶりから滝のように湯がこぼれる様子が目と耳を楽しませてくれる。露天スペース全体は辰巳湯と同じく岩風呂+和風テイストだが、あちらが上品でこじんまりとした隠れ家風ならば、湯どんぶり栄湯の方は下町らしくあけっぴろげな江戸っ子らしさが魅力だ。

  • 湯どんぶり栄湯と東京スカイツリー

    湯どんぶり栄湯と東京スカイツリー

おまけに露天スペースには細かな泡で肌をキュッと冷やす美泡水風呂もあり、もう一つおまけに最新ストーブ設備を導入したフィンランド式サウナまである。屋外部分だけでもサウナ・水風呂・外気浴のルーチンや、サウナを使わない温冷交代浴でも周回できるという、物凄いサービス精神だ。どことなく、昔懐かしの定食屋で店主が「コレも食ってきな!」と一品サービスしてくれるような印象にも近い。吉原遊郭が無くなって以降の、庶民的な生活や賑わいの場となった奥浅草の気配が色濃い湯処である。


『天然温泉 湯どんぶり 栄湯』:東京都台東区日本堤1-4-5/最寄駅:東京メトロ日比谷線「三ノ輪駅」より徒歩10分/平日・土曜14:00~23:00、日祝12:00~23:00(水曜休)/料金:入浴550円、サウナ料金600円/専用駐車場あり(2台分)


■露天風呂のすぐ近くをゴウゴウと電車が通過! 設備も充実の中目黒『光明泉』

東京メトロ日比谷線に乗っていると、終点の名前として目にすることが多い目黒区・中目黒駅。日比谷線に加えて東急東横線も乗り入れており、駅周辺は若年層向けからシニア向けまでセンスの良い飲食店・カフェ・ショップが集まるオシャレな街というイメージだ。特に目黒川沿いは桜の名所としても有名で、お花見シーズンともなれば大勢の人々が見物に詰めかけ、お祭りのような状態になる。

  • 中目黒のお花見は大混雑ぶりがニュースになるほど

    中目黒のお花見は大混雑ぶりがニュースになるほど

そんな中目黒駅から目黒川を渡ったすぐ先にあるのが『光明泉(こうめいせん)』だ。創業は湯どんぶり栄湯に近く、銭湯業界のピーク時期にあたる1970年(昭和45年)。平成期の1995年にビル型銭湯となり、2014年に有名建築家・今井健太郎氏の設計でリニューアル。道路から2階入口に向かう途中の階段外壁には、湯浴みをする女性たちの絵が描かれている。

  • リニューアルから10年以上経つが、今風でアートな雰囲気は今なおトップクラス

    リニューアルから10年以上経つが、今風でアートな雰囲気は今なおトップクラス

光明泉は男湯と女湯が金曜日に週替わりとなっており、筆者が訪れた時は露天風呂のある方であった。脱衣所はナチュラルテイストながらシャープな雰囲気で、ロッカーに渡り鳥の墨絵のようなアートが施されている。浴室内は壁面にベージュのタイル、浴槽内には水色のタイルが貼られ、間接照明やスポット照明の効果もあって暖かく安らかな雰囲気だ。壁面の一部には店名どおりの「光明」をイメージしたような、光り輝く天空世界と富士山のペンキ絵。外観・脱衣所・浴室内とアーティスティックな銭湯である。

  • こちらの看板にも露天風呂と書かれている

    こちらの看板にも露天風呂と書かれている

浴室内の設備は38℃の炭酸泉と、ジェットや座風呂のついた42℃の高温風呂。オーストリア産のバドガシュタイン鉱石を使った人工ラジウム泉をお風呂全体で使用しており、水の肌触りがとても柔らかい。サウナは2段で室温もそこそこ高く、コンパクトな面積だが息苦しさはない。木板と白い煉瓦風タイルを組み合わせた明るい内装もあって、ゆったり寛いでいられる。一方の水風呂は14℃前後でかなり冷たいが、水の柔らかさもあって慣れれば負荷も軽い。浴槽・サウナ・水風呂と総じて優しめの調整だ。

そして、浴室奥にある扉をくぐって階段を上った先が露天風呂。湯温は40℃前後で、湯船の縁には黒いタイル、浴槽内には白タイルを使用し、そこにスポット照明が当てられて非常にモダン&シャープな印象である。湯船の周りは木塀に囲まれ、頭上を見上げれば中目黒の空が見える。ととのい椅子も3つあるので外気浴にも便利だ。

  • 光明泉のすぐ横を通り過ぎる日比谷線の電車

    光明泉のすぐ横を通り過ぎる日比谷線の電車

光明泉の露天スペースは設備・設計こそオーソドックスだが、そのすぐ横を日比谷線や東急の列車が通り過ぎることが特徴的である。木塀で隔てられているので電車の窓から見られることはないが、電車通過のたびに響くゴウゴウとした音はかなりのもの。しかし、それが木塀で拡散するおかげか不思議と煩わしくなく、むしろ中目黒の賑わいがすぐ近くにあるというアーバンスタイルの演出に一役買っている。光明泉は洗い場がやや狭い点を除けば、露天風呂も含めて設備全てが高水準。若年層の人気も高く、今風の銭湯を代表する店舗の一つである。


『光明泉』:東京都上目黒1-6-1/最寄駅:東急東横線「中目黒駅」から徒歩3分/15:00~25:00(不定休)/料金:入浴550円、サウナ料金300円(大小タオル付)/駐車場なし


■何でもアリの露天風呂&露天スペースに「絶対ない」設備とは?

以上、露天風呂が個性的な銭湯3軒を紹介したが、この他にも東京都内には魅力的、もしくは個性的な露天スペースを設けている銭湯が豊富だ。特に『黄金湯(墨田区)』や『深川温泉 常磐湯(江東区)』など、近年リノベーションした店舗は露天風呂にも力を入れていることが多いので、あちこち巡りながら比べてみると良い。

ところで、銭湯の露天スペースには様々な種類の風呂・外気浴スペース・サウナなど様々なものが置かれるが、ひとつだけ「銭湯には不可欠だが屋外には絶対に置かれない設備」がある。それが何か、お分かりになるだろうか。

答えは「洗い場」である。これは冒頭の条例で、屋外に浴槽を設ける条件として「屋外には、洗い場を設けないこと」と定められているためだ。仮に屋外に洗い場を作ってしまうと、身体を洗う時の水滴・垢・石鹸泡など微粒子が銭湯の外へ飛散したり、逆に外から吹き込んだ土埃や微生物が洗体中に付着したりする可能性がある。そうした公衆衛生上のリスクを避けるための措置と思われる。

  • 東京の銭湯には、意外に露天風呂が多い(写真は『第三玉乃湯(新宿区)』

    東京の銭湯には、意外に露天風呂が多い(写真は『第三玉乃湯(新宿区)』

2020年以降のコロナ禍の中でも、銭湯(一般公衆浴場)は公衆衛生維持の観点から自粛要請が出されなかった。このように、銭湯の内湯は癒しや健康づくりだけでなく、本来は市民の衛生管理の場としての性格も強い。一方、露天スペースは衛生面の目的から少し離れて、リラクゼーション用として特化した場所と言える。銭湯は一つの店舗内で、法律的に用途や制限が違った空間を合体させているのだ。