今、毎日のようにワイドショーを賑わせているニュースといえば、セクシャルハラスメント。セクハラをきっかけに、地位や信頼を失ってしまった著名人は数知れない。しかし、これは決して他人事でなく、私たちの『職場』でも起こりうること。この連載では、日本最大級の社労士事務所「大槻経営労務管理事務所」の薄井崇仁氏に解説してもらい、『現代のセクハラ』に迫る。第三回は「セクハラのボーダーライン」。

  • セクハラのボーダーライン

これってセクハラ? セクハラじゃない?

「どんなことをすればセクハラになるの??」「こんなことまでセクハラになっちゃうの??」。現代のセクハラにはさまざまなケースがあり、その時々で判断が異なってきます。白黒はっきりつけることが難しいため、頭を悩ませている人も多くいるでしょう。ここでは、今知っておいてほしいセクハラのボーダーラインについて紹介していきます。

【職場の飲み会で女性の体を触る】
セーフorアウト……×(アウト!!)

セクハラ問題が最も発生しやすいシチュエーションは、お酒の席です。男性上司が酔った勢いで、女性社員の肩に手を回してデュエットしたり、手を握ったりするといった光景を目にしたことがある人もいると思いますが、女性の体に触れる行為は、セクハラと認定される可能性が非常に高いです。

「酔っていたから憶えていない……」「つい気が緩んでしまって……」では済まされないこともあります。職場の飲みニケーションにスキンシップは必要ないのだということを憶えておきましょう。

【ハートマークの絵文字やラインスタンプを送る】
セーフorアウト……△(グレー!!)

LINEやツイッターなどのSNSは相手が見えていない分、誤解を生んでしまう可能性があります。以前、ある情報番組では、LINEの公式キャラクターのウサギとクマがハグしているスタンプを送るのはセクハラと疑われる危険性があると報じていました。

男性から女性へメールを送る際に「文字だけだとそっけないし、かわいいから」といった気遣いで絵文字やスタンプを送信したつもりが、相手から「好意を持たれている」「恋愛の意思表示」とあらぬ誤解を招いてしまうこともあります。特に男性上司が女性部下とメールでやり取りする際の内容は業務連絡にとどめ、プライベートなことや絵文字、スタンプの送信などセクハラと疑われる可能性のある行動は避けるように心掛けるべきでしょう。

【女性の身に着けているものや持ち物を褒める】
セーフorアウト……○(セーフ!!)

褒められて嫌と感じる人は少ないと思います。「このバック素敵ですね」といった持ち物や身に着けている物を褒めること自体はセクハラにはあたりません。ただし、「このバックかわいいね、誰にもらったの? 彼氏?」「そのスカート素敵だね。足がすごくきれいに見えるよ」といった発言は、相手に不快感を持たれてしまうおそれがあります。褒め方や褒める物については、注意が必要です。

【LGBTに対する性差別的な発言】
セーフorアウト……×(アウト!!)

「LGBTをネタにして笑いをとる」「男(女)のくせにといった発言をする」など性的少数者に対して差別的ととられるような発言もセクハラにあたります。厚生労働省が示したセクハラ指針が改正され、性別問わず、性的少数者に対しても職場においてのセクハラ対策が必要であると追加されています。

カミングアウトしたら、職場内で言いふらされた。嫌がらせをされた。あるいは解雇されてしまったというケースも存在するため、職場でのカミングアウトはハードルが高い状況にあります。職場の中にはカミングアウトできずに、悩んでいる人がいるかもしれませんので軽はずみな言動には注意すべきでしょう。

【女性の露出の多い服装】
セーフorアウト……×(アウト!!)

女性の胸元の大きく開いたカットソーや異常なぐらい短いスカートなど、露出の多い服装は、逆セクハラとなる可能性があります。「男性であれば誰でも喜ぶだろう」と勘違いをしている人もいますが、興味のない女性の場合、逆効果となります。また、男性は、常に視線の先を気にしなければならないため、業務に支障をきたしてしまうといったこともあるかもしれません。

もちろん、男性も同様です。シャツのボタンを大きく開けて肌を露出させたり、上半身がくっきりと透けるほどの薄着を着たりする人がいますが、女性をはじめ、周囲を不快にさせます。TPOをわきまえた身だしなみを心掛けましょう。

相手や状況によってボーダーラインは変わる

以上、セクハラのボーダーラインについて紹介しましたが、明らかにアウトなものから、相手の受け取り方によってアウトとなるものもあります。同じ行為でも、受け手の感じ方や状況などケースバイケースでボーダーラインが変わってしまうのです。

また、近年では、男性から女性へのセクハラだけでなく、女性から男性への逆セクハラや同性間のセクハラ、性的少数に対してのセクハラにも関心が向けられるようになりました。性別問わず社会で働く人一人一人が、セクハラに対する意識と知識を持つことが重要になります。

一方で、最近のセクハラのボーダーラインが厳しすぎるといった意見もあります。何でもかんでもセクハラになるんだといった過剰反応が、職場の必要なコミュニケーションまで阻害されてしまうといったことも懸念されています。

筆者プロフィール: 薄井 崇仁

大槻経営労務管理事務所 人事BPO事業部 執行役員。2007年の入所後、大小様々な規模のクライアントの労務相談およびアウトソーシング業務を担当。その後従業員からの問い合わせに直接対応する「社労士ダイレクト」事業部に配属。現職では、執行役員としてクライアントに対し総合的なアウトソーシングサービスを提供しており、人事BPOサービスの開発にも積極的に取り組んでいる。労働環境に様々な変化が起きている現在、企業にとってベストは何かを考えて課題解決へと導く。丁寧なヒアリングをモットーにクライアントのチャレンジを全力でサポートしている。