今、毎日のようにワイドショーを賑わせているニュースといえば、セクシャルハラスメント。セクハラをきっかけに、地位や信頼を失ってしまった著名人は数知れない。しかし、これは決してひと事でなく、私たちの『職場』でも起こりうること。この連載では、日本最大級の社労士事務所「大槻経営労務管理事務所」の薄井崇仁氏に解説してもらい、『現代のセクハラ』に迫る。第二回は「社労士に聞いた、現代のセクハラ事件簿」。

現代のセクハラ事情

官僚の女性記者に対するセクハラ行為や、陸連理事の女性アナウンサーに対するセクハラ発言が、連日報道を賑わせています。しかし、これらのような『誰が見ても明らかにアウト』といった典型的なセクハラは少なくなっているように思えます。

最近のセクハラは、本人が無意識のうちにしてしまっているという傾向にあります。「そんなつもりはなかった……」。セクハラ加害者に事実を伝えたときに口を揃えて言うセリフです。そんな自覚のないセクハラが急増している現代のセクハラ事例を3つ紹介しましょう。

ケース1:え? 何で俺だけ!

IT関連の会社に勤めているYさん(40歳既婚者)とA子さんは、社内のプロジェクトチームのメンバー同士。見た目が少し派手なA子さんは、よく他の女性社員と「A子さん、今日も気合入っているわね?」「そうなの、これからお医者さんと合コンなの」とか「夜はいつもの社長さんと同伴なの」なんて会話をしており、それを見てYさんは、(A子さんはいじられキャラだな)と思っていた。

プロジェクトを初めて3カ月ほど経過した頃、Yさんは突然、部長から呼び出される。部長から「A子さんから、Yさんにセクハラを受けているという相談があったんだが……」と言われ、Yさんは耳を疑った(自分がセクハラ?? 何のことだ?)。

A子さんの言い分はこうだ。Yさんが「今日は合コンの日?」「夜の出勤はないの?」と毎日、いじってくる。それが不快でたまらない……。Yさんに身に覚えはあったが、(ギャグだし、笑っていたじゃないか。何より他の社員にも同じようなこと言われているのに、なんで俺だけ……)と納得がいかなかった。

結局、Yさんは指摘を受けるのが初めてということもあり、部長からの指導に止まり、処分は免れました。Yさんの(この人ならこのぐらい言っても大丈夫だろう)という一方的な思い込みが招いた結果でした。Yさんは相手が不快に思うかどうかを忘れてしまっていたのです。

ケース2:あんたに言っていない!

新卒入社のH君とM子さん、同じ部署で席が隣同士ということもあって、昼休みは、たわいもない話をしながらランチをとることが多かった。

ある日突然、H君が課長に呼び出された。「H君が社内でセクハラ発言を連呼していると報告が来ているぞ!」。身に覚えのないことだった。

H君は、何のことだ? 僕は入社して間もないし、そんなこと言う相手もいないのに……。そう思っていると、課長は「君は、昼休み中にM子さんに対して胸が小さいと言ったり、男性の経験人数を聞いたりしているそうじゃないか。どうなんだ?」。それに対しH君は、「はい、たしかに、雑談の中でそういうことを言ったことはありますが、M子さんとは何でも話せる間柄ですし、彼女は嫌だと思ったことははっきり言いますので、僕の話がセクハラだなんて思わないはずです」。

そう答えた直後に課長の口から思いもよらない一言が……。「セクハラの報告があったのは、M子さんじゃない、君の向かいの席のNさんからだ」。それを聞いたH君は愕然とした(何で、関係ないNさんが……)。

昼休みに聞こえてくるH君の子どもじみた下ネタトークに、Nさんは毎日苦痛を感じており我慢の限界に達して、課長に訴えたそうです。このような、当事者ではなく第三者がセクハラ被害を訴えるケースもあります。

ケース3:会社で恋して何が悪い!

とある日、中途採用で入社したばかりのS美さんが朝礼で挨拶をしていた。そんなS美さんに、一瞬にしてハートを奪われたベテラン社員のOさん(45歳独身)。これは人生最大のチャンスだと思い、すぐさまアプローチを開始。「何かこまったことがあったら、なんでも相談してよ」。S美さんにそう声をかけた。その後も、仕事の相談に親身に乗るなど、親切に接した。そんな日頃の努力が実りLINEを交換することにも成功した。

ここまではS美さんも優しい先輩だなと感じていたのだが、Oさんは、LINEを交換したことにより、総攻撃を開始する。S美さんのもとには毎日のように、食事やデートの誘いのメッセージが届くように。それは、日を追うごとにエスカレートし、既読になるまで同じメッセージを送り続けたり、既読スルーすると通勤時に待ち伏せをされたりといった、ストーカーまがいのこともされるようになった。

S美さんは仕事が全く手につかない状態までに病んでしまい、それに気付いた同僚が、上司へ報告し、Oさんの一連の行為が発覚した。

その後、Oさんは直属の上司に呼び出されて厳重注意を受けましたが、その際に上司に対して「何がいけないんですか。私は本気なんです」「私の恋愛を邪魔しないでください」といって自分のセクハラ行為を認めなかったそうです。

最近は「新型セクハラ」が急増中

近年は、「そんなつもりはなかった」といった思い込みによるものや恋愛感情などの妄想によるものといった、いわゆる「新型セクハラ」が急増しています。新型セクハラの厄介なところは、前述のとおり、加害者側に「セクハラをしている認識がない」ということです。

「そんなつもりはなかった」「相手も楽しんでいると思っていた」といった身勝手な思い込みや誤った接し方は、時として大きなセクハラへと発展してしまうことがあります。職場には、さまざまな人が存在し、それぞれに考え方・感じ方が異なるということを認識したうえで行動をすることが重要でしょう。

筆者プロフィール: 薄井 崇仁

大槻経営労務管理事務所 人事BPO事業部 執行役員。2007年の入所後、大小様々な規模のクライアントの労務相談およびアウトソーシング業務を担当。その後従業員からの問い合わせに直接対応する「社労士ダイレクト」事業部に配属。現職では、執行役員としてクライアントに対し総合的なアウトソーシングサービスを提供しており、人事BPOサービスの開発にも積極的に取り組んでいる。労働環境に様々な変化が起きている現在、企業にとってベストは何かを考えて課題解決へと導く。丁寧なヒアリングをモットーにクライアントのチャレンジを全力でサポートしている。