ヒルクライムという自転車で山を登り、そのタイムを競うというスポーツがあります。山を登る苦しさと、頂上まで登れたという達成感、空気、景色は格別で、土日は良く山岳に出かけていました。

  • ヒルクライムから学ぶ、単なるプレイヤーからの脱出方法

    仲間と一緒に筑波山にヒルクライム(ヒルクライムには、Bianchi Specialissima+ハイペロンという軽量ホイール)

今は、スタートアップ経営が忙しく、山まで行く時間が惜しく、平地での活動に重心を移してしまいましたが、でも、あの苦しさと、達成感は本当に得難い経験だと思っています。

  • ヒルクライムでは、この絶景がご褒美。やめられません

ヒルクライムを速く走るには「パワーウェイトレシオ」という指標がとても重要になります。簡単に説明すると、以下のようになります。

パワーウェイトレシオ=自転車を漕ぐパワー/(自分の体重+自転車の重量)

私は、自転車を漕ぐパワーが280W で、体重67kg+自転車の重量6.5kgで、パワーウェイトレシオが3.8w/kgになります。1kg当たり3.8Wで支えている事になり、この値が高いほど、1kgを支えるパワーが大きいことになるため、山を登るのに有利になります。つまり、ヒルクライムでは自分の体重を軽くする必要がありますし、自転車も軽い仕様にすることが、速く走る秘訣になります。

一方、平地での高速長距離巡行(仮にトライアスロンのような平地高速巡行としましょう)では別の指標が重要になります。それは、FTP(Functional Threshold Power)、直訳すると機能的な閾値(いきち)のパワーになります。自分が1時間出力し続けられる限界のパワーであり、持久力を見るための指標です。この値が高いほど、ずっと高速で巡行し続けることができるのです。

このように、競技の目的によって「重視する指標」が違います。ヒルクライムでは速くても、平地の高速巡行で速いとは限りません。むしろ平地では、ある程度の体重やバイク重量が重い方が、高速巡行を維持することに長けています。結果を出すための「指標」が逆、つまりヒルクライムから平地への転向は、やる事も機材をも全く変えることになるのです。

  • 平地巡行用の愛機 サーヴェロS5 DHバー

この「重視する指標の違い」をビジネスに置き変えて考えてみましょう。

ヒルクライム=プレイヤー、タイムトライアル=マネジメント

プレイヤーとして重視していた指標(個人の営業目標の達成等)は、マネジメントで重要視する指標(組織目標の達成等)とは異なります。この違いを認識せずに、マネジャーになって苦しんでいる人が多いと思いますし、自分もかつてはそうでした。プレイヤーが重視する指標は「個人の結果の大きさ」ですが、マネジャーが重視するべき指標は、「メンバー全員の結果の総量」になります。マネジャー自身が個人でがんばるだけでは、メンバーの目標が達成できず、結果その組織のモチベーションは継続できません。よってマネジャーは、メンバーが結果を残せるように個々の能力を高め、チームとしての結果の総量を大きくする必要があるのです。

このようにプレイヤーとマネジャーの重視する指標は全く異なります。マネジャーやチームのリーダーを目指す人は、「メンバーに結果を出させるための指導力」や「チーム全体が目標を追いかける姿勢づくり」などの力量が求められるようになります。それはつまり、プレイヤーとして登ってきた山とマネジャーが登るべき山が違うということです。よって、これまでのやり方を変える必要があります。これまでのやり方や指標の延長上には、成果は生まれないということを受け入れ、異なる「指標」で自分の力量を見る事です。これに気づくことができれば、単に個人として結果を出す人から、チームで結果を出せる人になることができます。そうすることで、1人では成し得えないような大きな目的や目標を達成することができる人になっていけるのです。