前回に引き続き、特別編です。今回はしまなみ海道をライドした中での気づきをお伝えします。連休という事もあり、尾道駅近くのフェリー乗り場には沢山のサイクリストが集まっていました。

  • 朝日を見ながら、さあ70kmの旅がスタートします

今回の旅は「COLNAGO」というブランドのロードバイクに乗る人たちだけの特別なツアー企画で、宿のオーナーが同行し、コースやスポットを案内してくれました。同じブランドのロードバイクに乗っているというだけで話も弾みますし、今日会ったばかりの人同士があっという間に「仲間」になっていました。

ロードバイクを愛し、同じブランドを愛しする者たちが、「しまなみ海道」を走る。本当に夢のような時間になりました。

島の各所には「自転車にまつわる神社」があったり、写真スポットには「サイクリストの聖地」と刻まれていたり、様々な仕掛けがあります。橋に向かう道も自転車で登れるようになっていたり、橋も自転車と自動車が別に走れるように設計され、本当にサイクリストのための道、コースになっているのです。

ここまでこだわりを持って作られたコースは初めてです。まさにサイクリストを喜ばすため、サイクリストを呼び込むために、県、市、町、村をあげて作られたのが「しまなみ海道」のコースだと分かりました。

単なる自転車観光スポットでもなく、しまなみにある景色、文化、人々に触れ、そこに集うサイクリスト達と感動を分かち合い、愛車と一緒にゴールを目指す。そして、最後に70キロを共に走破したという達成感が待っている。スポーツと観光体験が本当に上手く融合している所に、このしまなみ海道の素晴らしさがあると思いました。

ビジネスで例えると、これぞ完璧な「カスタマージャーニー」。現地に住む人やそこで出会うサイクリスト達も旅の体験感動を高める存在であり、その体験全体が「しまなみ海道」なのだと思えるのです。

私たちを取り巻くビジネス環境は、複雑さを増しています。既にモノは溢れており、メルカリに代表されるようなCtoCと呼ばれる「個人間取引」でお金を得る事も、お気に入りの商品を得る事もできてしまいます。「モノを売る」ということは、本当に難しくなってきていると思うのです。なので、お店でモノを買ってもらったり、食事をしてもらったりするには、今までとは違った仕掛けが必要になります。

それが「カスタマージャーニー」と呼ばれるマーケティング施策です。顧客の行動・思考・感情を見える化し、どの接点でどんなメディアを使って、どんな施策をうち、どんな体験や経験を提供することで、最終的に購買に至るまでのプロセスをあらかじめ設計しておくことが重要になっているのです。

また顧客との接点を担うHPやアプリから、実際の店舗、スタッフまで全てが顧客に対する「メディア」となり、UI(ユーザーインターフェイス)/UX(ユーザーエクスペリエンス)※がとても重要になるのです。

※UI:ユーザーがPCとやり取りをする際の入力や表示方法などの仕組み/UX:サービスなどによって得られるユーザー体験

今、様々な事業や仕事に、この「カスタマージャーニー」と「UI/UX」の考え方が導入され、サービス全体の再設計が行われています。

しまなみ海道のUIは道路、橋、駐車場、食事や観光スポット、フェリー、駅といったあらゆる施設や場所にサイクリストにとって最適な機能が施されているところであり、UXはそのスポットでの体験や地元の人、集うサイクリストや観光客とのふれあいが私たちにとって最高の経験となるように設計されていると思うのです。それが日本各所にサイクリストのためのコースはたくさんありますが、しまなみ海道が「またもう一度来たい場所」として友人に紹介され、日本で一番サイクリストを集められる別格の観光スポットになった所以だと思いました。

2回に渡り、しまなみ海道編を書いてきましたが、こだわりや愛を持って仕事をすることの重要性であったり、カスタマージャーニーの発想で、海道全体の体験をデザインすることであったり、ビジネスに通用できる様々な視点を得ることができたと思います。

読者の皆さんも、このような視点を持って、観光やサービスを受けてみてはどうでしょうか。