路面電車によって街に活気が出た。そんなうれしい事例が富山市で起きている。コロナ禍で景気が落ち込む中、富山市の基準地価が対前年比で0.2%の上昇となった。小さな数値だが、全国的に景気か落ち込み、とくに金沢市と福井市の基準地価が下落する中で、富山市の上昇は目立つ。その理由が今年3月21日に完成した「路面電車南北接続事業」だという。

  • 富山駅周辺は、路面電車の南北直通運転開始で活気づいている

日本経済新聞電子版は9月29日から3日間、「点検・基準地価」という企画記事を上・中・下の3回にわたって掲載した。

9月29日は金沢市編で、基準地価は対前年比で下がった。JR金沢駅周辺の下落率は2.9%、古い街並みを残す「ひがし茶屋街」周辺は6.0%の下落。北陸新幹線開業時は約20%の上昇率だったものの、新型コロナウイルス感染症の拡大によって観光客が落ち込んだ。繁華街では空きテナントも目立ち始めた。

10月1日は福井市編で、2023年春の北陸新幹線敦賀延伸を前に再開発が進むものの、商業地、住宅街ともに1.7%の下落となった。北陸新幹線延伸時の金沢市のような盛り上がりが期待されたが、新型コロナウイルス感染症に冷や水を浴びせられた格好だ。

一方、9月30日の富山市編では、わずかながら増加していた。日経記事によると、その背景には富山駅南北で相次ぐ開発計画があるという。南口にJR西日本や外資系のホテル、北口には文化施設やオフィスなどの複合施設の建設計画があるとのこと。ただし、日経記事は見出しで、「富山市『5年遅れ』の新幹線効果」と紹介している。

北陸新幹線が金沢駅まで延伸開業した2015年当時、富山市は金沢市の活気に比べて影が薄かった。その理由として、駅周辺の開発計画が間に合わなかったことが挙げられる。たとえば並行在来線「あいの風とやま鉄道」の富山駅周辺立体交差事業の完成は2019年で、北陸新幹線富山駅開業の4年後だった。

富山駅周辺地区の土地区画整理事業も、南口は北陸新幹線の駅より1年遅い2016年に完成した。西口は2021年、北口は2022年の完成をめざして工事中となっている。そんな中、富山ライトレールと富山地方鉄道の路面電車が富山駅高架下で接続され、両社の合併後、2020年3月から直通運転を開始した。

  • 富山駅北口は開発中。手前が旧富山駅北電停跡地。奥はバスロータリーなど交通広場を建設中

つまり、富山駅周辺はようやく開発の準備が整って、周辺にビルや商業施設を建設できるようになった。だからいまになって不動産の価値が上がっている。しかし、本来は金沢市のように20%近い地価の上昇があってもよかった。それが約2%になった。本来あるべき価値になっていない。だから近隣都市に比べてプラスといえども、手放しでは喜べない。

ただし、これは新型コロナウイルス感染症の影響によるから、収束あるいは「ウイズコロナ」の新しい生活様式の中で、本来の価値を取り戻すだろう。

■「鉄軌道王国とやま」はさらに魅力アップ

「Go To トラベルキャンペーン」や、JR東日本の「えきねっとお先にトクだ値」の割引率拡大をきっかけに、ようやく旅行を奨励する気運が盛り上がりつつある。そこで筆者も富山駅を訪れた。本当は4月に訪れるつもりだった。約半年も延期したことになる。

結論から言えば、富山駅は鉄道ファンにとって楽しい駅になった。北陸新幹線のホームは在来線ホームより少し高い位置にあり、あいの風とやま鉄道とJR高山本線の列車が行き交う様子がよく見える。

高架下にある路面電車南北接続部の富山駅電停も、路面電車が次々と現れては通り過ぎ、または折り返していく。通路を挟んで南側と北側にホームがあり、どちらも複線の線路の間とその両側にホームを設けている。つまり6面2線という珍しい配置だ。線路は2本しかないのに、のりばは1番から8番まである。一体どんな風に使い分けているのだろう。

通路を挟んで南側のホームは富山軌道線(旧富山地方鉄道市内線)方面で、1番のりばが南富山駅前方面、2番のりばが降車ホーム、3番のりばが環状線方面、4番のりばが富山大学前方面と使い分けられている。富山軌道線から来て折り返す電車は南側ホームを使用する。北側のホームは富山港線(旧富山ライトレール)方面の電車が使用し、5番のりばと8番のりばが乗車ホーム、島式の6・7番のりばが降車ホームになっている。

観察してみると、富山軌道線内を運行する電車は南側ホームで折り返し、富山港線へ直通する電車は南側ホームを通過して北側ホームを使用する。富山港線から来た電車はすべて富山軌道線へ直通するため、北側ホームを通過し、南側ホームで乗降する。

南側ホームは方向別に使われているから、富山港線から来る電車も富山軌道線から来る電車も、目的地のホームに空きができるまで手前で待機している。そのため、単線の富山港線は富山駅電停の手前から複線になり、さらに両渡り線を設けるという珍しい配線になっていた。

しばらく眺めていると、電車の行先に規則性があって、巧みに入れ替わっていく。それも十分面白いけれど、ダイヤが乱れたときはどうなるだろう、と不謹慎ながらワクワクしてしまった。

富山駅電停は駅舎内の自由通路に面しており、新幹線・在来線の改札口を出ると正面に路面電車の乗降場がある。北九州モノレールの小倉駅と同じくらい未来感のある眺めだ。未来感といえば、北側ホームと南側ホームの間の歩行者用通路では、電車が通過するときに赤いLEDのラインが何本も光る。これも派手でかっこいい。

駅舎内の自由通路の2階に多目的デッキがある。ここからは電停を見下ろせる。無料のトレインビュースポットだ。買い物帰りの人々が休憩したり、高校生たちがおやつを食べながら宿題をしたりという風景が見られる。富山駅は交通の中心であり、市民の憩いの場にもなっている。

富山県には在来線、新幹線、路面電車、トロッコ、ケーブルカーなどさまざまな路線がある。富山県はこれらを観光資源として、国内外に魅力を発信する事業「鉄軌道王国とやま」を展開している。2015年にフォトコンテストを行い、2016年にオリジナルフレーム切手を販売。2017年にはポータルサイトを開設し、内容を充実させてきた。

「東京の渋谷駅みたいに、ずーっと工事をしていましてね。北陸のサグラダ・ファミリアなんて言う人もいます」

取材先でこんな話も出たが、旧富山ライトレールの富山駅北電停跡地を含めた一帯の整備が2022年に終われば、富山駅周辺整備は完了する。同時期に富山駅南西街区では、JR西日本系列のホテルを含めた大型商業施設が落成予定となっている。

富山駅周辺は、「鉄軌道王国とやま」のシンボルにふさわしい街になった。