鉄道線路に敷き詰められた石の缶詰が売れている。発案はえちごトキめき鉄道代表取締役社長の鳥塚亮氏。当初はえちごトキめき鉄道、銚子電気鉄道、天竜浜名湖鉄道の線路の石をそれぞれ缶詰にして、3個セットで販売したところ、たちどころに完売した。

  • ヒット商品「線路の石」。「えちごトキめき鉄道社長(いすみ鉄道前社長) 鳥塚亮の地域を元気にするブログ - 売るものがなければ夢を売れ!」より

その後、銚子電鉄と天竜浜名湖鉄道は独自に販売を開始。えちごトキめき鉄道は缶詰セット第2弾として、「えちごトキめき鉄道の石、銚子電鉄の石、真岡鐵道のSLの石炭」を販売した。さらに、「令和2年7月豪雨」で被災した「くま川鉄道のバラストの缶詰」の単品販売も始めた。それぞれの売上は石の仕入れ先に還元され、経営支援に充てられる。

天竜浜名湖鉄道も独自に販売継続を決定した。NHKや静岡朝日テレビの報道によると、缶詰の製造は焼津水産高校の生徒が行うという。同校では、水産加工実習のために缶詰の製造機を持っており、天竜浜名湖鉄道の協力依頼に学校として応じた。地元の若い人たちが鉄道を意識し、地域に貢献するという良い枠組みになっている。

それにしてもなぜ、「石の缶詰」を発案したのか。入社試験の面接のエピソードとして、「そこにある石をどう売りますか」という話も漏れ伝わる。しかし、まさか本当に大真面目に石を売る会社が現れるとは……。その理由について、鳥塚社長が公開の場で語った。

  • 銚子電鉄の竹本社長(写真左)と、えちごトキめき鉄道の鳥塚社長(同右)。映画『電車を止めるな!』の上映に合わせ、新潟県上越市の映画館でトークイベントが開催された

9月26日、新潟県上越市の映画館「高田世界館」で、銚子電鉄が制作した映画『電車を止めるな!』が上映され、同社代表取締役社長の竹本勝紀氏が登壇。えちごトキめき鉄道の鳥塚社長も登壇し、トークショーが行われた。

「石の缶詰」を作ったきっかけは、銚子電鉄の名物「まずい棒」の売れ残りだった。春の観光シーズンに向けて大量に仕入れたものの、感染症による外出自粛で売れ残り、賞味期限が近づいた。それをSNSなどで宣伝し、なんとか売り切った。しかし、まだ「ぬれ煎餅」が売れ残っている。食品を扱う限り、在庫は悩みの種だ。

「仕入れがいらないもので賞味期限がないもの。売れ残っても痛くもかゆくもないもの。そういうものを作んなきゃダメだよなーっていう話になって、なんだろうと思ったら、あ、そうだ線路の石だと」(鳥塚社長)

そんな思いつきだったが、じつは名案だった。会社経営と絡めて、鳥塚社長の説明が続く。

「貸借対照表ってあるじゃないですか。バランスシート。負債の反対側は資産なんです。負債を資産化すれば経営は良くなる。じゃあ、線路の石を缶詰にして、1個500円で売ったら、いままで負債だと思っていた線路が(笑)、どれだけ資産になるかと。お金がいくらでも落ちているわけです」(鳥塚社長)

真面目に言うと、線路も資産。「線路が負債」とは、赤字に悩むローカル鉄道を経営する鳥塚社長らしいジョークだ。

そして、石ならなんでもいい、というわけではなかった。じつは真面目に石を選んで製品化しているという。石は角のない丸い石で、入念に洗浄した上でワックスをかけている。しかし、現在の線路では丸い石を使っていない。岩を砕いた砕石を使っている。わざわざ丸い石を選んだ理由についても説明があった。

「昭和40年ぐらいまで国鉄は玉砂利を使っていたんです。そこから砕石にどんどん変えていった……ということは、玉砂利が残っている線路って50年60年経っている。半世紀以上にわたって鉄道の輸送を支えてきた石なんです。缶を空けて石を見ると、少し赤くなってるんです。昔の車両はブレーキをかけるとすごくわずかに鉄粉が飛び散ったんですね。いまは違いますけど」(鳥塚社長)

その石に雨が降ったり雪が降ったりして、鉄粉が錆びていく。長い年月をかけて、石は少しずつ赤くなっていく。

「銚子電鉄もえちごトキめき鉄道も昔から鉄道をやっている。いまでも玉砂利が残っている線路です。だから、つるんと丸くて、少し赤みを帯びた石を選んで送ってきてもらって、それを缶詰にしたんです」(鳥塚社長)

長年の風雪に耐えて鉄道の輸送をずっと守ってきた。鉄道を支えてきた石だ。

「それが缶詰になって500円(税別)なんですよ。安いでしょ(笑)」(鳥塚社長)

なぜ腐らない石を缶詰にするか。一体何に使うか。そんな疑問は野暮なツッコミだ。缶詰の中身が石というだけで面白い。石の缶詰が手もとにあるだけで、鉄道を身近に感じられる。先駆者的な缶詰としては、「富士山の空気」のような「空気の缶詰」があって、各地でお土産として販売されている。

空気の缶詰は、空けてしまうと周囲の空気と混ざってしまい、価値がなくなってしまう。しかし、石の缶詰は使い道がある。缶詰を開けて石を飾ってもいい。たとえば鉄道ジオラマの駅前に石を置き、なにやらいわくありげな巨石に見立ててもいい。盆栽に添えるとか、小さな座布団に乗せて棚に置くとか、使い方は人それぞれ。無限に可能性がある。

さらに、この石は鉄道の歴史を物語る。ただのアイデア商品ではなかった。そしてこのまま採集を続ければ、いつか在庫はなくなってしまうだろう。入手できるうちに買ったほうがいいかもしれない。

ちなみに、銚子電鉄の竹本社長から、「うちの缶詰の中には石の他におみくじも入ってます」という新ネタも披露された。運勢を知りたい人は開封してみよう。