JR北海道が開発した「線路も道路も走れる車両」DMV(デュアルモードビークル)が、いよいよ来年度から実用化される。運行路線は四国、徳島県と高知県にまたがる阿佐海岸鉄道阿佐東(あさとう)線。運行ダイヤや料金などの詳細は未定ながら、すでに3両のDMV車両がトヨタ自動車から阿佐海岸鉄道に納車済み。出番を待っている。

  • 阿佐海岸鉄道の車庫で出番を待つDMV車両(写真:マイナビニュース)

    阿佐海岸鉄道の車庫で出番を待つDMV車両

阿佐東線の終点、甲浦(かんのうら)駅では、線路に続くスロープの工事が進んでいる。甲浦駅まで鉄道の線路を走ってきたDMV車両は、タイヤを降ろし、車輪を格納して「モードチェンジ」。バスとしてスロープを下り、甲浦バス停で客扱いした後、街中へ進む予定となっている。

ハード面の準備が進む一方、世界初となる旅客用DMVの営業運転を観光に生かし、地域の発展をめざす取組みが始まった。9月25日、徳島・高知両県の官民か参加する「あさチェン推進会議」にて、沿線の視察と広報活動について話し合いが行われた。

  • 車内設備はマイクロバスとほぼ同じ

  • 甲浦駅はスロープ建設が進んでいる

■列車に乗り、観光予定ルートをバスで視察

まずは現状の阿佐東線の試乗体験が行われた。9時30分に甲浦駅に集合し、9時37分発のディーゼルカーに乗って海部駅に9時48分着。そのまま9時53分発の列車で甲浦駅に戻った。DMVの運行時は海部駅の1駅先、JR牟岐線の阿波海南駅が起点になるけれども、現在は海部~甲浦間8.5km、所要時間は片道11分である。途中駅は「伊勢エビ駅長」の宍喰駅のみ。

  • スロープは旧甲浦駅舎をかすめるように作られている。駅舎は再利用されるようだ

阿佐東線は鉄道建設公団が建設した高規格線路となっている。車窓は地形を問わず、トンネルと高架で町を結ぶ。高架区間は見晴らしが良く、トンネルを通り抜けるたびに海辺の町が近づいてくる。DMVで訪れる場合は乗車したまま、あの町に突入していく。海の風景、美食へと期待が高まると思われる。

車内では「初めて乗った」との声が多い。参加者約20名のうち3分の1、いや、半数くらいかもしれない。これは地方ローカル線だと驚くに値しない。ほとんどの人々は自家用車やバスを使う。通学経験者も現在は乗らない。今回は自分の住む町の鉄道を再評価する良い機会かもしれない。初めて乗った人々も、「高架から眺める我が町の景色」を楽しんでいるようだった。トンネルの長さは気になるけれども、マイナスではない。北越急行ほくほく線や門司港レトロ観光線のように、トンネル内を演出する方法はある。

次にマイクロバスでおもな観光スポットを巡る。海陽町の海沿いを走り、道の駅宍喰温泉、ふれあいの宿遊遊NASA、城満寺、松林と大里八幡神社、阿波海南文化村など約1時間半のコース。帰路は海洋自然博物館のある竹島、そして漁師町を通り抜けた。鉄道車両が通れない、地域の暮らしに密着した場所を経由するという面白さがある。

  • 阿佐海岸鉄道は徳島空港からも高知空港からも遠い位置を走る。観光客に向けた回遊ルートを提案していきたい

■いまのうちに全国行脚でPRしてはどうか

「あさチェン推進会議」の「あさ」は「阿佐」という地域、「チェン」は「チェンジ」をかけたという。DMVの機能「モードチェンジ」、DMVによって地域を変える(チェンジ)の意味が込められている。「あさ」がひらがなになった理由は、「はじまりの朝」も意味しているようだ。同会議は「広報誘客部会」「観光戦略部会」「現行車両活用部会」「お土産飲食部会」の4つを柱としている。

今回は「広報誘客部会」の取組みで、構成メンバーは東洋町観光振興協会、海陽町観光協会、東洋町商工会、NPO法人WRP(ウォーターズ・リバイタルプロジェクト)、NPO法人あったかいよう、一般社団法人四国の右下観光局。オブザーバーとして徳島県南部総合県民局、高知県産業振興部、海陽町商工観光課、海陽町まち・みらい課、東洋町役場総務課、一般社団法人高知県東部観光協議会、高知新聞社、徳島新聞社、テレビ高知、四国放送が参加した。また、筆者も鉄道観光アドバイザーとして参加し、同時に取材の機会を得た。

視察後は東洋町観光振興協会にて、今後の方針について話し合った。基本的な合意事項として、当会議ではDMVを「おもしろい乗りもの」としてとらえ、広報活動の中心に据えていく。筆者からは、鉄道と観光の関わり方について説明した上で、ローカル線と地域との関係は「乗らない人も関わることで楽しいと思う枠組みが必要」と、JR西日本の木次線と沿線の人々の取組みを紹介した。観光客だけでなく、地域の人々も楽しいと思えば、持続的な取組みになる。阿佐東線もそうなってほしい。

広報活動として、「定期運行が始まる前に、DMV車両を全国行脚させてはどうか」という大胆なアイデアが出され、前向きに検討していく方針となった。すでに四国内で出張展示する構想もあるとのこと。営業運転が始まったら、DMV車両はこの地域から離れられない。鉄道をPRするときに、車両を自走して連れて行くなんて、他の鉄道にはまずできない。DMVならでは、しかもいまだけの企画だ。

3台のDMV車両は3カ所の倉庫に分散して保管されている。そのまま置いておくなんてもったいない。四国八十八箇所を巡らせようとか、東京まで走らせれば経由地で鉄道ファンが撮影してくれるかもしれないとか、いっそ、DMVの「ふるさと」JR北海道へ挨拶に行こうか……などとアイデアを出し合い、盛り上がった。レールがなくても鉄板を敷けばモードチェンジの実演も可能とのこと。まずは訪問先を探していく。早速、10月5日に徳島県内でDMV3台完成記念イベントが行われる。

阿佐東線が走る徳島県海陽町、高知県東洋町は隣り合っていながら、これまで共働する機会が少なかったという。阿佐東線は短い路線だけど、DMVの運行によって阿波と土佐を結ぶ絆になる。もちろん、DMVは国内外の鉄道ファンや旅行ファンからも期待されている。生まれ変わる阿佐東線と、DMVのおもしろさを追求する「あさチェン推進会議」に期待大だ。